第4話 とある脱落者の羨望
「すげえ新人が現れたなぁ」
動画配信サイトのコメントでは
男の年齢は四十三、ダンジョン出現時にはちょうど大学卒業間近であった。
男と同じ世代には、スキル未取得者が多い。
ダンジョンが発生してから三年後にダンジョンからモンスターが外に広がる、いわゆるスタンピードが発生し、その後法律で成人時、十八才でスキルを取得するように定められた。
そのとき、すでに成人済みの国民に対しては、希望者制とされたからだ。
ダンジョンに対応できない高齢者にスキルを取得させても、あまり意味がない上に、下手をすると自分で使いこなせないスキルによって事故を起こす可能性も高いと判断されたからである。
だが、男は自ら希望してスキルを取得した。
男は元々ゲーマーであり、一部で廃人と呼ばれるぐらいのめり込んでいた人間だった。
特に男がハマっていたのがエリア攻略タイプのMMOであり、ゲーム内ではギルドという攻略集団のマスターでもあった。
突然のリアルダンジョンの発生にギルドの仲間全員で盛り上がり、全員がスキルを取得する流れとなったのは、ある意味必然ともいえるだろう。
その際、男が取得したのは『多重思考』というスキルだった。
そのスキルは、同時にいくつものことを思考できるというもので、直接的な攻撃や防御に役立つスキルではなかったが、男は取得した時点ではまだダンジョン攻略者としての希望を抱いていた。
指揮官としては有用なスキルだと思ったからだ。
だが、結果として、『多重思考』は、ダンジョン攻略者となるには厳しいスキルとわかった。
いくつもの思考が出来ようとも、口も目も手も足も一人分しかない。
それに自前の知識や能力以上の思考ができる訳でもないのだ。
パーティを組んでダンジョンに挑戦してみたものの、指示ばかり飛ばして戦力としては微妙な男は、パーティメンバーから嫌われてしまった。
皮肉なことに、ダンジョン外、実社会においては男のスキルは有用で、リモートワークでの仕事と資産運用に活用し、それなりの利益を出している。
「まぁ、俺もスキルのおかげで、仕事しながらゲームしつつダンジョン実況を観るなんてマネもできる訳だけどさ、……やっぱり、あいつみたいなスキルをもらえていたらなぁ、って思っちまうよなぁ」
それほどに、その日初めてダンジョン実況とダンジョン攻略を行ったという新人のスキルは圧倒的だったのだ。
「しばらく、注目しておくか。なんかまだまだ危なっかしいし」
スキルが超強力なのはいいが、誰でも知っているようなダンジョンの常識については疎い感じのミコトという青年を思い浮かべる。
とんでもなく強いのに、どうにも頼りない、放っておけない感じだったのだ。
ギルドマスターとして多くの仲間をまとめあげて来た世話焼きの男は、仕事や資産運用を堅実にこなしながら、そう考えていた。
―― ◇◇◇ ――
「ダンジョン協会の人が言うほど楽勝って感じじゃなかったよね」
ダンジョンの上層と呼ばれる、最初のゲートまでの階層をクリアしていったん外に出た
「うーん、そうかな? 結果としてケガ一つしてない訳だし、楽勝は楽勝なんじゃない?」
「でもさ、殲滅したはずの場所にモンスターがいたときなんか、オニイサンの助言がなかったら、パニックになってたよ、俺」
しかも発見したのは動画を観ていた視聴者の
下手をしたら、安心したままモンスターに突っ込んでいたかもしれないのだ。
ということだった。
「あー、あれは私もびっくりしたな。私もダンジョンにそんなに詳しくないからねー」
「だろ! やっぱりダンジョン素人の俺をいきなりダンジョンに放り込む協会の人がどうかしてるんだよ」
「まぁその辺は、地下鉄ダンジョンならたいして危険はないって思ったんじゃない?」
「オニイサンが言ってたろ、初心者にとって一番危険なのはチュートリアルダンジョン後の最初のダンジョンだって。初級ダンジョンと油断するのはいけない、ってさ」
「あー、たしかに。あの人、かなりダンジョンに詳しい感じだったね」
正直、あのコメントの
というか、最初の罠で少しヤケドは負っていた。
ヤケド用の軟膏で今は痛みはないが。
「また来てくれるかな?」
「視聴者登録してくれてたし、来てくれるよ、きっと」
どうやら
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