第83話 真:合宿五日目。私、物思いにふける
んが?
「んがっ?!」
寝起きの霧江です。
なんかしようとする気配を感じたので起きて裏拳しました。
「な、なんで!?」
「んあ……ユキナか」
鼻を抑えて、非常に驚いたような顔してるユキナ。なんかイタズラでもしようとしたのか?
「社長、完全に寝てたんじゃあ」
「寝てたけど、起こされたんだから起きるだろう」
「いや、気配消してますけど!」
いや、気配消えてたらむしろわかりやすいわ。
「気配を消すってのは、正確には気配を周りと同化するんだよ」
「なんかいきなり難しいこと言ってる!?」
じゃないと不自然に気配がないそこはその人の枠がくっきり出てなぁ?
まぁ、その辺はすぐできることでもないし、置いとくか。
「で?どうした?」
「今日は帰ってるって、聞いたから、晩御飯一緒にどうですかって聞きに来ました」
晩御飯?もうそんな時間か。
朝帰り晩起きって、ヤバいな。
まぁ、もはや帰ると起きるって概念がないときもあるからまだまだマシなんだが。
「おう、良いぞ。腹は減ってるし、一緒に食べっか」
「ありがとうございます!」
そうと決まればすぐにベットから体を起こし欠伸をかきながら立ち上がりユキナと一緒に寝室から出た。
・・・
配信時間を終え、
ちなみに、湯船といっても温泉宿にあるような大浴場で、みんなで一気に入っても余裕があるほどに広い。
ここ数日、九重さんに付き合ってもらって魔法の習得に勤しむ日々。
正直、できるようにはなってきたけど、まだまだ社長のように、それどころか九重さんのようにもできない。
「剣と違って目に見えるような成果がないのも苦しいところだな」
形のないもの、不定形なものほど、評価が難しい。もともと大剣を振り回してた私からすればなおのことだ。
「そんなことないと思うぞ?」
そんな私とごく自然に同じ湯船に浸かる狐。
もう、何も言わないぞ?昨日もこんな感じだったからな。
「そうそう、先輩と宵闇さんが異常なだけです。あんなもの、普通の人間は適性があっても使えやしません」
そして、しれっと今日は一人増えた。
というか誰?
「おい後輩、なぜ一緒に入っている」
「先輩が下劣な顔して入っていくのが見えたもので」
「げ、下劣な顔っ!?」
どんな顔ですかそれ。
私が聞きたいです。というか九重さんってやっぱり変態……。
「あ、申し遅れました。九重先輩の後輩、アテナです」
「あっ、よろしくお願いします」
綺麗な人だな。
いや、九重さんも、なんなら社長も、他のみんなも綺麗な人だけど、この人はなんというか神々しさみたいのがついて……ん?
「あ、あれ、なんで、湯気がそんなにアテナさんに集まってるんだ……」
「本当だ。それなのにしっかり顔は隠れてないのだ。何かの仕込みか?」
「い、いや、仕込んでないぞ。多分自然現象だ」
自然現象でそんな集まるって、どういうことだ。
「って、そんな事はどうでもいいのです!」
「あぁ、奴ちゃんの話だったな」
そうだったな。私の話してたんだった。
確か、異常なだけとかなんとか。
「改めて、奴ちゃんは凄いと思うぞ」
「はい。貴女はかなり異常なことをしてます。それを自覚してください」
「異常なことをしてるって、褒めてる?」
「褒めてる褒めてる」
「そもそも、あんな魔法、使えるだけ頭がおかしいんですから」
アテナさんの話によれば、社長がおかしいだけで、この魔法は使うこと自体が異常な行為とのこと。
そもそも概念に干渉するような魔法なんて人間の身で使うなんて前代未聞。
適性があっても、発動、起動の段階にまで乗ることはないという。
九重さんはどうなのかと言われたら、九重さんは存在が異常だし、社長のアイテムのバックアップがあればこその芸当だと。
そうなるとますます社長が異次元に感じてきた。
「だから、発動まで至っている貴女は十分、成長していると思いますよ」
そう締められた説明は、少しだけ嬉しくて、少しだけ自分を強く感じた。
「よし、上がりますか」
バシャッっと水しぶきを上げるくらい勢いよく立ち上がったアテナさん。
当然のように、湯気はその動きに合わせて避けていき、かつ大事な部分を全て隠していた。
ホントに、なぜ?という疑問は置いといて、もう一人の方。
さっきから静かだなと思ったら私の体に視線を感じる。
横を振り向くと、尻尾だけが浮いていた。
少し視点を下げると、水中から私の体を見ている。
「変態」
「ブクブクバガバゴ」
あっ、死んだ。
「やっぱり、先輩はこういうことになると変態ですね。普段は頼りになるのですが」
死体みたいに浮き上がる九重さんの尻尾をつまんで引きずりながらアテナさんは浴場から出て行った。
「……良いなぁ〜後輩」
セクハラみたいなことされて、その上ででてくる言葉がこれって、私もおかしいかなぁ。
でも、なんか後輩良いなって思いました。
・・・
ユキナに連れられて食堂を訪れた私。
そこには既に奴ちゃん、九重、アテナの三人以外が座っていた。
「他三人は?」
「お風呂ですわ」
じゃあ、少し待ったほうが良いか。
流石に私に合わせて食べるのは家主とは言え違うだろうからな。
「そういや、翔は大丈夫なのか?」
突っ伏した状態で若干の痙攣をする翔。
流石に少し気になるかな。
「筋肉痛、ですぅ。いたぃぃ」
「なんだ、筋肉痛か」
昔はよくやったなぁ。無茶な技ばっか使って帰って風呂は入ってたらこう、ビキッと。
なんなら帰り道でやったこともあったなぁ。そん時は桜に抱えられて帰ったんだっけか。
甘く見ると痛い目見るから気をつけないとな。今の私は多分なったらしばらく動ける自信はない。ま、超本気を出さないとそんなことにはならんだろうが。
「も、もうちょっと心配をぉ」
「欲しいのか?」
「欲しいっ!」
「じゃあやらん」
「はっ!選択肢ミスった!」
どっちにしてもそんなものやらんからな。
奴ちゃんやクスリの心配はしてもお前の心配はするだけ無駄というものだ。
「社長ってツンデレだからねぇ」
「誰がツンデレだって?」
横からユキナが急に刺してきたので、すかさず脇っぱらに手を伸ばしつまみ上げる。
「たいたいたいたいっ!」
「もいっぺん言うてみぃ?」
「ツンデレ!」
「おっ?根性だけはあるのぉ」
「というか何弁それ?」
知らん。ただふとこの字列が出てきたから言っただけである。
「……お前、少し筋肉ついたな」
「え?あ、そう?」
おう、最初のときのプニ腹からちゃんと硬い腹筋になってるよ。
前だったらこう、ビヨーンって伸びたし。
「後輩には負けられない!って鍛えてたからね」
「あっ!紺金、それは言わない約束!」
「結局勝てなかったって落ち込んでたもんねぇ」
「ユッケも!林花ちゃんいる前で言わないでよぉ」
あらあら、そんな時期が。でも、それだけじゃあこんなに強くはならんな。
それがキッカケでもちゃんと続けてるからこうしてちゃんと出来上がってきてるんだろうし、そんな真面目なところがこうして実を結んでるんだな。いいこった。
「あらあら、ユキナ先輩はそんなことを」
「アイドルを言い訳にせず精進し続けられるのは才能だぜ?」
お?ユウナさんや、先輩らしいこと言うやんけ?
「少なくともアタシはユキナを弱いなんて思ったことはないぞ。腕っぷしは弱いけどな」
「ユウナ先輩ッ」
「ユウナ、貴女いつの間に気遣いなんて言葉覚えたの」
「はぁっ!?そりゃどういう意味だクスリぃ!」
そしてイチャコラ始めるクスリとユウナ。
それを混ざりたそうな顔でプルプル震える翔。
他のみんなもまたイチャコラと叩きあったりそんな光景を見つめたりと、実に楽しそうでいい。
「……」
こうして見るといつも実感する。
社長になって良かった、と。
冒険者であったら、見られなかったこの光景。
そして、冒険者じゃなかったら守れなかったこの光景。
「何浸ってるんですか宵闇さん」
「おう、ガキンチョ」
「もうガキンチョじゃありませんって、そうじゃなくて」
言いたいことはわかるよ。
何かに浸るなんてらしくないとか、何かあったのか?とかそんな事が聞きたいわけじゃない。
「また、気にしてるんですか?」
何を、とは聞かないだろう。
光子には伝えてあるから、昨日私が何をしていたのかも知っていることだろう。
この光景を見るのに、この空間にいるのに、私は、私の手は汚れすぎている。
もちろん、割り切ってるし、あれがなければこの光景もなかった。だから、後悔とかしてるわけじゃない。
それでも、何も思わないなんてことはない。
最善の行動をして、最低限の殺しに済ませて、最大限の配慮をした。
それでも、誰かの幸せな瞬間を奪っていることには変わりない。
そんな私がこうやって笑うのは、違うんだろうなって、思ってしまうのだ。
手を汚すことをいとわないと、それ自体はもう割り切っている。必要だから、相手を殺す。それももう割り切った。
でも、それでも、殺すという行為は、それだけ誰かの幸せを奪う。最初に、あいつを殺したときから、それだけはどうしても、割り切れなかった。
「私は、宵闇さんのことをちゃんと知りませんけど、宵闇さんは間違ってないと、ずっと思ってますよ」
「……生意気言うなよ、ガキンチョが」
「ガキじゃないですから」
その後、お風呂に入っていた三人が戻ってきて、みんなで手を合わせて食事を始めた。
・・・・・・・・・・
後書き
体調をガッツリ崩してて休んでました。
今週から一度ちゃんと休もうかと思ってましたが今週やるだけやって、一月上旬まで休もうと思います。
何度も何度も休んでしまい申し訳ありません。
そろそろ本編も次章へ向けての準備を始めなければ、と思い色々と模索中です。
今回の最後辺りはそれがでてますね。
来年で本編に区切りをつけて、あとはガッツリ配信者をやろうと考えてます。
これが物語になってるか自分にもわかりませんが、お付き合いいただけると嬉しいです。
配信会社の社長は事故で人気が出てしまう 希華 @kiy87
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