第119話:女神の美と優季奈の嫉妬心
「織斗君、今から予想できる展開ってやっぱり」
優季奈が遠慮がちに問いかけてくる。
二人の背後には、実体を
青年期の季堯は
≪
想わず声を出そうとした優季奈の手を織斗がそっと押さえる。
≪それでは、この本殿こそが≫
織斗の
≪そうだ。この
言われるまでもなく理解できる。
幽世にあって、それほどまでに異質で、
≪幽世において、言葉を発するのは女神のみなのだ。それが摂理でもある。そなたらも、ここに来るまでに見たであろう。
視覚で
≪季堯様、織斗君と私は、これからどうなってしまうのでしょうか≫
季堯に答える
≪私は先導役にすぎぬ。今この時をもって、その役目も終わった。ここから先、そなたたちがどうなるか、私にも分からぬ。ただただ、
厳しさの中に優しさを閉じ込めたような口調で季堯が優季奈に語りかける。
優季奈も織斗も、それ以上は何も聞けないと
≪季堯様、ここまで連れて来ていただき、ありがとうございました≫
二人して頭を下げる。
心の
「済まない。力になってやりたいところだが、私の力の及ぶ
魂だけの存在とはいえ、生きて幽世に下りてきていること自体が奇跡と言っても過言ではない。
どう
三人から見て、本殿最奥の左扉が音もなく静かに開き、
先ほどとは
今は朔玖良神社の象徴とも言うべき、
優季奈はわずかに嫉妬心を
織斗に対しては、やはり女心そのままに、強く腕をつねることも忘れていなかった。
あまりの痛みに声を上げそうになった織斗が何とか
慌てて優季奈の横顔に視線を振った途端、そっぽを向いてしまう優季奈がたとえようもないほどに可愛く想えた。
≪優季奈ちゃん、ごめん≫
あちらを向いてしまった優季奈の
織斗がそうであるように、優季奈も織斗が誰よりも好きだからだ。
≪もう、織斗君なんて知らないよ≫
織斗が言葉を継ごうとしたところで、再び鈴の音が打ち鳴らされる。いつの間にか、
「我が愛し子よ、許してあげなさい。私を見れば、
まさしく女神の余裕というものなのだろう。
「
織斗の心の内は
織斗は深く一礼、身体ごと優季奈に向ける。
「優季奈ちゃん、俺を見てくれないか」
織斗のはっきりした意思表示に驚きつつ、このまま意地を張っているわけにもいかない。
(織斗君に子供っぽいと想われるのはいやだし、嫉妬深い女だと想われるのはもっといや)
優季奈は小さなため息をつくと、ゆっくりと身体を戻し、織斗と向き合う。
「俺の一番大切な人は、優季奈ちゃんだから。俺にとって、優季奈ちゃんだけだから」
全然変わっていない。
優季奈は入院当時のことを想い出している。あの時から、織斗は優季奈の目を見つめて、真っすぐに語りかけてくれた。
顔立ちは少年から青年に変わっていても、本質はそのままだ。
「でも、でも、
これは完全に織斗を困らせてやろうという優季奈の意地悪だ。優季奈自身、わかっていながらも、言葉にせずにはいられなかった。
「ごめんね、織斗君、私、本当にいやな子だ。また我がままを言って、織斗君を困らせてる」
口にしてしまってから後悔している優季奈を織斗は優しく見つめている。
「前にも言ったよ。俺にだったら、いくらでも言ってくれていいんだ。それもひっくるめての優季奈ちゃんなんだ。俺はそんな優季奈ちゃんが誰よりも大切だから」
≪季堯、私は今でも時折想い出すのです。季堯は懸命に私に訴えかけてきましたね。私と季堯では住む世界は無論のこと、存在意義そのものが異なる。それでも、季堯は
季堯は無言で聞き入っている。
≪時に人の願いは強すぎるあまり、己の心さえ壊してしまいます。一時期の季堯も、そうでしたね。願いを全て叶えられるなら、叶えてやりたい。ですが、神々にもできないことは山のようにあるのです。時として
季堯の表情が明らかに曇っている。驚愕というより、むしろ困惑の色が濃い。
≪
錯覚だっただろうか。一瞬で消え去っていた。
≪分かっていますよ。このようなこと、季堯の前だからこそ、私も口にできるのです≫
絶句する季堯を楽しそうに見ている
≪この二人には辛い想いをさせてきました。我が愛し子には、女神として、また母として、できうる限りのことをしてあげたいと想っています≫
≪風向織斗、立ちなさい。そなたには、今から別の場所へ
いよいよ、この時がやってきたのだ。
≪その前に、私からの試練を受けてもらいます≫
女神の視線に
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます