第27話 5年後の未来(2)

 結婚記念日の当日、朝からソワソワしている遼真。いつもよりヘアスタイルなんか気にしちゃって。心持ち父さんまで様子がおかしい気がする。


「ねぇ、今日はどこにお出かけするの?」


 私はしずくのツインテールを三つ編みにしながら、遼真にたずねてみた。しずくはお気に入りのうさちゃんのぬいぐるみをしっかりと抱きしめ、パパのところに走っていく。


「パパ、うーちゃんもいく」


「よーし。じゃあみんなで出発だ!」


 今日はお父さんも一緒に4人で車に乗り込んだ。クラゲとマリリンは仲良くお家でお留守番。家から車で1時間程走ると森の中に教会が現れ、ここで車は停車した。


「実は睦にプレゼントがあるんだ。今から俺たちのささやかな結婚式をしよう」


「え?だって準備とかなにも……」


 そう言うと遼真は私の手を引いて、教会の一室に案内してくれた。部屋の中には、シンプルなウエディングドレスに行きつけの美容師さんまで待機していた。


「本日はおめでとうございます」


「うそぉ、なにこれ」


「ほら。みんな俺たちのために集まってくれてるから睦は今からお姫様に変身だよ」


 私のためにこんなサプライズを準備してくれた遼真の気持ちが嬉しすぎて、久しぶりに涙があふれた。


「やった〜。サプライズ大成功!」


「遼真さん、まだお式はこれからですよ」


 美容師さん達に笑われながら、私達は準備を始めた。



 教会の扉が開き、父さんと腕を組みバージンロードを1歩1歩あるいてゆく。真っ白いタキシード姿の遼真は本物の王子様みたい。


「遼真、娘を頼んだぞ」


「はい。俺達これからもっと幸せになります!」


 父さんと遼真は誰よりも涙をながし、それを不思議そうに見つめるしずく。私はステンドグラスから漏れる光の中に母さんの面影を感じていた。誰より温かく優しい光となり、見守ってくれているようだった。

 

 式を終え教会の扉が開くと、フラワーシャワーが風に揺れ、華やかな香りと共にみんなの笑顔がみえる。隣には誓いをかわした愛する遼真の笑顔。


 私はブーケトスをしようと、みんなに背を向け手に持った真っ白いブーケを構えた。そして女性たちの集まるほうに投げた……つもりだった。スローで私の手から飛び立ったブーケは逆方向に弧を描きながら、すっぽりと光樹の手におさまってしまった。


「どんまい」


 遼真が私の肩に手を置いて苦笑いしてる。だってこんな練習してないもーん。絶対あとで光樹にしめられるわ私。だけど、ある意味一番幸せになって欲しい友人に渡せたのかもしれない。


 もの凄く気まずい雰囲気に、右手で顔を覆い顔を伏せる光樹。思わず隣にいたユキちゃんにそっとブーケを渡した。


 その時奇跡の天使が微笑んだ。


 ブーケをもらったユキちゃんは桜色に染まった頬を光樹にむけると、キリッとした表情になった。


「光樹さん、私と結婚してくださいぃぃぃ」


 さっきまで桜色だった頬は、林檎のように真っ赤に染まり、ギュッと目をつむっている。ユキちゃんの気持ちは知ってたから、なんとも彼女らしい告白が気持ちよかった。周りのみんなはざわつき、不思議な雰囲気に包まれた。


 珍しく慌てている光樹。だけど、きっと彼も彼女の気持ちを感じていたはず。私は静かにふたりの成り行きを見守った。


「てかここで告白とか反則だぞユキ。あ……とりあえずデートからな」


 そう言ってユキちゃんの頭を撫でる。ユキちゃんは、信じられないといった表情で光樹を呆然と見てめていた。その後、光樹のスーツの裾を引っ張りながら、こっちに向かってブーケを振りまわしてたっけ。なんとも可愛い子だよ〜。


「あれれ。なんだか主役を取られちまったみたいじゃん」


 わざと拗ねた顔をしながら遼真がボソッと呟く。


「そんな訳ないでしょ。遼真は私だけの王子様なんだから。もっかい誓いのキスする?」


「ねぇ睦。あの日お互いあの居酒屋で出会い、カフェで再会していなければこんな未来なかったんだよね」


 空を見上げながら遼真は遠い目をしていた。


「本当はレンタル彼氏としてもっとたくさんの女の子の笑顔を守りたかったんじゃないの?」


「今は大切な睦と家族の笑顔を守ることが俺の使命なんで」


 そう言って私に優しく微笑んだ。私が愛した遼真の瞳はいつにもまして澄んだ色をしていた。こんなに素敵な結婚式なんてないんだから。この日の思い出を私は心に刻んだ。


 人生って何が起こるかわからないもんだよね。楽しいことや、悲しいことだけじゃないし、どんなに足掻いても避けられないこともある。でも進むしかないじゃん、笑ってさ。

 

 結婚式の翌日。朝からいつも通りお店のオープン準備に走り回る。しずくは、お店の前に並んだビオラ達の前に座りこみ水やりをしている。その隣では、キャップをかぶり前掛けをした遼真が元気に声を張り上げている。


「いらっしゃいませ〜」


 今日も晴天。ねぇ母さん、そのうち土産話沢山持ってそっちに行くから、それまで私達のことしっかり見守っててね。



おわり



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ここまで読んでいただき本当にありがとうございました。

おかげさまで最終話まで辿り着くことができました。


また他の作品も読んでいただけるように、ゆっくりですが懲りずに頑張っていきます。


にこはる






 


 


 

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レンタル彼氏との恋はおあずけ にこはる @nicoharu

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