第097話:五人は一蓮托生の仲
週が明けた月曜日、昼休みを迎えた教室で
一泊での女子会は様々な意味で大いに盛り上がった。
教室の中を
「沙希ちゃん」
優季奈の声に教室の誰もが驚く中、沙希は真っすぐ二人のもとにやってくる。
「えっ、今、沙希ちゃんって」
小声で
その様子を眺めながら、優季奈たちから少し離れた位置にいる
「驚くのも仕方ないな。俺以外の奴には絶対に下の名前で呼ばせなかったからな。それがいきなり、ちゃん付けだもんな」
沙希には、その容姿と性格から孤高の王子様などという、ありがた迷惑な異名がついていたりする。
綾乃も
「
二人の前にやってきた沙希が声をかける。
優季奈を呼ぶ際、少しの間があった。勢いのままなら、間違いなく
「私も沙希に連絡しようと想っていたところだったの。ちょうどいいわ。屋上でどう」
答えるまでもないとばかりに沙希は早々に背を向けて教室を出て行こうとする。
ここまで短時間ながらも沙希と深く接してきたのだ。性格は綾乃も優季奈も把握している。
立ち上がった優季奈が織斗と汐音に視線を向ける。綾乃も同様だ。沙希に確認するまでもないだろう。既に五人は
「汐音、
先を越された。沙希もまた綾乃と優季奈の性格をしっかり理解している。
教室内の沈黙が
綾乃、汐音、織斗の三人なら、誰もが
その三人にさらに優季奈と沙希が加わっている。他の生徒からしてみれば、五人の関係性が全くわからない。
沙希はまだしも、優季奈は転入早々に大事件を起こし、表面的にはともかく、
「鞍崎さん、気にする必要はないわ。行くわよ」
綾乃に促されて優季奈が一緒に教室を出て行く。
「じゃあ俺たちも行くか」
少し遅れて汐音と織斗も立ち上がると、既に教室から消えた三人の後を追った。
六月上旬、雲一つない空に太陽が輝いている。屋上に降り注ぐ陽光は温かさを通り越して、熱を感じるほどの暑さになっている。
ひと足先に到着していた女性陣は物置小屋の影に入り、陽光に当たらないように気をつけている。紫外線対策は十分といったところか。
汐音と織斗が三人に手を挙げながら近づいてくる。
「沙希、待たせたな。俺から先にいいか」
沙希はもちろん、綾乃にも優季奈にも異論はない。
「アメリカの
優季奈が不安そうに尋ねる。
「ありがとう、
「佐倉さん、十八歳になっているよな。だったら不要だよ。なってなくても、俺が叔父さんに言い含めているから大丈夫だよ」
どのみち両親にはいろいろと話さなければならない。それは織斗にも言える。
「綾乃、先にどうぞ」
昨日、日曜の夕方に別れて以降、綾乃主導で次に集まる日時を調整してきた。
優季奈と織斗、それぞれの両親への説明と意向確認、それ以外の関係者はどうするのか、また
そこで綾乃は一石二鳥とばかりに優季奈の叔父で響凛学園高等学校副理事長でもある鞍崎
これを短時間でまとめ上げた綾乃の手腕は
「今週の土曜日午前九時に鞍崎副理事長のご自宅に集合となったわ。優季奈と風向君のご両親、真泉君、沙希、そして私の都合十人という大所帯だけど、副理事長は快く引き受けてくださった。優季奈が頼み込んでくれたからよね。ありがとう」
優季奈の頼みを鞍崎慶憲が断るはずもない。しかも重要な話だと告げている。
そして、綾乃には幾ばくかの打算がないわけではない。鞍崎慶憲の自宅には夢のような紅茶葉がそろっている。そちらも綾乃にとっては重要だった。
「叔父さんの家に行けば、また綾乃ちゃんの美味しい紅茶が飲めるね」
一切の悪気なく、それでいて爆弾を投下する優季奈に、綾乃は一瞬言葉に詰まる。それを沙希が見逃すはずもない。
「また、またね。さしづめ、綾乃は紅茶が、いえ、紅茶も目当てなのね」
汐音と織斗はあえて口は開かない。開けば、ろくでもないことになりそうなのが目に見えている。
「そ、それもあるけど、って違うわよ。一番大切なのは優季奈と風向君の
綾乃の後を汐音が引き取る。
「あまりにファンタジーすぎてさ、大人は話を信じてくれないかもしれない。さすがに織斗のご両親でもな。この話を聞けば、十中八九反対するだろう。だけど、織斗、お前の意思は変わらない。なら、俺は織斗の親友として、ご両親を説得するために全力を尽くすだけだ」
汐音が同意を求めて綾乃に視線を傾ける。
「もちろんよ。私も同じ気持ちだから。優季奈のご両親にはまだお逢いしたことはないけど、優季奈のお母様は鞍崎副理事長の妹さんなのでしょ」
優季奈に
もし、優季奈の両親が反対したなら、鞍崎慶憲から説得してもらうことも可能かもしれない。綾乃はそう考えているのだ。
「私のことで反対はしないだろうけど、きっと織斗君にはだめと言うと想う。お母さん、織斗君を本当の息子のように想っているから」
優季奈を失ってからの三年間、織斗は優季奈の命日には欠かさず佐倉家を訪ねて行った。それが大きく影響しているだろう。
「優季奈ちゃん、美那子さんには俺の想いをしっかり話すから。理解してもらえるよう心から訴えるから」
力強く断言したものの、説得できる確実性はどこにもない。いずれの両親も
「そこで沙希に相談なのよ。
優季奈と織斗への長時間の話がやはり
「私からの話もそこよ。お祖母ちゃんは絶対無理よ。今朝も電話してみたけど、まだ寝込んでいるし、かなり無理が祟ったみたいね」
沙希の顔がいささか怖い。眉を上げたことからも怒っているのはわかっている。
「沙希ちゃん、ごめんなさい。私が佳那葉さんにご迷惑をかけてしまったから」
「それは俺も同じだよ。路川さん、本当にごめん」
二人して頭を下げてくる。沙希は大きくため息を一つつくと、言葉を
「頭を上げてよ。これだとまるで私が二人を責めているみたいじゃない。お
今度は綾乃が先ほどの発言について謝罪と共に頭を下げてくる。
「ごめん、沙希。私も無責任な発言だったわ」
路川家本家の二人、しかも
「かえって
沙希の心の内はすっかり橙一朗に読まれていた。今朝、電話した際に言われたのだ。
「
続けてこうも言われた。
「儂が以前に渡した
(ほんと、お
苦笑と共に沙希は力強く断言した。
「当日は私が路川家を代表して、そして次期櫻守として話をするわ。もちろん、話せる範囲においてだけど」
四人が四人とも沙希を
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