三. つれさられたい

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 車内に響くエンジンの音で目を覚ます。

 いつの間にか僕は、高速道路を走るトラックの助手席に収まっていた。体には衣服がかけられている。竜胆の着ていた上着だった。染み付いたタバコの香りは、さっきのような吐き気を連れてこない。それどころか今の僕には甘く、心地よく感じる。

「……、」

「気分はどうだ?」

 目眩はすっかりおさまっていた。頭の中は、霧が晴れたように明るい。

 それがあの薬のおかげだとするのなら、一体どんな強力な成分が入っていたのだろうか?僕はなんとなく、飲んではいけない薬を飲んでしまったような気がして仕方がなかった。


「竜胆さん、あの薬……、」

「気にするなよ。もらいものだ」

 竜胆は、あの薬に関してそれ以上のことを言わなかった。それは暗に、お前は知らなくてもいい、と言われているようだった。優しさとは違う、見たことのない彼の一面だった。

「それより夏生、もうちょっと食ったらどうだ?俺より上背があるくせに、めちゃめちゃ軽かったぞ」


 竜胆がウィンカーを出し、トラックは出口へ逸れていった。料金所の影が見える。

「……もう、楡井山?」

「いや、目的地変更だ。――さっきオヤジから電話があってさ。飛び入りでもう一軒だ。それが済んだら楡井山に行く。夏生も少し手伝ってくれよ、」


 やがて山間の小さな町へと入っていく。建物は夜に包まれ、町は静かに眠っていた。


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