22話 行き着いた先

 揺れ動く一つの馬車の中から、小さな小鳥が顔を出すと、小鳥は元気よく澄み渡った青空へと羽ばたいた。


 その様子を馬車の中から確認したルミナはとても上機嫌にリヴァイに声をかける。


「ちゃんと飛んで行ったわ!手紙届けてくれるかしら!」

「大丈夫だよ、魔法に失敗してたらまず羽ばたかないから」


 セレンティア王国からフルール王国へと向かいはじめて5日目。この5日間、リヴァイが書いた手紙を魔法で小鳥に変換させ、送るのを見ていたルミナは私もやりたい!と手を挙げたのだ。


 魔法が使えるようになったルミナはコントロールが身につくまでリヴァイに魔力を吸収してもらい、コントロールができる魔力量で魔法を使っている。 


「本当に、魔法を使えるようになって良かったね」


 リヴァイはそう言いながらも膝の上に座っているルミナを力強く抱きしめ、顔を歪めた。


「……僕と離れたからこそ分かったって言ってたけど、すごく辛かった。もう離れないでね……」

「ええ、もう離れないわ」


 馬車で移動を始めた日から二人は離れていた間のことをお互いに話し合った。


 ルミナが居なくなったことを知ったリヴァイはオランが何かを知っていると気づき決闘したこと、シリウスとライル、クリスに執務は任せてきたこと、カミラとマリアにルミナのことを任されたことなどなど。


 ルミナはリヴァイの話を聞きながら皆に申し訳ないなと苦笑したのであった。


 ちなみにあの場所での再会はアリシアの謀りごとだったということもルミナはリヴァイから聞き知った。


「皆が王城で待っててくれるなんて思ってなかったわ」

「皆心配してたから。安心させてあげて」




 ルミナとリヴァイが王城へと着き、馬車を降りるとルミナは柔らかいものに突撃された。


「ルミナ様!もう会えないかと……!」

「カミラ、ごめんなさい。ちゃんと戻ってくるつもりではいたのよ?」


 突撃されたことに驚きながらもルミナはミルクティー色の髪を安心させるように撫でる。


 その様子に、カミラと馬車乗り口で待っていたミレーヌは、再教育が必要そうですわねと苦笑したが、ミレーヌもまたルミナをみて頬を緩ませた。


「再会を喜ぶのはわかるけど、皆サロンで待ってるはずだから行こうか」


 いつまで経っても離れない二人に痺れを切らしたリヴァイは先を促し、カミラとルミナはサロンへと向かう。


 サロンで待っていたのはシリウスとライル。そしてオランだ。


「帰ってきたのか。留学が終わってもルミナ嬢がセレンティアにいたら婚約を申し込もうと思っていたのに」

「もうルミナに近づくな」


 オランの発言にリヴァイは冷徹な視線を向け、冗談だと捉えたルミナはくすくすと笑う。


「ちなみにこれ冗談じゃないからね」

「え……」

「僕の初恋、ルミナ嬢だから。リヴァイの隣にいてくれないと僕は諦められないよ」


 にこりと微笑んだオランにルミナは何も言えなくなったが、だからリヴァイと幸せになってねと言う言葉には、はい!と力強く答えた。


「オラン殿下、決闘であんなにやられたのによくそんなこと言えますね」

「これ以上仕事を増やさないでください……」


 突然行われた告白にシリウスは呆れ、ライルは今後を恐れた。


 穏やかな空気で皆が話し合っているとノックの音が聞こえ、全員が扉へと目を向ける。


 そんな中入ってきたのはクリスだ。

 遅れてカロンもサロンへと足を踏み入れたがルミナを見て目を見開く。


「お帰りなさい、兄上。ルミナ義姉様」 

「ただいま」

「……お帰りなさいませ。ルミナ嬢……?」


 戸惑いを隠さないカロンにルミナはくすくすと笑って答える。


「魔力、戻ったのよ」


 さらりと告げたルミナにクリスへと向けられていた視線が移った。


「え!?戻ったんですか!?」

「見る限りまだ全快では無いようですが……」

「あぁ、それは僕が魔力をもらったから」


 驚いたカミラにカロンが答え、カロンの疑問にリヴァイが平然と答える。


 サロンは途端にルミナへの質問会場へと化した。


 いつ戻ったのか、なぜ戻ったのか。そんな質問を次々へと答えているとカミラが目を輝かせながら口を開く。


「ルミナ様の魔法みたいです!」


 その一言でルミナは魔法を使う事になった。


 せっかくなら好きな魔法を使用したい、というルミナの要望でサロンにいたものたちは庭園へと移動する。


 移動する際、クリスが騎士へ何事か伝言を頼んだのをみたのはリヴァイだけだ。


「リヴァイ、見ててね?私の好きな魔法」

「もちろん」


 ルミナは微笑んで、手のひらの中にいくつかの魔法を展開させる。

 少しだけ改良はしているもののこの魔法を使うのは二度目だ。


 魔法陣からは光を纏った水のユニコーンが現れ、見ているものたちの前を駆けながら通った道を7色の光で輝かせていく。


 魔力暴走を引き起こす前にリヴァイが見せた魔法。

 ルミナはこの魔法がリヴァイにとっても心苦しいものになっていることをしっていた。

 10歳の時以降、一度もこの魔法を使っていなかったから。


 ユニコーンは庭園を駆け周ると一度お辞儀をし、空へと駆けていく。一つだけ違うのは、空に虹を作り出したことだ。


 ユニコーンが消え、光の粒子が降り注ぐ中、ルミナはリヴァイへと微笑む。


「私のだーいすきな魔法よ」

「……本当、ルミナには適わないな」


 リヴァイは瞳を少しだけ潤ませながらそう答えた。


 幻想的な光景に誰もが息をのみ、言葉を発せない中、ぱちぱちと拍手の音が聞こえ、ルミナとリヴァイは振り向く。


 その先にいたのは王と王妃だった。


「見事な魔法だ」


 みながみな、挨拶をしようとしたところ陛下がそのままで良いと告げ、ルミナとリヴァイの顔を交互にみた。


「時期王太子、王太子妃としての活動を今後も楽しみにしておる」


 優しくも貫禄がある声で告げられた言葉にリヴァイとルミナが理解出来ずにいると、詳しくはクリスにお聞きなさいなと王妃が微笑んだ。


 王と王妃はそれだけ言うと用は終わったと言いたげに庭から去って行った。


「クリス……?どういうことだ」


 我に返ったリヴァイがクリスに目を向けるとクリスは微笑みながら言葉の通りですよと答えた。


「時期王太子、王太子妃となるのは兄上とルミナ義姉様です」

「王位継承権は放棄すると……」

「僕はまだ王太子教育を受けていません。そんな状態で決めるよりも、兄上が魔法陣を作ろうとしているので待ってみるのはどうか、と進言したんです。少なくとも後一年は待ってもいいのでは、と」


 呆然とするリヴァイにクリスはイタズラな瞳をむける。


「僕は王になる覚悟をもって過ごすよう約束しましたが、兄上が放棄した時に大人しく王になりますとは約束していませんよ」 

「リヴァイも悪いんだよ、王位継承権の放棄手続きを正式にせずルミナ嬢を迎えに行ったんだから」


 このことを知っていたシリウスも楽しそうに微笑み、リヴァイは嘘だろ……といいながら髪を乱した。

 その光景にルミナは思わずくすくすと笑う。


 そんなルミナにリヴァイは苦笑しながら瞳を向け、口を開く。


「王太子妃になってくれる?」

「ええ、もちろん」


 この日、ルミナはリヴァイが王としてこの国を導いていくのを手伝いたい、隣にいたいという、願いのような誓いをもう一度心に刻んだ。



 ❀❀❀――――❀❀❀



「おとうさま!」


 さらさらのプラチナブロンドにエメラルドの瞳をもつ、ルルティア・フルールは父であるリヴァイ・フルールへと飛びついた。


 リヴァイは軽々とルルティアを抱えあげ、頭を撫でる。


「ティア、今日はミラフェス君と見ておくんだよ」

「うん!おとうさまとおかあさまのとっておき、たのしみ!」 

「それではミラフェスも待っているので行きましょうか」


 ミラフェス・ジャクソンの父でありながら、フルール王国の中枢をになっているライル・ジャクソンがルルティアへと手を差し出すとルルティアは嬉しそうにライルの手を取る。


 ルルティアとライルが向かうのは王城のバルコニーだ。


「なんだか懐かしいですね……」


 そうしみじみと呟くカロンに、微笑ましげに見ていたルミナもそうねと頷く。


「ルミナと僕が初めて一緒に見たのも5歳の時だったからな」

「あの時はとてもはしゃいだのを覚えているわ」

「王妃殿下は今でも陛下が新しい魔法を作るとはしゃいでいるではありませんか」


 くすくすと笑うシリウスに、ルミナは少しだけ恨めしげに視線をむけ、仕方がないでしょう?と答える


「リヴァイの魔法はとても綺麗なんだから」

「そういうのはルミナだけだよ」


 そんなやり取りをしながら、二人はフルール王国の民たちが待っている場所へと足を進める。


 ルミナが再度誓いを立てた後、ルミナは学園に通いながら日々魔力のコントロールができるように過ごした。


 ライル・ジャクソンとカミラ・ウォーカーが、リヴァイから頼まれていた魔法陣を完成させ、婚約をしたのは17歳の時。


 二人は9年たった今でもリヴァイとルミナにとってかけがけのない人だ。


 ルミナが無事に魔力のコントロールを身につけ、学園を卒業するとリヴァイは王太子へとなり、忙しいながらも充実した日々を送った。


 やがてリヴァイとルミナが婚姻し、生まれたのがルルティア・フルールだ。


 王太子と王太子妃という立場に慣れた頃、陛下と王妃はあっさりと退位しリヴァイとルミナは王と王妃になったのである。


 今日は一年に一度のフルール祭。

 ルミナとリヴァイは目的地に着き、ひと呼吸すると二人同時に手をかざし、幾つもの魔法陣を作り出した。


「皆、笑顔だね」

「ええ、ここまで頑張って来ましたからね」

「僕と君が導いた国はどう?」


 リヴァイはイタズラげにルミナへと問いかけ、ルミナは喜色を隠さずに答える。


「最高よ!」


 その言葉と共に光を纏った花びらが魔法の粒子とともにフルール王国へと降り注いだ。 



多くの人の幸福と笑顔を願って今年もまた花びらが舞う


 


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

僕の隣は君だけ 藍葉詩依 @aihashii

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ