第2話 運命?嫌ですよ。そんなの(side将)

自宅のマンションから10分弱で若草駅に着き、

そこから5分で菫駅に着く。

あとは3分ほど歩けば目的の

初日商店街(はつひしょうてんがい)

に着く。

ここは、昔ながらの懐かしい、優しい雰囲気の

商店街だ。

その商店街の中央少し過ぎた所に

好きな人が営んでいる古書店がある。


「星野古書店」


俺が通い続けている大好きな場所。

昨日ついに思い続けていた人に告白をした。

相手は星野良さん。

思った通りに告白は断られたが、

そんなのは想定内。

そんなことで俺の想いはなくならない。


星野さんは昨日、俺と会うのが初めてと

思ってたみたいだけど、実は初めて会ったのは

2年前。

あの頃の俺は、完全に人間不信な状態だった。

大学卒業したにも関わらず

職もついていなかったし…。


ー2年前ー


俺の幼少期は、本当にごく一般的な少年だった。

だけど、小学校に入って少しした頃。

周りが色恋沙汰に目覚め始めるころ、

俺の周りは騒がしくなった。

女の子からは、やたらにくっつかれるし、

告白をされる。

まだ、小学生の時はまだ良かった。

全部断っても、友達として遊ぶことはできた。


だけど、中学校、高校に入ると

女子が近寄ってくる→告白される→俺が断る→断った女子から陰口たたかれる。

その繰り返し、もぅ、うんざりだった。

だから近寄るなオーラを出したけど、

女子のパワーってすごい…

追い返しても、追い返しても来る。

男子からは妬みが来る。

なんなんだ‥‥俺が何をした。

誰も、もぅ俺にかまうな!


大学からは、前髪を伸ばし、

外出する時は周りを見ないために帽子を目深にかぶり

モノトーンの服を着た。

人とほとんど友人としても付き合うことをしなくなった。

その間、誰も心に響く人もいなかったし、

一人でも全く不便なく過ごせた。


大学卒業した22歳。

俺はこれから先どうしようか迷っていた。

人とたくさん接するのは嫌だった。

人が嫌い…と言うわけではなく、

心底面倒くさい、と言う感情しかなかった。


ある日、用事があり菫駅に行った時の事、

俺は自分自身にも興味がなかったため、

食事の事など忘れていた。

駅で思いっきり貧血になり、

立つことも出来なくて、

邪魔にならない端に座り込んでいた。

顔が見えなく、全身真っ黒の服。

おまけに帽子を目深にかぶっている奴に

誰も声などかけない‥‥。


そんな時


トントン…誰かが俺の肩をたたいた。

顔を上げると、髪の毛を後ろに無造作に

束ねている前髪の長い女性が俺を覗き込んでいた。

そして…え?スマホ?


”どうしました?”


その文字が打たれているスマホを俺に向けてきていた。


『あ…ちょっと貧血で…でも大丈夫です。』

そう答えると、ちょっと考えたそぶりを見せ

一つうなづき


”ちょっと待ってて”


またその画面を俺に向け、どこかに行ってしまった。

特に騒がれることもなく、ほっとしていたら。

またトントンと俺の肩がたたかれた。

再度顔を上げると


”これ食べて。”


という画面を見せ、

コンビニ袋を俺に渡した。

そこには

栄養補助食品。お茶、お水

サンドイッチ、おにぎり

が1つずつ入っていた。


『?』

訳が分からず首をかしげると


”少し食べたら動ける、

食べれるものは食べたほうがいい”


と画面を向け、少し笑った。



…トクン…



俺の心臓がなった気がした。


『すみません‥、あ、お金‥。』

と財布を出そうとしたら


”今はあまり動くな、食べろ”


と手を抑えられた。



…ドクン…


今度はさっきより自分でもわかるような

心臓の音がした。


”じゃ、お大事に”


その画面を見せ、立ち去ろうとしたときに、

俺の帽子に付いていたボタンが、

女性の髪に引っかかってしまっていた。


とっさに帽子を取り、ボタンを引きちぎろうと

した時に、また手を抑えられ、

首を振っていた。


『?』


この短い間にこのしぐさを何回やるんだ?

って思うくらいのしぐさ…首をかしげてみせた。


女性は持っていたカバンの中からハサミを

取り出して躊躇なく自分の髪を切った。


『!?』


あまりの事に目を開いて固まってしまった俺に

ニッって笑って。


”帽子似合っていたから大事にしろよ

ついた髪は後で捨てておいて。”


そうスマホ画面に打ち、俺に見せて

すぐ立ち去ってしまった。


俺にとって忘れられない出来事だった。


女性はみんな避ける対象だったのに

その人は、嫌な気が全くしなかった。

それどころか、名前も電話番号も

聞けなかったことを猛烈に

自分自身相手に怒りを感じた。


誰も声をかけない俺に気づいて

誰か分からないのに、食べ物を渡し

帽子に髪が引っかかれば自分の髪を切る。


そんな…そんな人には今までにいなかった。


もう一度、あの女性に会いたい。


その想いで1年の間、菫駅に通い続けた。

だけど、それ以来1度もあの人には

会えなかった‥‥。


近くに商店街があることは知っていたが、

寄ったことはないと思って、何の気なしに

歩いてふと、その中の古書店を見たら



見つけた!!!!!!



心臓がドクン‥‥

なんて可愛いもんじゃない。

誰かに心臓を直接鷲掴みされたような衝撃。


だけど、様子がおかしい…

顔はあの人。

確かに顔はあの人なんだけど、

‥え‥‥男性???


なぜかって?

お客と話しているところを見かけて

さりげなく近くに寄ってみると

間違いなく男性の声。

少しだけ男性にしては高いけど…。

けど、絶対に男性。


俺の中で女性と思っていた

その人は男性だった。

その事実に、

あの時のお礼を言うのも忘れて

家に帰って来てしまった。


家に帰って、

自分の中の自分の想いを整理してみる。

ずっと会いたかった人は女性…ではなく

男性だった。

俺は、男性を好きになった…。

で?

俺はその事実が分かって何がしたいんだ??

分からない。

でも、だからって綺麗すっきり

諦められる気もしない‥‥。

じゃぁ、しばらくあの人が

普段はどんな人なのか、

俺のこの想いはどうしたいのか。

考えてみよう‥‥。


それから、生活もしていかなければいけない。

今までみたいに貯金だけで生活はしていけない。

そのため、就職もしなければいけない。

そう思っていた時に偶然にも以前、

何となく書いた小説が、賞を取ったって

電話がかかってきた。

そっから何となくズルズルと小説を書くように

なって、作家デビューをした。

デビューの時、ペンネームはどうするか

聞かれたときに、思い浮かんだのが、

”星野古書店”だった。

そこから”星”を取って、俺の”蓮見”から”蓮”を取って

音読みをし”セイレン”とした。

何を書いていいのかわからず、

色々なジャンルを片っ端から書いていった。


その間も俺は星野古書店に通っていた。

でも、あの人には声をかけず、

遠くから見ているだけ。


あの人は、顔のわりにサバサバしていて

どんな人にも態度が変わらず

はっきりものを言っている。

そして案外喧嘩っ早い…。

この間も、ちょっとやんちゃそうな人に

女性が絡まれていて、

その人を助けようとしたときに

真っ正面から向かって行っていた。

さすがにひやひやした。

だから、俺は絡んでいた男の首に自分の腕を

ひっかけ、あの人から遠ざけた。

目の前に俺が出て行ったらばれてしまうかな?

覚えていてくれているかな?と

思ったが、全く気付かれなかった。


‥‥あぁ、絡んでいた男は、帰っていただいた。

えぇ‥‥二度とあの人の所にはいかないように

親切丁寧に脅し…じゃなかった…説明して。

なんだか帰る時、顔が青白かったけど、

まぁ、分かってくれたから何よりだ。

あの人に傷でもつけたなら‥‥ふっ…

説明では終わらなかっただろうな…。


そんなあの人を見つめるために

商店街に半年通った。

その間に、あの人について

俺が思ってなかったのと違う部分、

やっぱりって思った部分、

新鮮な部分、

思わず笑ってしまう部分もあった。

あの人の事を知っていって気が付いた。


まるで積み木を積んでいくように、

あの人の事を知るたびに

1つずつ好きだという気持ちの

積み木が積まれていく‥‥。

半年の間に、自分でも一番上が見えないくらい

高くなってしまった気持ちの積み木‥‥。


初めから恋だったんだ…。

女性でも、男性でも関係がない。

俺はあの人を…あの人自身を好きになったんだ。


知れば知るほどあの人が欲しいと思う。

乾いた砂漠の中で水を欲しがるように

強烈にあの人が欲しい…。


自分自身見ているだけは

もう限界だった。

あの人に俺の存在を知ってほしい。

その瞳に俺を映してほしい。

どんな言葉でも構わない。

声を聞かせてほしい。



なら




行動を起こすべきだ。


あの人を手に入れる為に‥‥


『星野さん、こんにちは』

今日も俺は星野古書店に通っている。


「げっ!本当に来やがった。」

俺を見て、開口一番その言葉を吐いた。

でもかまわない。


『はい♪今日も来ました。』

にっこりと笑い、星野さんの言葉を受けとめる。


「本気かよ‥‥。」

ちょっと脱力しながら俺に言う。


『もちろんです。絶対に諦めないので。』

笑顔を崩さない…と言うより、

星野さんの顔を見たら自然とこの顔に

なるのだから仕方がない。


「お前…」

『どうか”将”と呼んでください。』

食い気味に主張した


「はぁ?…まぁ、いいか。あのな?将。」

諦めたように名前呼びを受け入れてくれる。

優しい…

また今、積み木が積まれた…。


「俺に会ったのがいつか知らねーが、

”運命”とか言うのはやめてくれよ。

寒気がするわ。」

店の中は全く寒くないのに震えるしぐさをする。

可愛らしい…。

また1つ積み木が積まれた‥‥。


でも、ここは反論する。


『はぁ?運命ですか?そんなん嫌ですよ。

そんな誰かに気持ちや行動を決められる感じなんて。

俺は、俺自身が!星野さんを見つけ、好きになり

追いかけているんですから。

運命なんかじゃないです。

そんな言葉一つでこの気持ちは収まりませんから。』


自信もって答えたのに………。


真顔で

「重っ!!!!!」

叫ばれてしまった。


星野さんを手に入れるまでは

あとどのくらいだろ‥‥


俺だってはっきりするまで時間がかかった、

星野さんはもっと年月がかかるかもしれない…


そのうち出会いの事を星野さんに聞いてみようか…

なぜ、あの時声を出さなかったのか。

ハサミを持ち歩いていたのか。

俺がずっと疑問に思っていたことを。

覚えているかな…

覚えていたらいいな…


今現在、俺は星野さんの視界に入っている。

俺を見てくれている。

話してくれている。

俺の想いを受け入れないまでも聞いてくれている。

今は…今のところはそれでもいい。


それでも、今幸せなのだから……

また1つ積み木が積まれた‥‥。


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