第2話 予想外の

亮から連絡が来たのは陸くんとの通話の数時間後のことだった。


内容としては、報道があったばかりで週刊誌も絶好の機会だと伺っていることは想像にたやすい。だから、今は家から離れた方がいいのではないかということだ。


迷惑をかけてごめん、なんて、むしろ私のセリフなのに。


私はとりあえず身の回りの整理をし、数日ホテルに暮らすことになった。亮は少なくとも今夜は事務所で過ごすらしい。

これから何か新しい情報が公開されるかもしれないし、迅速に対応するためにも本人がいた方がよいからということだそうだ。



慌ただしく準備をしてホテルに向かい時間を確認すると、時計の短い針が9を超えている。

家を出たときはまだ夕食時だったはずなのに、今日は時間がたつのがあっという間だ。


ひとりベッドに体を預けると、ついよくないことを考えてしまう。

世間の反応はどうなのだろうか。


JEWEといえば今をときめく大人気アイドル。メンバーは黒田陸と白石亮。それぞれの苗字にある「白」「黒」をイメージカラーとした2人組のユニットだ。

若い世代を中心とした女性人気はもちろんだが、最近ではバラエティ番組や動画サイトでの活動を通して幅広く活躍しているまさに「大人気」なアイドル。


そんな白石亮の熱愛報道となれば世間の風当たりとしてよくないのは目に見えている。

しかし、一度意識が向いてしまうとなかなか制止することはできない。特にひとりぐるぐると考えを巡らせている今のような状況なら。


私はSNSのアプリを開き、検索欄にゆっくりと打ち込んでいく。



白石亮 熱愛


白石亮 彼女



どんなショックな検索結果が出たとしても受け入れよう、そう思い検索ボタンをタップする。

するとそこには



[待って10年は純愛すぎる。解釈の一致すぎるって…]


[むしろこれまでばれてなかったのすごすぎでしょ]


[彼女さん後ろ姿からすでにめっちゃ美人じゃない!?ここまで匂わせもしてないし自担のセンス良すぎる…]



え…?

思ったより肯定的な意見が並んでいる…?

熱愛報道といえば、何この女、とか、アイドルなのに…とか、そういう反応が並ぶものじゃないの?


今回の件で頭がおかしくなっているんじゃないか、検索ワードを間違えたのではないか、さまざまな可能性を考え検索しなおしたり目をこすったりするも結果はやはり変わらず。


困惑しているとSNSの画面が着信画面に切り替わる。

亮からの着信だ。急いで応答ボタンをタップして通話を開始する。


「もしもし!?」


「もしもし、無事ホテルついた?」


「うん、お部屋まで来てとりあえずは落ち着いたかな」


「そっか、良かった。ごめんな、バタバタさせちゃって」


「ううん、私こそ、まさか撮られてるなんて思ってなくて…もっと気をつけなきゃだったよね、ごめんなさい」


「いや、俺も全然気づかなかったから。でさ、今後のことなんだけど」


今後、と亮の言葉にぐっと力が入るのが分かった。


「公表しちゃおうと思う」


「え…?」


「陸とかマネージャーさんとか、いろんな人と相談したんだけど、もういっそのこと公表しちゃうのはどうかなって」


「その、これからの活動に影響は?」


先ほどのSNSは見なかったふりをして亮に問いかける。


「それなんだけどさ、実はね、意外な反響も寄せられてるみたいなんだ」


そう言って亮は事務所の方から渡されたというSNSのコメントやインターネット上の反応をまとめたものを読む。

亮が読み上げる内容は先ほど私がSNSで調べたような内容とほぼ一致していた。


「だからむしろ、これから隠そうとするよりもきちんと説明する方が誠実なんじゃないかって結論に至ったんだよね」


もちろん紗那の意見も聞いたうえで決定するんだけど、と続ける亮。


亮の話を聞いて、確かに公表した方が良いのではないかという気持ちに傾く。


「うん、わかった。公表するにあたって、私がしなきゃいけないことはある?」


「特に大丈夫かな。しばらくは俺もいそがしくなるかもしれないけど、できる限り連絡するようにするから」


「私は大丈夫。休めるときはしっかり休んで、体調崩さないようにね」


「ありがとう。紗那もな」



この後またマネージャーさんや陸くんと話し合いがあるということで通話は終了した。



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私の彼氏、熱愛報道がでたのに好感度急上昇中です。 湖田にこ @kodaniko_ps

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