第8話 将来の夢

じいじが小学校に入学したときの話だ。

「みなさんは大人になったらどんな仕事がしたいですか?」

担任の先生がみんなに訊いた。

じいじは困ってしまった。今までそんな事考えも

しなかったし。世の中にどんな仕事が有るのかも

知らないし……


親父は漁師で船に乗っていて、何カ月も帰って来なかった

船ではどんな仕事をしていたのかも聞いたことが無い。


母ちゃんは近所の水産加工場で、【粕叩き】の仕事をしていたが

今でいうバイトみたいな仕事だった。

粕とは当時大量に取れていたイワシを煮て圧搾して魚油を

取っていた。その油を取った残りかすが魚粕さかなかすで、

大きなドーナツみたいに固まったそれを藁むしろの上で天日干し

して、乾燥したら細かく砕く。木の包丁みたいな道具で一日中

砕いていた。それを莚の上に並べてさらに乾かす。それが魚粕

として畑の肥料になるのだ。

でもそれは女性の仕事で何時も有る仕事じゃない。


じいじが知っている仕事はそんなものだけだった。


将来の夢を1人ずつ発表することになって困ったじいじは

「僕は大きくなったら、ベートーベンやモーツアルト

みたいな大作曲家になりたいです」なんて、口から出まかせ

を言ってしまった。


小学校の卒業式の時にあの忌まわしい言葉がテープレコーダー

で録音されていてスピーカーで流されてしまった。

顔が熱くなって、穴があったら入りたいってあんな気持の

ことなんだな。じいじは知らされてしまった。


これが人生初の黒歴史っていう奴だな、はア~。今でも

まだ恥ずかしい!


良太は来年小学生か?じいじみたいな恥をかかないように

今のうちにどんな仕事をしたいか考えておきなさい。

この【どんなお仕事があるのかな】という絵本を見て

考えておきなさい。



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