第110話:顕現の時
これで二人の女神の話が円滑に進められるだろう。もちろん、これまで以上に理解し
それを差し置いても、
橙一朗にしてみれば、
≪申し訳ないのじゃが、皆様にこれらの御方のご
顔など見なくても問題はない。聞きたいのはこの女性たちが誰で、どんな目的があるのかだ。
≪それで結構です≫
いよいよだ。ここまで長い時間をかけてきたのは、あくまでも準備のためであり、ようやく本題に入る準備が整った。
≪皆様の覚悟、しかと見せてもらいましたでな。儂も
大人たちの顔に緊張が走る。大きく息を
≪まずは、幼き優季奈さんの後ろにお立ちであった女神様、その御名は
沙織が口を開く。この分野は沙織の独壇場だ。
≪
橙一朗が感嘆の声を上げそうになっている。彼ら五人を前にして、驚かされることばかりだ。まさか目の前に
≪奥方はお詳しいのですな。
大きな音を立てて椅子が後ろに倒れる。
「ふざけたことを言わないで」
護符から手を離すなり、勢いよく立ち上がった
「お母さん」
キッチンにいる優季奈が不安そうに母の後ろ姿を見つめている。
四人ともが一瞬
意味不明な女神の話に加え、優季奈の寿命が定められていたなどと言われれば、誰しもが
「美那子、落ち着け。椅子を戻して座るんだ」
兄の声を聞いても冷静にはなれない。先ほどまでは自らの実体験による記憶だったこともあり、何とか落ち着いていられた。
「兄さんはこんな馬鹿げた話を
美那子の声はさらに大きくなっていく。手刀はなおも長卓にめり込んだままだ。
声は護符を通じたものではない。直接口にしている。優季奈たちに
「しかも、優季奈の」
「美那子」
「優季奈に聞かせるべきではない」
美那子にだけ聞こえるほどの小さな声で
優季奈はこの事実を知っているかもしれない。恐らく知っているだろう。それでもここであえて聞かせる必要は皆無だ。
「私も神話の女神が現れたなど
鞍崎慶憲は護符に手を置いたまま言葉を発している。橙一朗にも、この場にいる全ての者にも聞かせている。
そのまま顔だけを後方のキッチンへ向ける。
視線の先にいるのは優季奈だ。すぐ後ろには、肩に両手を置いたままの綾乃もいる。
(まるで姉妹のようだな)
優季奈の反応を待たずに視線を戻した鞍崎慶憲が橙一朗に尋ねる。
≪路川さん、あまりに
失礼は承知のうえで、あえて強い口調にしている。
鞍崎慶憲は橙一朗に突き付けている。こちらが十分に納得できるだけの明白な証拠を出せと。
≪もとよりそのつもりですじゃ。少し長話になりますが、これを話さずしては何も始まりません。路川家そのものの歴史を聞いていただけますかな≫
≪どうぞ進めてください≫
鞍崎慶憲が全員の意思を代表して応じた。
およそ一時間はかかっただろう。相当に
≪路川さん、路川家の歴史が壮大だということはわかりました。神月代櫻が植わっている一帯を
言葉を発したのは利孝だ。彼を含めた五人の聡明さは理解している。だからこそ、当たり前のようにこの質問が来ることは理解している。
橙一朗は最後まで聞く必要もなかった。
≪儂が語った初代様のことですな≫
歴史に明るくなくとも、昔の人々の生活は神、とりわけ
また、神との対話や交流を
≪そういった歴史を考慮したとしても、路川
橙一朗の意識がまたもや途切れ、
≪初代様、儂が場を作りますでな。整い次第、お願いいたしますじゃ≫
一度の
橙一朗はいっそう強く護符に念を送り込み、顕現のための場を展開した。
≪
五人が五人とも、いきなりの出来事に面食らったか、護符から指を離してしまっている。
何も問題はなかった。路川季堯の力は路川家最強であり、随一でもある。護符などを通じなくとも、対象者の脳裏に言霊を刻み込める。
≪お初にお目にかかる。
正円内に浮かび上がる人物を前に、誰もが
それはキッチンで事の成り行きを見守っていた優季奈や綾乃、織斗、
その中で唯一、沙希の反応だけが異なっている。
「そんな、嘘。ネロ助が、初代様って。えっ、いったいどういうこと」
冷静沈着な沙希もさすがに
佳那葉の影響を大きく受けているからなのか、あるいは
≪沙希、
百面相のごとく、豊かに表情を変えていく沙希をさも愉快そうに、そして愛情をもって見つめる季堯だった。
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