3


 着いたパーキングエリアは、トイレと自販機コーナーだけの簡素な休憩所だった。駐車場はがらんとしていた。


 エンジンを切ると、竜胆が僕の方を向いた。

「大丈夫か?」

 目眩は一層ひどく、竜胆の声もどこか遠く感じる。

「……吐きそう……。僕、トイレ行ってくる……」


 扉を開けて外に出る。が、思いのほか車高があったせいでバランスを崩し、僕は着地とともに足首を痛めてしまった。なんとか足を引きずって歩くも、一歩進むごとに目眩は強くなっていく。駐車場のアスファルトが左右に傾き、白線はぐねぐねと曲がりくねった。

「……っ、」

 胃から何かがこみ上げ、思わず胸元を抑えながらしゃがみこむ。だが、何も吐けない。夜風でこめかみが冷え、自分が汗をかいていることをはじめて知る。

 地面が歪み、回転する。もう、上も下もわからない。僕はとうとうその場で倒れた。


「おい、」

 竜胆がそばに来て、僕を抱き起こす。その声は二重、三重に聞こえ、彼のタバコと香水の匂いが余計に吐き気を誘った。

「まずいな。夏生、薬飲め。俺のをやるから」

 ゴソゴソと動く彼の手のひらに、黒色をした梅ミンツみたいな丸薬が数粒見えた。それを手のひらごと僕の口元へ近づけてくる。

「アンナさんの薬はよく効くぞ」

 アンナって誰、とか、その薬大丈夫なの、とか言う前に、僕はその薬の強烈な臭気に慄いた。ハッカと松脂まつやにとカメムシを混ぜたような匂いだ。


――飲んではいけない。本能が警鐘を鳴らしている気がする。


 残された力すべてを口元に集約させ、僕は薬を拒否した。それを見て、竜胆は少し顔をしかめた。

「強情だな、」

 それから僕の鼻をつまんだ。呼吸ができなくなる。

 息苦しさに口を開くその一瞬の隙に、竜胆が丸薬を僕の口にねじ込んだ。

 そのまま、手のひらで口を塞がれる。

 彼の手から、苦いタバコの匂いと、土のような匂いがする。

 頬に、ザラザラとした彼の指の感触を感じた。


「飲め、」

 強い語調は、今までの彼と雰囲気が違った。僕は脅迫を受けるような心持ちで全ての薬を飲み込んだ。口が乾いているせいか、二粒ほど喉に引っかかり、僕は何度も嚥下した。

 それを見届けると、竜胆は僕の口を覆っていた手をゆっくりと離した。


 僕は何度か肩で息をしていくうちに、今度は急に強い眠気に襲われた。まぶたを開けようとするたびに、目眩が酷くなる。一体、何を飲まされたんだ。

「……竜胆さん、……この薬……」

 次第に竜胆の顔がぼやけ、意識が遠くなっていく。背中に彼の体温を感じながら、僕は完全に気を失った。



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