第089話:月読命と満月と月の雫と
その様はさぞや幻想的だろう。
(優季奈ちゃんの生き返り、この目で見られなかったのは返す返すも悔しいな)
「
恐らくは間違いないところだろう。
朔玖良神社だけではない。もう一つ、絶対に欠けてはならないのが
朔玖良神社を
「佳那葉さん、お話を
佳那葉に断る理由などない。二人が導き出した推論には大いに興味をそそられる。先ほどからの二人との会話から
佳那葉はただ
「
織斗の言葉を引き取って、今度は優季奈が言葉を発する。
「次は
その大前提とは、神月代櫻が満開を迎える時季であり、さらに空に満月が輝いていることだ。この二つの条件がそろってこそ、次なる段階へと進める。
「前提条件が整ったうえで、
織斗が引き取った言葉を佳那葉は真剣な面持ちで聞いている。優季奈の足元でじゃれているように見える黒猫も同様だ。
黒猫の正体は
「
慌てて言葉を継ぎ足す優季奈に織斗が、大丈夫だよと優しく声をかけている。確かに
「ここで優季奈ちゃんが語ってくれた言葉が生きてきます。『神月代櫻は生命の大樹、それが本当の姿だって。願いの強さと深さ、その二つが神月代櫻に伝わった時、二つの世界を一つとするべく架け橋ができる』ということです」
かくして神月代櫻は
「
優季奈の言葉に織斗が大きく頷いている。
ここでようやくもう一つの大切な要素が加わってくる。
月の
一パーセントにも満たない成功率は、偶然が幾重にも合わさった結果でしかない。
「私は月の雫こそが優季奈ちゃんの身体を作ったのではないかと考えています。全くの当て推量ですし、原理などもわかりません。
これなら優季奈が全く寒さを感じないと言った理由も理解できる。
織斗と優季奈、二人して、どうでしょうかと尋ねかけてくる。佳那葉はもはや
≪初代様、何と素晴らしい若者たちでしょう。この二人なら試練にも≫
今の今まで優季奈の足元でじゃれていた黒猫が素早く離れ、
≪そなた、本気で言っておるのか。確かに、先にも言ったとおり、二人は
さすがに看過できない。神の定めた摂理は絶対だ。
≪そなたは
これまで一度たりとも路川
≪お言葉を返すことになりますが、その摂理を覆そうとなされたのは、誰あろう初代様ではありませんか≫
痛いところを突かれたか。黒猫は息が詰まってしまったかのような鳴き声を発している。
≪若気の至りだったのだ。私とて愛しき者を失った哀しみを経験しておる。だからこそ逢いたい。願いが叶えば、また次の欲が芽生える。人とはそういう生き物だ。私は
路川季堯は生まれ持ったすさまじい霊力によって、幼き頃より神々と対話できる稀な存在だった。異端児とも呼べる彼は
季堯が朔玖良神社の宮司となり、
司る力は無論のこと、女神でありながら
≪
≪亡き妻にもう一度逢いたい。私は異端児でも何でもない。他人よりも少し力があるだけのただの人だ≫
季堯を哀れに想ったか、木花之佐久夜毘売はその術を語って聞かせた。それは到底信じ難い内容だった。
≪神が口になさる言葉はまさしく
二度と逢えないと想っていた最愛の者と
季堯が口にしたとおり、不遜にも
≪
その方法こそが櫻樹伝説へと繋がっていく。
「風向さん、優季奈さん、お二人の推論は賞賛に足るわね。補足が必要な部分もあるけど、私のこれからの話を聞けば十分でしょう。沙希から言葉だけは聞いているわね」
幽世に下った櫻姫と現世でその死を嘆き悲しむ一人の男の物語だ。
佳那葉の口から静かにゆっくりと紡ぎ出されていった。
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