四. おちていきたい

1


 市街地を抜け、田畑の広がる地域に入った。街灯はない。月と星のさやかな光を背に、家々は黒くそびえている。

 山のふもとには、鐘楼のようなものが見えた。寺だろうか。その鐘のそばで、何かが点滅しているのを見た。

「あそこだ。……入れねーな。ここで降りるぞ」

 寺へ続く細道の手前でトラックを降りる。点滅するものを目指して歩くと、寺の方から、懐中電灯を持った若い女性が歩いて来る。彼女の赤いカーディガンが、闇夜にぼうっと浮かび上がった。


「ハギノの方ですよね?連絡したヒロコです」


 彼女は自己紹介もそこそこに、その小さな寺の裏手へと僕達を誘った。建物に人の気配はない。裏口につくと、彼女は不思議な動作でその取手をカチャカチャと動かした。それは正規の手段ではないように見えた。ほどなくして戸は開き、中から線香の匂いが溢れ出す。

「こっちです。」

 廊下を抜け、狹い和室の電気の紐をヒロコが引く。カン、という乾いた音とともに辺りが強く照らされた。

 線香の煙が充満する和室に、若い男が一人、横たわっていた。

 顔に血の気はなく、唇は白く乾いている。胸元を見たが、息をしているようには見えなかった。僕らはそれを、立ったまま見下ろしていた。


「わたしと近い種類の、鳥の子です。昨日、少し離れた場所で事故に遭って。」

 女の声は淡々としていた。

「多分、単独事故です。バイクから振り落とされて、からだを強く打っていました。巡回虫たちの知らせを聞いてやってきたら、もう手遅れで」

楡井山にれいやまでいいんですか?」

 竜胆が尋ねる。僕にはその質問の意味がわからない。

「ええ。鳥は内津山うつつやまに運ぶのが順当でしょうけど……彼はこのあたりが好きだったから。好きな場所で弔ってあげたいんです。

 できる限りのお別れは済ませました。わたしは大丈夫。この子をちゃんと、連れて行ってあげてください」

「わかりました。」


 竜胆は僕を突っつくと、トラックに戻るよう促した。二人で寺を出て車に戻り、竜胆が荷台の鍵を解く。

 ガラガラと大きな音がして、暗い荷台に月光が差し込んだ。

 手前にはダンボールが低く積まれている。その奥に、何か大きな金属の設備が見えたが、ダンボールが邪魔してよくわからない。どうやらあそこに、必要なものがあるらしい。

 竜胆は手前のダンボールを、一つ一つ崩していった。僕もそれを手伝う。やがてダンボールの山が大方捌け、奥に置かれたものの全貌が明らかになった。

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