第4話 封印されし記憶、新たなる旅立ち

エルモアの住む館は、メルフィアの町のはずれにあった。豊かな緑に囲まれ、石造りの壁が厳かな雰囲気を醸し出している。門をくぐると、迎えてくれたのは長い白髪をした老人だった。その瞳は、無限の知識を秘めているかのように深く輝いていた。


リリスがテーブルに向かい合って座り、彼女の眼は真剣そのものだった。「昭文さん、あなたの能力がこの世界で何を意味しているのか、エルモア様ならきっと分かってくれるはずです。彼は王国でも指導者の一人で、古代文明に関する知識も豊富ですから。」


昭文はリリスの提案に頷いた。彼自身も自分の中に秘められた力、特に最近感じ始めた異常なまでの感受性について、何か答えを見つけたいと切望していた。


「そうだな、エルモア様なら…」昭文の声は思案深げに低くなった。彼の心は希望と不安で交錯していた。これまで彼の内に秘められた、過去の出来事を感じ取る奇妙な能力が、この世界ではどう影響を及ぼすのか、誰にも予想がつかなかったからだ。


「では、決まりですね。私たちはエルモア様の館を訪れ、あなたの力について相談しましょう。」リリスは決意の色を強めて言った。


昭文は、彼女のこの決断が彼らの未来を大きく左右することになるとは知らずに、ただ静かに微笑んだ。彼女と共に新たな一歩を踏み出すことを、内心で決めたのだった。


昭文とリリスは、メルフィアの町のはずれに佇むエルモアの館へと足を運んだ。その館は古く、石造りの壁が幾年もの風雨に耐えた歴史を物語っていた。彼らの前に広がる豊かな庭園を抜けると、エルモアの住む居室の扉が見えてきた。


エルモアは、かつて多くの冒険者や学者が訪れたというこの地で、知識と智慧の象徴として敬われているという。


館の扉を叩くと、内側から深い声が二人を迎えた。「昭文、そしてリリス。お待ちしていました。」エルモアは温かな笑みを浮かべながら二人を中へと招いた。


中に入ると、エルモアが広い書斎の中央で彼らを待っていた。彼の周りには、天球儀や星図、古文書が散りばめられており、壁一面の本棚には古代文明の秘密が隠されているかのように、数多くの書が並んでいた。


「あなたの能力について聞きました。不思議な事象への感受性ですね。」エルモアは昭文の目をじっと見つめながら言った。彼の眼差しは、昭文の心の奥底にある真実を探るようだった。


昭文は頷き、自分が抱える不確かさと期待をエルモアに伝えた。「はい、自分でもよくわからないのですが、ある時から過去の…それも遠い過去の出来事が感じられるようになりました。」


エルモアは手を組んで考え込むと、やがて深い声で言葉を紡いだ。

「君の能力は、確かに歴史視…過去を見る力。しかし、普通ではない。ここにある古代の器具とも関連があるかもしれない。あなたの力をここで試してみましょう。」


リリスは昭文の隣で、彼を支えるように立っていた。彼女の表情には、昭文が新たな発見へと進むことへの不安と決意が読み取れた。


エルモアは古い机の上から小さな箱を取り上げ、その蓋を開けると、中から古代の文明が作りしと思しき、細工の込められた金属の球体を取り出した。


「これは、我々の先祖が遺した、記憶の器です。過去を見る力があるというのなら、この器を使ってその力を試してみましょう。」


俺はその金属球に手を伸ばし、躊躇いながらも触れた。球体は冷たく、その表面には理解できない細かい刻印が施されていた。エルモアは優しく促すように言った。


「その器に集中し、あなたの感じる過去を心の中で呼び覚ましてください。」


俺は目を閉じ、深呼吸をした。徐々に、周りの音が遠のき、心の中でぼんやりとした光景が浮かび上がってきた。

焼け落ちる家屋、空に昇る煙、そして何よりも、耳をつんざくような人々の叫び声。それはまるで、俺がその場にいるかのようなリアルな感覚だった。


一人の学者らしき男の姿が写った。彼は何かを急いで記録し、それを隠し場所に封じ込める。その手は震え、顔には深刻な表情が浮かんでいた。俺は、その男の焦りと恐れを感じ取ることができた。それは、ただの恐怖ではなく、何かを次の世代に伝えなければならないという使命感のようなものを感じた。


俺はその場に座り込んでしまった。俺が目を開けると、エルモアは俺の顔をじっと見ていた。

俺は、今見た光景を、そのままエルモアに伝えた。


「どうやら、あなたの力は本物のようですね。歴史視(ヒストリービジョン)とでも呼びましょうか。これはとても珍しいことです。あなたが今見たものは、1000年以上前に存在した古代文明の滅亡の瞬間を示しているのかもしれません。それは、我々が長い間探し求めてきた知識かもしれない…」


エルモアの言葉が意味することは理解できたが、同時に、俺は自分が持つ力の重大さに圧倒されていた。

俺の中には今もその賢者の記憶が生き生きと残っており、それが何かの始まりを告げているように感じる。


エルモアは机に置かれた金属の球体から目を上げ、しばらく沈黙した後、静かに語り始めた。


「昭文、あなたが目にしたビジョンは、王国が長年追い求めてきた古代文明の謎に繋がるかもしれません。あの遺産を見つけ出せれば、それは王国にとって、そしてあなたにとっても大きな意味を持つことでしょう。

どうか、あなたの力で古代文明の遺産を探して頂けないだろうか。」



昭文は目の前の賢者の真摯な眼差しに心打たれながら、自分の中にある新たな可能性と、異世界での自分の役割について考え込んだ。そして、俺はゆっくりと頷いた。


「分かりました、その遺産を探す使命、受け入れます。」


隣にいたリリスは、少し寂しげに微笑んだ。


「昭文、おめでとう。残念だけどここでお別れね。私には異世界人を案内する仕事があるから。」


しかしエルモアは穏やかに反論した。


「いいえ、リリス。あなたもこの旅に同行するのです。」


リリスは驚いた様子でエルモアを見つめ返した。


「でも、私の仕事は…」


エルモアは優しく微笑みながら言葉を続けた。


「ご心配なく。その調整は私が国に申し出ます。そして、あなたの母親のルーツにも、この遺産探しは深く関わっているかもしれません。」


リリスの表情には葛藤が見て取れたが、エルモアの言葉に心を動かされ、最終的には彼女も決心した。「わかったわ、昭文。私も一緒に行くわ。」


二人はエルモアの館を後にし、古代文明が残した遺産を求めて新たな旅路に足を踏み出すこととなった。

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歴史視の転生者〜失われた文明の知を紐解く〜 @madoromin

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