第094話:織斗の秘密と幽世に下れる可能性
どれほどの時間、気を失っていたのだろう。ようやく意識を取り戻した
(私、布団に寝かされている。またみんなに迷惑をかけてしまったんだ。私、何をやっているんだろ)
部屋は薄暗く、周囲の状況がよくわからない。そんな中、右手に心地よい温もりを感じている。
「よかったわ。目が覚めたのね。心配したのよ」
「佳那葉さん、ごめんなさい。私、またご迷惑をかけてしまいました」
わずかに握った手に力がこもる。
「優季奈さんは何も迷惑をかけていないわよ」
佳那葉には優季奈の心情が手に取るようにわかる。
(心の優しい娘ね。
優季奈の反応から、
「夫から話を聞いたわね。幽世の
小さく
「私、どうしていいのかわらかないんです。奇跡は一度きり、二度も起こらない。ずっとそう想っていました。でも、今は」
目の前にその機会がぶら下がっている。飛びつきたいのに、
≪
いつの間にこの部屋に戻ってきていたのか、
黒猫の姿の彼は、部屋の角に置かれた自分の
≪過去に何が起こったのかまではわかりませんが、私にもようやく視えました。初代様が言うところの光明が何を意味するのか。だから、同時に二人もの≫
織斗に何が起こったのか、知るのは路川季堯のみだ。
佳那葉になら、正確なところを語ってもいいだろう。
佳那葉は路川家の
≪そうだ。そもそも、風向織斗はあの場にいてはならぬ者だった。本来、
佳那葉は何も応えず、季堯の言葉を待っている。
≪
通常ではあり得ない事態だった。
神月代櫻の結界内には特別な者しか立ち入れない。
それは三種の存在、二種は路川家代々の宮司と櫻守だ。もう一種は
佐倉家の三人が、そろって満開の神月代櫻を訪れたのは偶然ではない。全てが
≪風向織斗が
ここでようやく佳那葉が口を開く。
≪だから、風向さんには
皆まで言う必要はない。何が起こったのかは佳那葉も理解できているだろう。季堯はそれを追認するだけだ。
≪まだ三歳にも満たぬ弱々しい命だ。結界内に入るや、失われたであろうことは容易に想像できる。だからこそ、
これで納得できた。
沙希と一緒に、神月代櫻の下で
佳那葉の目が
織斗は既にあの時、死を
≪櫻守たる私の責任でもあります。あの満開の下、神月代櫻の結界内にいる優季奈さんにしか私も気づけませんでした。風向さんは、もしかしたら優季奈さん以上に、死がすぐ
恐らくは佳那葉の推察どおりだろう。
神月代櫻の結界内は幽世の入口でもある。そもそも、結界の役割は忌避感、恐怖心を与えることで生者の侵入を
≪想定外の事態により、
佳那葉は心の中で深くため息をついた。よもや幼き二人にこのようなことが起こっていたとは想像を絶する。
≪
路川季堯も佳那葉同様に深いため息をつき、あくまで私見だと前置きをしたうえで言葉を
≪私はそう想っておる。言葉は不適切だろうが、上位であられるあの女神様であろうとな。
季堯の言葉に頷きつつも、佳那葉な大きな可能性をはっきりと見出している。
これなら二人して問題なく幽世に下れるのではないか。織斗のこの先の寿命については、誰にも予測できない。
≪初代様、風向さんもまた優季奈さんと同じく一度死んだ身なれば、再び幽世に下れる可能性は≫
突然、黒猫が鳴き声を発する。
佳那葉以外に誰もいないと想っていた優季奈は、可愛い悲鳴と共に飛び起きた。
「驚かせてごめんなさいね。大丈夫よ、優季奈さん。我が家の守り神様よ」
優季奈が胸を押さえながら、鳴き声の方に身体を向けて応える。
「黒猫ちゃん、びっくりさせないで。心臓が止まるかと想ったよ」
ゆっくりと歩き出した黒猫が優季奈にわずかに視線を走らせ、佳那葉のもとへ近寄っていく。
≪早宮埜、この娘に語るか
重そうに見える
「あっ、黒猫ちゃん、行っちゃいましたね。上手ですね」
ゆっくりと起き上がった佳那葉が優しげな笑みを浮かべている。
「明るいところで見たらわかるわよ。
開いた本襖の隙間から光が差し込んでいるものの、そこまでは確認できなかった。
「優季奈さん、今から貴女にだけ風向さんの秘密を教えるわね。私にも全てはわからないから教えられる範囲でね。それを聞いたうえで、風向さんとどうするのか、じっくり考えてみなさいね」
優季奈は驚きの眼差しをもって佳那葉を見つめる。
「織斗君の秘密」
同時に佳那葉の言葉を無意識のうちに
「結論から言うわね。優季奈さんと風向さん、二人はそろって幽世に下れるわ。なぜなら、優季奈さんと同じ、風向さんも一度死んでいるからよ」
優季奈の顔が
「う、嘘、ですよね。そんな、織斗君が、私と同じ、そんな」
佳那葉が嘘をつく理由などどこにもない。
それでも俄かには信じられない。まだ気を失わなかっただけましか。
優季奈は思考がまとまらず、言葉にならない言葉を
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