第7話 木増たわわのキマシタワー

「たわわちゃん〜!相談聞いてよぉ…」

「木増、ちょっと相談聞いてくんない?」

「木増さん、ちょっと相談いいかしら」

 二年一組の昼休みの教室、私の机は小さな相談所になる。

ちなみに相談内容は恋愛の相談がほとんどで男女比は2:8って感じ。

でも私が恋愛相談を始めた理由は学校内にちょくちょくいる同性に恋をしている女の子の話を聞くのが主な活動理由だ。もちろん男女の恋愛の話もちゃんと聞いてますよ!?

まぁつまり私は姫女子寄りの雑食系統の女子高生である。


「——でね〜!今日も凛とした横顔が素敵だったの!」

私の前にいる女子生徒は恍惚とした表情で語っている。

「え?ちょっと待って、感想はいいんだけどさ、今誰の話をしてるの?」

やばい真剣に話を聞いていなかったのがバレる。

「二年二組の薄本知歌さんのことよ!あの方は本当にミステリアスでどこか儚い雰囲気を纏ってらっしゃるのよ〜!」

完全に彼女は恋する盲目女子だ。まあこれもこれでおいしいか?

「ほうほう、じゃあ今日はそれだけ?」

私は早速話を切り出す。どうせめんどくさい依頼なのはわかっている。

彼女はもじもじしてから私の耳を借りて

「薄本さんの…写真を撮ってきて欲しいの…」

と小さな声で囁いた。

「はへ?」

 現代日本でこの依頼をする女子高生がまだここに残っていたとはなんだか謎に感動している自分がいるが、やっていることは盗撮、犯罪だ。

「いいかな?」

いいかな?じゃないでしょ…!私は大きくため息をつく

「報酬は?」

 ここが一番重要。提示した報酬によっては彼女は出禁にするかもだけど。

「———百合嬢新刊号奢るわ」

「その依頼買った!」

即決だった。


◇ ◇ ◇


 そんなわけで万年帰宅部の私はタダで百合嬢の新刊号を手に入れるために盗撮行為に走ることになった。

部室の窓の近くに張り付いてるだけだけど十分不審者だ。

 そろそろ部活の時間。情報通りなら薄本さんはそろそろ部室に来るはず。

 そう思っているとドアが開いた。あれが薄本さんか情報通りのミステリアスな印象の黒髪美少女。

 そういえば部活っていうくらいなら他に部員がいるはずじゃ…?

 そんなことを考えているとまたドアが開いた。

焦茶っぽいセミロングの女の子、上履きの色からして一年生、今年入った新入部員か。

 ガラス越しではよく聞こえないが何か話してる…ってか距離が異常に近くないか?

もはやパーソナルスペースをお互いに侵害しあっているレベルだ。

 てか情報に薄本さんにこんな仲のいい友達…いや友達以上関係の生徒なんていなくないか?

(これはキマシタワー!!!)

 私の百合豚脳は百合の供給によって脳汁ドバドバで今が多分最高潮。久しぶりにイチャイチャした非常に美味しい構図を拝めた…私はこの瞬間を観測するために生まれたのかもしれない…百合は観測したら百合って誰かが言ってたもん。はい確定演出。


 ———いや待て、冷静になれ。このミッションの達成条件である写真は今は絶対に撮れない。なぜなら薄本さんの横に女がいるからである。

 こんな写真を依頼者に見せたら依頼者は発狂し、私の身どころかあのセミロングの女の子にまで危険が及ぶだろう。

 それにしてもこれは彼女の存在が薄本さんの考え方などここ一週間ぐらいの間に何か重い一石を投じたに違いない。

 そして二人はその後も時々くっつきながらも文芸部らしく本を読んだりしていた。何よりも薄本さんのクールな一面というものは特に見えないのが私にとっては不思議だったけど。

くうぅぅ…マジで尊い…でも一向に写真は撮れない…

そんなこんなしているうちに下校時刻のチャイムがなった。

ヤバい…タイムアップか…?最悪通学路…


コンコン

なんか今窓ガラスを叩く音がしたような?

「何見てるんですか〜?」

 薄本さんが満面の笑みでこっちを見ている。あ、私の高校生活終わった。

「う、薄本さん…」

「ちゃんと撮れた?私と純夏さんの写真」

「ほえ?!」

 ままままさか私の存在最初からバレてた!?申し訳なさで冷や汗がドバドバ滲み出てくる。

「あ…え…ごめんなさいいいいいい!!!」

 私はただでさえ遅い足を一生懸命動かして一目散に校門へ向かった。

 しばらく走り、先ほどこっそり撮った一枚の写真をじっと見る。

「まぁ今月の百合嬢はお預けでもいいかな、当分はこの子達で供給は十分」

 私の写真には二人がピッタリくっついた後ろからの姿が映っていた。

 今日は鼻歌混じりで帰ろう。もちろんMVが百合っぽい曲だけど。

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薄本さんは業が深い みけめがね @mikemegane

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