第3話 可愛いって言うな…(side良)

俺は本が大好きだ。

本を読んでいる時は、その世界観に入り込んで

色んな気持ちを感じることができる。


嬉しかったり、胸が痛かったり、

ドキドキしたり、悲しかったり…

その世界観に入り込めるような話を作る人は

凄いと素直に思う。


俺がお気に入りの作家『セイレン』も

俺をそんな気持ちにさせる…。

だから、今日もまた読んでしまうのだ。


そんな心穏やかな午後2時。

今日もあいつがやってくる…。


『星野さん、こんにちは♪』


蓮見 将。モデル並みに背が高く、

これまた嫌みのごとく爽やかイケメン。

そのイケメンの顔面に甘い笑顔を張り付け

俺を見る。


「おー。こんちは。

お前も飽きないねぇー…。

こんな年上に毎日毎日会いに、そんなあまぁ~い笑顔

貼り付けて…。もったいなくねぇ?」

この会話も、もう何回しただろ?


初めに会ったのが、3か月前…か?

そう、3か月前から将は毎日欠かさず

午後2時になったら、ここ星野古書店に顔を出す。

この笑顔をしながら…。

そして、これも毎度のごとく同じ答えが返ってくる。


『飽きませんよ♪

この時間だけでは足りないくらいなんです。

ただ、午前中とか夕方だとお客様が見えるので、

あまり邪魔をしてはいけないと思って

我慢に我慢して、この時間に来ているんです。

そして、俺のこの表情は星野さんがさせているんですよ?

分かってますか?』

今日も同じ席…俺のカウンターの横の

小さな本を読むスペースの椅子に座った。

普通の椅子のはずなんだが、足が長すぎるため、

なんだか持て余しているような感じだ…。

畜生‥‥羨ましい…。


「わっかんねーよっ。」

爽やか笑顔に、鼻にしわを寄せたいや~な顔で

答えたはずなんだが、さらに笑顔を深めている…。

謎だ…。俺には心情が全く分からない。


「まぁ、将と話をするのは楽しいけどな。

とりあえず、友として受け入れてやるよ。」

これまた嫌な言い方をしているのにも関わらず


『本当ですか♪嬉しいです。

一歩前進しました♪次は親友を目指します。

そしてその先の恋人と言う地位に

昇りつめて見せますので

よろしくお願いいたします♪』

ぱあっと光り輝くような笑顔をして返してくる…。

このイケメン‥‥どっか、回路が壊れてねぇ?


まぁ、いっか。

気持ちを押し付けてくるような奴でもなさそうだし、

初めのインパクトは強すぎたけど、

普通にいい奴だし。


そんなことを思ってた時、

〈こんちわー---♪〉

元気な声が入ってきた。


「おー♪樹。今日はどうした?」

入ってきたのは”高杉樹”俺の幼馴染だ。

こいつも将ほどではないが、背が高い。

そしてお調子者。愛想もいいから女性にもてる。

俺が持ち得ないものを、持っている。

だけど、そう言ったことをひけらかしたりはしない

奴だから、未だにつるんでいけれている。


〈おー‥‥お?今日も居るねーイケメン将くん♪

元気?〉

始めこそ、このイケメンにびっくりしていたが、

柔軟なこいつの考えは凄いと思う。

いつの間にやら、お互いに会えば話し合う(?)

仲になっていた。


顔の横で手を振り、にこやかに挨拶をしている樹に対し、

将も笑顔で


『あなたに会って、元気ではなくなりましたー。

星野さんに何の御用でしょうか?

素早く申し出て、素早くおかえりください。』


俺の幼馴染になんちゅー事を…

将は始めっからこんな感じだ、

にこやかに話す樹。

にこやか(?)だが、何となく圧がある将。


俺は額を抑え


「将はいらんこと言わないでいいから…

んで樹。どうした?」

ジト目で将を見て、樹に向き直ると、


〈あぁ、この本、母さんが探してほしいって。

頼めるか?〉

本の名前が書いてあるメモを渡してきた。

題名も書いてあるし、著者名も書いてある…。


俺はニッと笑い

「おう、本見つかったら、届けに行くわ。

おばちゃんに久しぶりに会いたいし。」

そう言うと


〈母さん喜ぶわ。そん時は飯食ってけよ。

俺も可愛い弟が来たみたいで嬉しいし♪〉

そう言って上から頭を撫でられた。


「おい!弟じゃねー。同い年だろーが!

可愛いって言うんじゃねーよっ!」

頭の上にあった手を振り払いながら

膨らませた頬のままで言う。


〈ほら、そう言う所が、可愛いんだよ。〉

膨らんだ俺の頬をつついた。


「うるせーよ。ほら、用事すんだなら帰れ!

樹チャラ男。今日もデートか?」

嫌みを乗せ、手をひらひらさせて聞くと


〈おう♪今日はとびっきりの美人さ♪〉

嫌みは全くのスルーされ、足元軽く出て行った。


「…ったく、可愛いって言うんじゃねーよ。」

ぶすっとしてつぶやくと、

こちらを見ていた将もそうとうぶすっとした顔をしていた。


「お?どした?なんでお前がぶすっとしているんだ??」

意味が分からず顔を覗き込む。


『星野さん、頭撫でられていた。

あいつの家で飯食ってけって言ってた…。

あの高杉ってやつ、やっぱり気に入らない。』

めっちゃ拗ねてる‥‥。


「あんなのいつもだろ?

撫でられたからなんだ?減るもんじゃねーからいいだろ。

まぁ、上からされるっているのが屈辱的だけどな!!」

半分怒ったような顔をして言うと


ははっ♪と将は笑顔になり

『星野さん、かわっ‥‥‥うそのようにかっこいいです…。』

途中で、はっとして何かを飲み込むように

方向転換した言葉を告げた。


「はぁ?カワウソってかっこいいか?

初めて聞いたぞ?それに俺カワウソみてーなの??」

カワウソってなんだか可愛い動物系だった気がするんだけど…?


『星野さん、可愛いって言われるの

好きじゃないんですよね?』

微笑を絶やさない将が困ったかのように聞く


「あぁ、嫌だよ。だって、

可愛いの言葉はいつも”背が小さくて”って言う

枕詞が付いてるんだ。

そんな言葉を言われてもうれしかねーよ。

背か低いからってなんだよ。

伸びたくなくてちっちゃいんじゃねーんだよ。」


吐き捨てるように言うが、実に大人げない。

言って居たたまれなくなり


「悪い…こんな愚痴忘れてくれ。」

いつもの調子の俺に戻り肩をすくめて言った。


『俺は、星野さんが嫌がることを言うのは絶対にしません!

星野さんの好きな事、好きなもの、嫌いな事、嫌いな物。

たくさん教えてください!』

俺の顔を真剣な表情で見つめて言ってくるが、

正直イケメンの真剣な表情はこえー…。


俺は将のデコに人差し指を付け、そのまま

ぐぐっと押して距離を取った。

「ちけーよ。将。けど、ありがとな、

大人げねー愚痴も笑わずに聞いてくれてよ。」

ポンポンって将の頭を軽くたたいた。


「あ、こういうのって嫌か?

俺が嫌がっているのに、人にやっちゃダメだよな?

わりー…。」

ばつが悪く顔の前で掌をくっつけて謝るポーズをとった。


でも、将は少し顔を赤くして

『いえ…星野さんにそうしてもらうのは

俺にとっては凄く嬉しいので、今後気が向いたらで

いいので、してください。』

蕩けるような笑顔をしていた。


そんな将だから

「将ならいいかな。」

苦笑して言う。


『え?』

戸惑った顔が返ってくる。


「お前なら馬鹿にした可愛いは言わねーだろ?

言いたいと思ったなら言えよ。

お前の感情まで押さえつける気はないよ。

まぁ、俺に可愛いところなんてないがな!」

最後の言葉を強調してこの会話を終わらせ、好きな読書に戻った。


そんな俺に、将は机に肘をつき掌に顎を乗せ

少し顔を傾けて、


『あり過ぎて困ってますよ。』


小さな声で言っていたが、

俺の耳には届かなかった…。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

今日も今日とて愛が重い【1】 ちゃにゃ @pandavv

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ