第118話:誕生日祝いと幽世の秘宝
後に続く
(そうか。そうだったんだ。だから、俺は)
織斗の心の想いは、そのまま
「
柔らかな微笑を浮かべている
織斗は並んで歩く優季奈の横顔を見つめた。熱い視線を寄せられ、優季奈がいささか居心地悪そうにしている。
「お、織斗君、そんなに見つめないで。恥ずかしいよ」
(俺、そんなに優季奈ちゃんの顔を凝視してたのか。でも、仕方がないよ。優季奈ちゃんなんだから)
「仲がよくて結構です」
朔玖良神社全体が
「ここには私の許しを得たものしか立ち入れません」
朔玖良神社内は、たとえるなら女神の聖域だ。足を一歩踏み入れた時から優季奈と織斗は
二人にもようやく実感できたのだろう。ここまでの緊張が嘘のように
「私は本殿に入り、用事を済ませてきます。季堯、あなたも一緒に」
取り残されそうになっている優季奈と織斗は戸惑いの色が隠せない。
「ここにある全ての
「あの時に果たせなかった約束を果たすに、よい機会となるでしょう。満開の櫻樹たちも、そなたたち二人を歓迎しています」
想いもよらぬ言葉に、優季奈も織斗も思考が停止しているのか、立ち尽くしている。
「しばし、二人でゆっくりなさい」
黒猫の季堯を伴って
「織斗君」
「優季奈ちゃん」
優季奈と織斗は咲き誇る櫻樹に目を奪われながら、同時に互いの名前を呼んだ。
「織斗君から先に言って」
「優季奈ちゃんからどうぞ」
またも言葉は同時だ。二人は顔を見合わせ、場違いにも
「
織斗の
一度目は優季奈の死によって断たれた。
二度目は現世に戻れたらの話だ。可能性は残されているとはいえ、優季奈の一年という寿命が尽きる先、神月代櫻が満開になるかは誰にも分からない。
「満開の神月代櫻の下で優季奈ちゃんの誕生日を祝いたい。でも、そんな願いも、あの日を境に永遠に奪われてしまった」
この三年間、織斗の心からその願いが消えたことはない。たとえ奪われても、想いは決して失われない。
「それが今、ようやく叶ったよ。しかも、幽世で、神月代櫻の親樹の下でね」
互いに握り合った手に力が
織斗は大胆にも優季奈を抱き寄せ、腕の中に包み込む。
「優季奈ちゃん」
織斗の胸に顔を
「遅くなってしまってごめんね。十五歳の誕生日、十六歳の誕生日、十七歳の誕生日、そして十八歳の誕生日、おめでとう」
優季奈は小さく肩を
「織斗君、ありがとう。本当にありがとう。私ね、とても幸せだよ」
優季奈も織斗も、ずっとこのままでいられたらと願わずにはいられない。
優季奈は十九歳の誕生日直前に寿命が尽きる。
それを考えるだけで、胸が張り裂けそうだ。
織斗は優季奈を抱きしめながら固く
◇◇ ◇◇◇ ◇◇ ◇◇◇ ◇◇
本殿内で優季奈と織斗を見つめていた
黒猫姿だった
「季堯、先に申したとおり、私は満足しています。この二人をよくぞここまで連れてきてくれました。私のできうる限りにおいて、そなたの望みを一つだけ叶えてあげましょう」
女神なら、
あの時の後悔は、今なお引きずっている。二度と口にしてはならない。
「
柔らかな微笑の中に、これまで見られなかった冷たさ、怒りといったものが感じられる。
季堯は即座に己の言葉が
「季堯、私がそなたの一番の望みを知らないとでも思いましたか。
季堯は己の
「
季堯は
つい今しがたまで存在しなかったものが本殿中央部に出現している。
「
縦長
「私が今一度、鈴を打ち鳴らせば、鏡面の漆黒は
季堯は恐ろしかった。ここで最も逢いたかった者を見てしまうと、もはや二度と
そして、もう一度、さらにまた一度と、逢いたい気持ちが際限なく
「一つだけ忠告しておきます。映し出されるものは、そなたの記憶の中にあるもの、すなわち
季堯は全く動けなくなっている。
「季堯、いずれかを選ばなければなりません。決めるのはそなた自身です」
逢いたい。最愛の亡き妻に心から逢いたい。
その想いは強固で、迷いはない。問題はその後なのだ。
それに、外にいる優季奈と織斗のことも気がかりだ。むしろ、今回の主役は二人であり、季堯は脇役に過ぎない。
「
同時に視えている。
黒猫の体内で生を維持する季堯の魂は近いうちに消滅を迎えるだろう。そうすれば季堯は
「それがそなたの決断なら、私は何も言いません」
その言葉の中に様々な想いが
「季堯、そなたほどの者なら気付いているでしょう。
今この時に逢えずとも、既に千年以上も待っているのだ。いずれ、その機会は訪れる。
唯一
「佐倉優季奈、風向織斗、二人を本殿に招き入れます」
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