第3話 スキルを使いこなせないと自滅するらしい
『おいおい、こりゃあいったいどんなスキルなんだ?』
初見だと言っていた視聴者さんが思わずといった風に書き込んだその言葉に、俺はちょっと口ごもる。
「あ、あの……ええっと」
そんな俺の様子を見て気づいたのか、視聴者さんは慌ててフォローのコメントを追加した。
『ああいや、スキルを言う必要はないぞ? スキルなんて個人情報の最たるものだしな。無理やり聞き出そうとしたとか判断されたら俺が
「お気遣いありがとうございます」
俺は常識人な視聴者さんにほっとしながら、直近の危険が排除された今の間に、コメント欄を確認する。
「ええっと、ゼロニーイチサンさん?」
その視聴者さんの名前は、0213と表示されていた。
動画視聴用のアカウントネームは本名ではないので、いろいろと現実ではあり得ない名前だったりするのは普通らしい。
『いや、オニーサンって読むんだな、これが』
「オニーサンさん? ですか。今日は見に来てくださってありがとうございます」
『オニーサンさんってゴロが悪いから呼び捨てでいいぜ!』
え? いきなりそんな距離詰めるのはどうなんだろう?
配信は初めてだし、他人のライブ配信なんか観たことないからよくわからないけど、いいのかな?
「ええっと……」
『じゃあ、よろしくね、0213』
なぜかアサミねえちゃんがいきなり呼び捨てで挨拶をした。
いや、視聴者同士で挨拶ってどうなん? まぁねえちゃんは俺の身内だから、俺側の立場からの挨拶なのかもしれない。
だけどさ、そんなこと初見の視聴者さんにはわからないよね。
とは言え、俺がそのことに言及するのもおかしい気がするのでそのまま流す。
『しかしすさまじいスキルだな。さっきの床罠も破壊しちまったのか』
ダンジョンの壁とか床とかはとても破壊しにくく、破壊されてもしばらくすると元通りに戻るらしい。
だから、破壊自体はありえないことではないのだけど、普通はやらないんだって。
そりゃあそうだろう。
罠があったとしても避ければいいんだからね。
でもまあ避けられなければ破壊もあり……なのかな?
俺のスキル、【サーチアンドデストロイ】は、決して俺が初めての取得者という訳ではない。
かなりのレアスキルではあるらしいのだけど、世界であと二人は現存しているとのことだ。
日本では俺一人だけどね。
ただし、この【サーチアンドデストロイ】というスキル、強力ではあるけど、かなりの癖があるスキルらしく、最初に取得した人は使いこなせなくてほぼ自滅みたいな感じで亡くなったとのこと。
さらに、パーティの仲間を巻き込んでしまって、ダンジョンの外でパーティ仲間の家族に復讐されて殺されちゃった人までいるようだ。
だからか、チュートリアルダンジョンを出て、協会の人が俺のスキルを確認した途端、特例で面談を行う、と有無を言わさず別室に引っ張り込まれたのだ。
そこで言われたのが、パーティは心から信頼している相手としか組めないこと、強いスキルだけど、スキルに慣れるまで、安全性の高いダンジョンで慣らすこと、だった。
俺が「いえ、俺は攻略者にはなりません」と返事すると、面談相手がちょっとしたパニック状態になり、偉い人がいっぱいやって来て、説得という名の脅迫が行われたのである。
あ、思い出したらムカついてきた。
『攻略が進まなければ国は滅びるんだぞ! そうなれば安定した生活など夢物語になる』
あれって絶対、説得というよりも脅しだよな。
仕方なく嫌々攻略者登録をしたら、今度はスケジュールまで組まれてしまった。
これって公共機関の立場を利用した犯罪じゃね?
『おい。ずっとじっとしてるが、先へ進まないのか? もしかしてそのスキル、強力だけど硬直時間が長い、とか?』
俺がスキル取得のあとに起こったことを思い出していると、
おっと、心配させちゃったな。
「あ、大丈夫です。ちょっとこのスキルを取得したときのこと、思い出しちゃいまして」
『おいおい、ダンジョン内で余裕だな。どんな強力なスキルでも油断は禁物だぞ。ダンジョン攻略者の多くが、最初のダンジョンで負傷して引退してるんだからな』
『そうそう、油断は禁物よ、ミコト』
確かに、油断はいけないな。
俺はこれまでダンジョンについて知ろうとしなかった分、普通の攻略者よりも無知なんだから、緊張感は持たないと。
「すみません。サーチである程度のダンジョンの構造は把握したので、先へ進みますね」
『おお、便利だな』
「ところでオニーサン、さっき硬直時間がどうとか言われてましたけど、そういうスキルがあるんですか?」
『ああ、有名なところでは【攻撃無効】のスキルとかがそうだな。あらゆる攻撃を無効にできるんだが、その代わりしばらく硬直状態になって一歩も動けなくなる』
「パーティの盾役としては優秀そうなスキルですね」
『あー、そう思うだろ? だけど敵のヘイト、つまり敵意を集めることが出来ないと、ただの障害物でしかないんだよな』
「なるほど! たしかに」
何も知らない俺からするとだいぶ勉強になる。
俺は関心しながら、頭に浮かぶ一部が明らかになったルートを辿りつつ、ダンジョンを進んだ。
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