第5話 あれ? 視聴者増えてる?
ダンジョン協会に攻略報告に行った俺は、そこで、楽勝だったでしょう? みたいなことを言われてしまい。
思わずキレそうになってしまった。
ヤケドの痕を見せるものの、「床罠ですか? 油断したんですね」と薄笑いで言われてしまい、更に鬱憤を溜めることとなる。
なんとか爆発せずに済んだのは、俺にとってそこが仕事場であるからだ。
一般的に攻略者を仕事とする場合、パーティ単位やソロでフリーランスとなるか、企業のスポンサーなどがついたプロ攻略者になる。
スポーツや芸術系の仕事を思い浮かべれば、それに近いと言えるだろう。
しかし、特殊なスキルを得て、ダンジョン攻略適正が高い者のなかには、協会に就職する形で攻略者となる者がいた。
協会に就職する利点としては、公共の組織なので福利厚生がしっかりしていること、ダンジョンからの収入がなくても基本給があること、いくつかの特典があること、などが挙げられる。
つまり俺は、ダンジョン協会に就職した形になっているのだ。
もちろん自ら望んだというよりも、脅しに近い強制的な説得のせいだが。
なので協会の担当者は、俺にとってはある意味上司とも言える。
明確な上下関係はないので、同僚と考えられなくもないが、上司との連絡役を担当者が引き受けていることを考えると、やはり上司寄りと言えるだろう。
そのため、仕事上の問題を指摘する訳では無い、感情的な反論は避けていた。
仕事には
と言うのが我が薄命家の教えなのだ。
俺は、自分の感情をいったんは胸の奥に仕舞うことにした。
「まぁ、忘れないけどな!」
そんな俺の内心を知らぬまま、担当者は、スケジュール表を示しつつ、次の予定を告げる。
「地下鉄ダンジョンの上層をクリアしたので、次は中層ですね。中層ではコウモリやネズミに加えて、野犬、壁潜りというモンスターが出現します。罠も床だけではなく壁にも設置されますので、注意してください。はい、これが資料です」
罠というところで、意味ありげにニヤリと笑う担当者。
性格が悪い。
絶対いつかこいつを担当から外してもらう。
「あと、大事なことですが、地下鉄ダンジョンはこの中層から宝箱が出現します」
「へえ」
ダンジョンに興味がない俺でも、さすがに宝箱と聞けばワクワクする。
興味有りげな様子に満足したのか、担当者は今度はにこやかに笑ってみせた。
「ここの宝箱には罠がありません。その分内容はあまりよくないので、価値としては百円から数千円程度のものが基本ですね」
「子どものこづかいかよ」
期待を遥かに下回る金額に悪態をついた。
「高価なアイテムを発見しても、いったんは協会預かりになりますよ? その辺は契約時にお知らせしていると思うのですが」
「わかってる。ちょろまかしたりしない」
実際、宝箱にはイベントとしてのワクワク感は覚えるが、それでひとやま当てようという考えはない。
あぶく銭、つまり労働の対価として正当な価値以上の収入は、本人にとってあまりよくない、という価値観を持っているからだ。
十八歳の若者としては、ちょっと枯れ気味かもしれないな。
そんなこんなで俺は二日のオフ日を挟んで地下鉄ダンジョン中層へと出発した。
今度は上層のように日帰りは難しいということで、ダンジョン専用のキャンプ道具一式を担いで進むので、学校で運動系クラブにも入ってなかった俺にとっては、歩くだけでもかなりキツい。
ダンジョン二回目にして、もうすでに仕事を放り出したい気分になっていた。
とは言え、やるからにはきっちりと仕事をしたい。
今回は前回の失敗を踏まえて、到着と同時にスキルを使って、サーチ範囲内の罠を破壊済みだ。
「スキル使ってサーチする感覚、ほんと慣れないなぁ。……あー、あー、聞こえますか?」
初手スキルの後に配信を開始して、接続確認。
予告も何もなく始めた配信なので、視聴者は従姉妹の朝美だけである。
『聞こえてるよー』
「はぁ、すでに嫌だけど、二回目の配信始めるね」
『ははっ、それだと配信が嫌みたいに聞こえるよ』
「わかってるだろ。嫌なのはダンジョンだよ」
すでに文句たらたらで、普通のダンジョン配信者であれば、視聴者からも呆れられていただろう。
とりあえず配信が正常に行われていることを確認できたので先へと進む。
すると、配信開始から五分もしないうちに視聴者が増えた。
この動画配信サイトでは、視聴者登録すると、登録した配信者が配信を開始すると同時に登録した視聴者にお知らせが通知される仕組みである。
視聴者登録してくれた
「ん? 三人?」
表示されている同時接続の視聴者数は三だ。
一人は朝美、もう一人は0213でいいとして、もう一人いる。
「あれ? 視聴者増えてる?」
視聴者が増える要素が自分の配信にあるとは思ってもいなかったので、不思議に思ったのだ。
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