第6話 紅鮭

「あの……」


 ついマイクに乗る状態で一言発言してしまってから、次の言葉に詰まる。

 配信主として、未だコメントしていない視聴者に対してものを申すのはマナー違反なのではないのか? と考えたのだ。


『ん? どうしたの? ミコト』


 アサミねえちゃんが、俺が発した言葉を拾って何かあったのかと心配してコメントしてくれる。

 俺はとっさに首を横に振って、移動を開始した。


「あ、いや、なんでもない」


 とりあえずコメントを待つことにしたのだ。


『しっかし、二回目にしてもう中層か。攻略の知識が少ないようだし、もうちょっとゆっくり進んだほうがいいんじゃないか?』


 さっそく0213オニーサンからのコメントが届く。

 明らかなダンジョン初心者である俺を心配してくれていて、本当にいい人だとわかる。

 この人が初回にコメントしてくれて、本当にラッキーだったなぁ。

 精神的な支えである従姉妹のアサミねえちゃんは心の支えではあるけど、残念ながらダンジョン配信視聴者ではあるものの、探索者の内情に詳しくはない。

 0213オニーサンがいなければ、上層でのアレコレや、協会の担当者とのアレコレで、心が折れていただろう。


 少し歩き、まだ最初のサーチ範囲内ではあるものの、もう一度スキル『サーチアンドデストロイ』を使用することにした。

 前回、モンスターはエリア固定ではなく、ダンジョン内を自由に徘徊していると理解したので、少々無駄でもこまめにスキルを使うようにしているのだ。


「サーチ……ん?」


 何か壁のなかに脅威判定がある。

 これが担当の言っていた壁にある罠なのか?

 そんなことを思っていたら、いきなり前方の壁から太いケーブルのようなものが突き出した。


「やっぱり罠?」

『違う! モンスターだ!』

『動け!』


 音声化したコメントが機械的に叫び、俺は慌てて飛び退いて、暴れまわる太いケーブルのようなものをかわす。


「ありがとう! でも、これってなに?」


 これまでの、コウモリやネズミなどの動物が元になっているだろうと思われるモンスターと全然違う。

 一抱えもあるような黒っぽいケーブルが意思を持って暴れているようにしか見えない。


『それが一般的には壁潜りと呼ばれるモンスターだ。私達攻略者はミミズと呼んでるよ』


 なるほど。

 ミミズと言われればそのように……見えないな。


「とりあえず、デストロイ!」


 スキルが発動するとき特有の、体の中心から湧き上がる衝動のようなものと共に、壁潜りは爆発霧散した。

 同時に、少し先の壁も爆発する。


 あー、あそこには本当に罠があったのか。


「ありがとう。助かったオニーサン……と……紅鮭……さん?」


 改めてコメントを視覚的に確認すると、危険を教えてくれたのは、いつもの0213オニーサンともう一人、紅鮭という人だった。

 この人が初見の人か。


「初見さん……ですよね?」


 またもどっからここにたどりついたんだろう?

 今回は初めてのダンジョンで検索しても出て来ないと思うんだけど。


『あ、はじめまして。紅鮭です。ベニジャケって呼んでね』

『実は俺がこの配信に誘ったんだ。お前さん、力と知識が噛み合ってないから危なっかしくてな。だけど俺は現役じゃねえし、信頼できる現役攻略者の協力がほしいと思ってよ』


 初見の紅鮭さんの自己紹介と、0213オニーサンからの説明が同時に入る。

 なるほど。

 それにしても0213オニーサン、面倒見が良すぎるだろ。

 一回配信観ただけの、ただの攻略配信初心者に対して親切すぎる。

 こんな性格がいいのに、スキルが噛み合わなかっただけで攻略者引退しなきゃならなくなるなんて、ランダムスキルマジでクソすぎ。


『ありがとうございます! 私はこの配信者の従姉妹なんで身内です。だから私からもお礼言わせてください』


 すかさずアサミねえちゃんがコメントを入れる。

 こういうときは従姉妹に見守ってもらっているのがちょっとだけ恥ずかしい。

 社会人になったのに保護者同伴かよ! ってなるよね、普通。


『いえいえ。どうせ今日はオフだし、特に予定なかったしね。それに正直言うと、君のスキルに興味があったし』

「あ、それは……」

『大丈夫。探ろうっていうんじゃないから。それに、だいたい見当もついているし、ね』


 うおっ、希少なスキルなのに初見でもうわかっちゃった感じか?

 さすが現役プロは違うな。


『あんまりコメント見てると危ないから、そっちに集中しながら聞いててね。音声化してるのはいい判断よ』


 機械音声なので性別不明ではあるけど、言い回しからしてもしかしてこの人女性かな?

 女性攻略者って少なめって聞いたことある。

 微妙なスキルだとほぼ攻略者にならないから、攻略者の女性は、ほとんどが強いスキル持ちだって言われているとか。


 そういうゴシップ的な噂は、俺でも知ってるんだよな。

 ダンジョン攻略とか全く興味はなかったけど、同世代のなかでは人気のネタだしね。


「はい。それじゃあ先に進みますね」


 どんどん進む。

 スキルには、クールタイム的なものがあるのかないのかよくわからないんだけど、俺の『サーチアンドデストロイ』の場合、サーチのほうはけっこう気楽に使えるんだよね。

 デストロイのほうはちょっと溜めがいるっていうか、こう、一度グッと腹に力を入れる必要がある感じがする。


 だからサーチをもっと気軽に使おうと思うんだけど、そうすると、デストロイが待機状態に入ってしまう。

 こうなると、デストロイを発動しなければサーチが使えない感じがある。

 いや、もしかすると無理すれば独立して使えるのかもしれないんだけど、サーチを使うたびに、デストロイのエネルギーが溜まっていく感じなのだ。


 一回のサーチでそのまま使っても殲滅状態なのに、溜まった状態で使ったらやばいんじゃ? って気持ちがあって、サーチとデストロイは対で使うようにしている。

 こう、本能的な……もの? かな?

 気持ち悪い感じ?


『そのスキル。だいぶ使い勝手悪そうだけど、レベル上がったら化けるかもよ?』


 自分のスキルに辟易しながらダンジョン中層を破壊しながら進んでいると、紅鮭さんがそんなことをコメントした。


 なん……ですと?






 


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阿鼻叫喚のダンジョン配信【最強スキルのはずなのに不安しかありません】 蒼衣 翼 @himuka

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