『いかのおすし』
嘘だと思いたいがこれが現実なのである。小学生時代に避難訓練で取り残された挙げ句忘れ去られた記憶と共に蘇る「いかのおすし」。櫂人は地震と火災の違いをよく理解していなかったために、ひたすら心のなかで「いかのおすし」を唱えていた。役立つと思われたこの呪文は、櫂人の自己解釈により
「い➝家に帰る
か➝必ず帰る
の➝飲み会?無理無理家に帰る
お➝おうちに帰る
す➝すぐに帰る
し➝死んでも帰る」
と、都合よく書き換えられていたのである。不必要な呪文を思い出している間に、足元にはパチパチと光る炎が近づいてきていた。
「..........た..............すけ....て....」
「!?」
「だ..............れかっ..............」
幻聴か..?いや、そんなはずはない。僕にははっきり聞こえた。「助けて」という声がこの炎の中から響いている。通報しようと119まで打ち込んだスマホが僕の手からするりと抜けていった。そして、気づけば僕は火の海に飛び込んでいた。無謀な行動だと分かってはいたけれど、やはり炎は読めない。立ち込める黒い煙と火花を散らす炎は、すぐに僕の視界を奪った。煙を吸ったせいでクラクラして呼吸もままならない。これでは僕が死んでしまう。そう思い振り返った僕の足の先には一本の白い手が伸びていた。
「?!」
一眼レフじゃなくても視えるもの 綾 @kana-8103
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