第7話 馬とオート三輪と落し物

あの頃はこの街で走っている自動車は殆どがオート三輪車

だった。

漁業の町だから市場から買い入れた魚を水産加工の工場へ

運ぶのになくてはならないものだったのう。

前輪が1つだけで、後輪が2つ。運転席の中央に座って

丸ハンドルじゃなくて、オートバイのように左右の横に伸びた

棹ハンドルで操作していた。

サンマの時期になるとオート三輪の荷台に溢れるほ

積んで走るので、道路には荷台から落ちたサンマが有った。

道路近くの家ではそのサンマを拾って食卓に乗せていた。

現在は荷台から落ちないようにシートで覆うように

義務付けられているようだ。

あの頃は良かったなあと、じいじより年上の爺ちゃん婆ちゃん

がよく言っている。


魚が捕れなくなった最近では考えられない話だろう。


その道を馬が荷馬車を引いて歩いているのを1度だけ

見たことがある。じいじが子供の頃にも馬が馬車を引く

光景は珍しくなっていたんだよ。馬も落とし物をしておった。

尻からな。

そうさ、馬糞だよ。歩きながら尻尾に触れないように

器用にしておった。


馬車が活躍していた時代はさぞかし馬糞だらけの馬糞臭い

道だったんじゃろうのう。

これはじいじの想像だが、その馬糞を集めて農家に

肥料として売っていた人も居たんじゃなかろうか。

日本では人糞も立派な商品だったからなあ。

肥溜めって知ってるか?昔は畑に肥料として人の糞尿を

撒いていたんだよ。

ただそのままだと強すぎて作物に害が有るから肥溜こえだめ

貯めて置いて発酵させてから春に畑に撒くんじゃよ。

だから春になるとあちこちで強烈な匂いがするんだ。

じいじ達は「田舎の香水」と言っておったがのう。



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