第073話:死者蘇生と寿命延長
(これ、どう見ても可愛い妹を褒めたたえている姉の目よね。優季奈を前にしたら、綾乃でなくても。どうも不思議な感覚ね)
わざとらしい咳払いを一つ、沙希が優季奈に問いかける。
「優季奈は
そこまで詳しくないと言いつつ、優季奈は要点だけをまとめて端的に答えた。
「本来は国家
沙希が
「そうね。泰山府君こと
沙希はその辺の内容が完璧に頭に入っているのか、何も見ずに淀みなく答えていく。
綾乃は素直に想った。本当にもったいななあと。本気を出せば
「優季奈、すごいね。この時代の歴史の話は綾乃となら突っ込んでできそうだけど、陰陽師を絡めてとなると無理よね」
沙希の視線を受けて、綾乃が渋々といった様子で仕方なさそうに頷いている。
「私が古文書で調べた限り、
優季奈が首を
中世の陰陽師たちにとって、泰山府君祭は
「優季奈は死者蘇生ではなく、寿命延長だと考えているのでしょ。半分正解、半分不正解よ。古文書に記されているの。死者を現世に呼び戻し、さらに寿命を授けるために執り行われたってね」
沙希の言葉に優季奈は息を呑む。
「神月代櫻を舞台に泰山府君祭、でもこの儀式では死者復活は考えられない。そうだよね、沙希ちゃん。もしかして、その二つに成功したという記述があったりするのかな」
期待半分で優季奈が問いかける。
「あるわ」
「ないに決まって、えっ」
沙希と綾乃、同時に発した言葉が
「それ、本当なの。具体的には何と書かれているのよ。気になって仕方がないじゃない」
せっついてくる綾乃を微笑ましく見ている優季奈、さも面倒そうにあしらう沙希、実に好対照だ。
「これから説明するんだから
沙希が釘を刺してくる。過度に期待するなということだろう。
「ねえ、沙希ちゃん、ちょっと考えてみたんだけど、ここで話してもいいかな」
これまでずっと聞き手に徹していた優季奈が初めて自らの考えを表に出そうとしている。綾乃も沙希も驚きつつ、優季奈が真剣になるのは至極当然だった。自身の秘密に少しでも迫りたいという想いは誰にも負けないだろう。
「優季奈の意見、ぜひ聞いてみたいわ。ねえ、綾乃」
綾乃が即座に頷いて、優季奈に視線を動かす。
「泰山府君祭はあくまで寿命延命のもの、だから死者復活はこの儀式がもたらす効果ではない。一方で、沙希ちゃんの家に伝わる古文書には死者を現世に呼び戻したとの記載があるんだよね。それなら、泰山府君祭ではない、別の儀式が関与しているんじゃないかな」
言葉を切った優季奈に対して、沙希の目が、話を続けてと促してくる。綾乃も同様だ。
「神月代櫻が私に語りかけてきた時、陰陽師の話は全く出なかったよ。死者の復活には関係ないと想うんだ。もし、泰山府君祭が関わっているなら、それは生き返った後の寿命に限るんじゃないかな」
綾乃が尋ねてくる。
「泰山府君祭とは切り離して考えるということね。沙希、神月代櫻を舞台にした理由は書かれているの」
沙希がノートに記載している該当部分に目を走らせ、言葉にする。
「神月代櫻だけが舞台ではないわ。
綾乃と優季奈がそろって口を開こうとして、優季奈が綾乃に譲った。
「儀式、社に祠とくれば、光は炎じゃない。祭壇のようなものを組み上げているのでしょう。私ならすぐに火を想像するけど」
沙希からの応答はない。綾乃の言葉を受けて、次は優季奈が答える。
「光、私は月の光じゃないかと想うの。この姿で神月代櫻の
沙希が驚くほど大きな声をあげた。
「それよ」
優季奈はもちろんのこと、あまりに例外づくめの沙希を前にした綾乃も、いったい何事かと慌てて様子を確かめる。
「ごめんなさい。驚きのあまり、大声を出してしまって。そう、そうよ、どうしてこんな単純なことを考えられなかったのか。私も今の今までは炎だと想っていたけど、そうよ、光は月光よ。間違いないわ。ありがとう、優季奈」
沙希は手にしていたノートを二人の前に向けて、これを見て、とばかりに広げた。
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