第3話 異界の技術、古代文明の遺産
展示会場に向かう途中のメルフィアの町の朝は、俺が今まで知っていたどの街よりも生き生きとしていた。
露店では早朝から魚や果物が売られており、その鮮やかな色彩には目を奪われた。街の人々は皆、忙しそうにしていたが、顔には生活の充実感がにじみ出ている。石畳の道を歩く度に、俺の靴底からは異世界の土の匂いがした。この世界の新鮮さに俺はただただ圧倒されるばかりだった。
リリスはそんな俺を楽しそうに見つめながら、道行く人々に挨拶を交わす。
彼女はどうやらこの町で知らない人はいないらしい。俺たちが展示会場に近づくにつれ、人々のざわめきが大きくなっていった。
会場の入り口には、古代文明の遺産のレプリカが展示されており、魔法による光がそれを神秘的に照らし出していた。
リリスが俺を連れて行った一角には、高貴そうな装飾が施された機械があった。
その形状は俺たちの世界の時計にも似ており、しかし、その針は時間ではなく、どうやら天体の動きを示しているらしい。
俺がその機械に手を伸ばした瞬間、不意に心地よい熱が掌から伝わってきた。
機械からはふわりと暖かな光が溢れ出し、それは俺の掌に吸い込まれるように消えていった。
そして、これまでゆっくりとしたいた針がぐっと波打つように動き出しした。
「昭文さん、これは...」
リリスの声が驚きを含んでいた。俺も何が起こったのか理解できず、慌てて手を離す。
「俺にもわからない。ただ、手を触れたら...」
展示会場は一瞬静まり返り、次の瞬間、俺たちを取り囲むように人々の興味津々の視線が集まった。
俺には、この世界に特有の魔法的なものを感じる能力があるらしい。それが今、初めて現れたのだ。
「少し、離れよう。」
俺は急いでその場を離れた。注目されるのは苦手だ。
人々の視線を背中に感じながら、リリスに導かれるままに会場の隅っこにある小さなティールームに避難した。人目につかないこの場所で、俺はやっと安堵の息を吐いた。
リリスは優しく微笑んで、静かな声で話し始めた。
「昭文さん、あなたのその能力、この世界では珍しいです。触れた物に反応して魔法が起動するなんて…」
俺は首を振って遮った。
「でも、目立つのは…苦手だ。なるべくそういうことは避けたい。」
リリスは考え込むように黙った後、ゆっくりと話を続けた。
「わかったわ、今は目立たないようにしましょう。でも、あなたの能力はきっと何か大きな意味を持っているはず。それを見つけ出すまでは、お手伝いするわ」
次にでリリスは俺に、王国の賢者の一人、エルモアという人に会いにいくという提案をした。
「エルモア様は、古代文明の知識も豊富で、異能の解析に長けています。あなたの能力についてもきっと教えてくれると思うわ」
「賢者、か…」
俺はコーヒーのカップを手に取りながら考えた。この世界で生きていくには、この力を理解する必要があるのかもしれない。
リリスの提案は、この世界で生きていくために必要なステップのように思えた。リリスの声は、希望に満ちていた。
俺は朝食を終え、リリスとともに展示会場へと向かった。これが、俺の運命を変える第一歩になるとは、まだ知る由もなかった。
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