今日も今日とて愛が重い【1】

ちゃにゃ

第1話

『あの…俺…あなたの事が気になるので、お付き合いしていただけませんか?』


 ここは星野古書店ほしのこしょてん

 昔からある商店街の中にある小さな古書店。

 俺、星野良ほしのりょうの職場。

 そして俺の大好きな場所。

 俺の両親…は…。

「もう、ずっとがんばって働いてきたから、良に任せるわ。」

とまだまだ働ける年齢にもかかわらず、引退した両親。

 引退しても、じいちゃんの時から土地を持っていて、マンション経営をしているから生活には困らないとやらで、二人ともしばらく旅をしてくると出て行ったのが1年前…

 どこで何をしているやら…。

 連絡もないから元気にしているという事だろう。


 1年前までは、古本屋さんで働いていた俺は、特に生活が極端に変わらないと言う理由で古書店を受け継いだ。


 ここは時間がゆっくりで好きだ。

 今現在、午後2時。

 お客さんも今は少なく、ゆっくりできる時間。

 この時間はいつもパソコンで帳簿付けしたり、本の虫干ししたり、

 掃除したり、そして‥‥大好きな本を読む大切な時間。

 今日は今お気に入りの作家【セイレン】の本を読んでいる。

 この作家は日本人なのか、そうでないのか。

 男性なのか女性なのか謎。

 毎回毎回ジャンルが違ってドキドキわくわくしながら楽しんで読んでいる。

 そんな楽しい時間に冒頭の言葉が頭上から降ってきた。


 俺は顔を上げて、声の主を仰ぎ見た。

 帽子を目深にかぶり、表情が見えないが‥‥でけぇ‥‥。

 僕が165㎝と言う男性で行くと少しだけ…すこー--しだけ、小柄ってのもあるけど、

 それにしてもでけぇ‥‥。

 僕が立っても見上げる身長…う…羨まい…。

 あぁ、いや、今はそれどころじゃない。


「えー‥‥っと、いらっしゃいませ。そのような題名の本は‥‥あったっけ?

 どこの出版社ですか?あ、作家さんのお名前は何ですか?お探ししますね。」

 出版社や作家の名前を聞こうとメモを片手に笑顔を向ける。


『あ‥‥いや‥‥本ではなく、今、俺はあなたに告白をしています。』

 と、俺に掌を向けながら答えた。


「えー----っと………はい?」

 ものっすごく間抜けな声と返し方をしてしまった。


『あなたがずっと気になっていましたので、お付き合いしてください。』

 ちゃんと聞こえているのにゆっくりとはっきりと冒頭の内容と変わらない内容を告げてた。


 なんで??意味わからん…。

 俺ははっきり言ってモテない。

 なぜならば、女顔で身長も低い…ちょっとだけ…。

 それに女顔がみんな綺麗可愛いって思ったら大間違い。

 女顔だけど、少し目のでかいと言うだけの一般人中の一般人だと思う。

 前髪も女顔を見せないために伸ばしている。

 目の下くらいまである前髪で嫌がられる始末。

 そして何より超インドア派なので、外にあまり出ない。

 年齢も30歳。結構いい歳だ。

 そんな俺が、相手が男性とはいえ好意を持たれるなんてありえねぇ…。


「あの………俺、男ですが…?」

 訝し気に見上げると、


『そのようですね…始めは女性だと思っていました。

 だけど、今現在は男性だときちんと把握しています。

 100%承知の上、告白をしています。』

 顔はまだよく見えないが、なかなか粘るな…


「あのー、どなたかと間違われていませんか?

 絶対俺ではないはず!なぜならば、俺はあなたの事

 全く知らないので!」

 首を左右に振り、後ずさり俺の事ではないと主張する。


『いや、絶対にあなたなんです!!俺本気なんです!

 あ…俺は蓮見将はすみしょうと言います。

 蓮を見る大将の将で、蓮見将です。

 あなたのお名前は…星野…良さん…で合ってますか?』


 なんで俺の名前…あぁ…胸につけているネームプレート…ね。


「あぁ…まぁ…はい…合ってますが…。」


 俺が男だと知りつつも、全く勢いが収まらねー…。

 いや…なんだか身体が前傾姿勢に…なりつつある!?


 なんだかその圧が怖くなってきて、さっきより後ずさる…。

 だってさ、馬鹿でっかい奴が前傾姿勢になって圧かけてくるって

 結構怖いぜ?


 そんな後ずさる俺に焦ったのか、勢いよく帽子を取って

『あぁ、すみません、帽子かぶったままでした。

 俺すごい緊張してしまってて…でも、決して変な奴ではないんです。

 あなたに危害を加えるつもりは全くありません。そんな…逃げないで…。』


 でけーのに…犬みてぇだな…

 って言うより、なんだ?


 なに?こいつ‥‥めっちゃイケメンなんですけど…誰?

 帽子を取って困り顔で俺の前で縮こまっている大型犬

 …もとい、イケメン男性は…。

 それに絶対に若いだろ…。

 俺の知らない若い男性…?

 ますます、なんで告白されたのか全く理解不能だ。

 そんなやつに『変な奴じゃない』と言われても

 十分に”変な奴”だ…。


「あのー‥なんで蓮見さんが俺を気に入ってくれたってのが理解不能なんですよ。

 それに絶対に俺より若いですよね?」

 警戒しつつ聞いているのに、俺に名前を呼ばれたのが嬉しいのか何なのか、ニコニコしながら


『今年24歳になりました。』


 …は?

 24!?


 俺がランドセルを背負う頃、こいつは生まれ。

 俺が中学校に上がる頃、やっとピッカピッカの1年生。

 いやいやいやいや‥‥ないわぁ~…無理でしょう。


 もとより恋愛感情持てねーし。


「あのさ…ごめんだけど、無理だわ。俺、今年で30歳だし、恋愛対象、女性なんだわ。

 蓮見さんは俺から見ても、すっげーイケメンだし、モテるでしょう?

 若ぇし、何も男の俺ではなくてもいいんじゃないか?なので…わりーな…。」


 そう言ってカウンターから出ようとした所、俺の前に立ちはだかって

『待ってください。俺は絶対に諦めません!始めは断られるって覚悟していました。必ず明日も来ます。明後日も来ます!』


 ち…近っけー--‥‥。

 イケメンを間近に見るって‥‥迫力があるんだな……


 って関係がないことに感心している場合じゃねー!!

 俺は持っていた本を顔の前にかざし、迫力のあるイケメンを視界から遮って


「あのー、頑張ろうとしているところ申し訳ないが、とにかく!

 お付き合いはないので、諦めてください。では…。」

 横の隙間から抜け出そうと思っていたけど、

 俺が持っていた本ごと、俺の手を握り


『俺、振り向いてくれるまで頑張ろうって決めたんです。

 星野さんを俺の腕に抱きしめるまで決して諦めません!』


 うわぁー…迫力のあるイケメンから完璧にロックオンされている…。

 マジか……。


「あー--…オテヤワラカニオネガイシマス………。」

 全く感情が入らない、言葉が口をついた。


『いえ!頑張らせてくださいね。星野さん♪』

 そう言ってモデル並みのイケメンスマイルをぶつけてきた。


 誰か…誰か…だれかー-----!!!

 俺の平和な日常返してくれー-----っ!!!

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