第123話:織斗と異形のもの
ここだけが全くの別空間と言っても過言ではない。暗き闇が払われ、
優美でありながら
(
本音を言えば、姿を見たいに決まっている。見てはいけないと想えば想うほどにだ。
(
それでも織斗は既に知ってしまっている。比較してはならない美は確かに存在する。その
優季奈に強烈な嫉妬心を向けられようとも、こればかりはどうしようもないのだ。人としての、男としての性なのだろう。
≪
織斗の思考は筒抜けだ。
≪
織斗は眼前に広がる
黄泉殿がすぐ目の前にありそうで、
≪乗りなさい≫
織斗の足元にまで迫った池の
織斗が乗り込むなり、ゆっくりと動き出す。
水を切って進む音、
織斗は残ったうちの一つ、触覚を確かめるため、池の中に手を入れてみる。
(あとは味覚のみか。
≪理解しているようで何よりです。もちろん、それだけではありません≫
水の冷たさを感じつつ、織斗は手を引き上げた。
小舟はゆっくりと進み、
実際に
まさに、女神の威光と呼ぶに
≪
正門から入る。それは
織斗はそびえ立つ
「貴様が風向織斗か」
ふいに名前を呼ばれ、織斗は視線を下ろす。
目の前に
姿は明らかに人のそれではない。五体の区別はなく、ただ薄い影が光の中で揺らめき、
織斗はただ首を縦に振って
「これより、貴様を
最後の言葉で、異形のものは己の立場を明らかにした。すなわち、異形のものが目上で、織斗が目下だ。
正式に招かれているとはいえ、ここではそういった関係になるらしい。
織斗には、もはや恐れも驚きもない。既にここまでの道中で十分すぎるほどに感じてきたからだ。
異形のものが動き出したところで、織斗も後に続こうと歩を進めようとした。すかさず
「正門中央部を通るでない。そこを通ってよいのは女神様のみぞ」
織斗は慌てて足を引っ込め、正門
「
本気か冗談か、真意が全く
正門の左端を慎重に
足を踏み入れるなり、いきなり雰囲気が変わった。
じっくりと観察されているようでもある。少しでも変な
前を行く異形のものは振り返りもせず、一定の速度をもって動き続けている。
迷路構造というだけあって、単純な道は一本たりとも存在しない。歩く
織斗は何とか道を覚えようと試みたものの、早々に
相変わらず、時間感覚だけは取り戻せないでいる。
「
気のせいだろうか。
「一分一秒が大切な俺には理解できないかもしれません。でも、理解したいと願っています」
異形のものの表情がわずかに
「貴様は不思議な
織斗は続きの言葉を待った。それが出てくる前に、異形のものは再び前に進み始める。
織斗自身、自分の臭いなど感じ取れない。そのうえ、魂に起因するなどと言われても理解できるはずもない。にもかかわらず、二の腕辺りを鼻に当てて臭いを確認している。
「遅れるでない。
二度目の叱責を食らって、織斗は慌てて異形のものの後を追った。
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