第4話 宇宙人と僕

薫からの二度目の告白の後。

夜眠れる訳もなく、落ち着くためにも僕は夜の街へと繰り出した。夜の街といっても、周りを散歩するだけだが。


僕は導かれるようにして、近くの公園に来ていた。幼少期、近所の友達と遊んだ思い出の地。もちろん、由奈や薫も一緒だった。その頃も、由奈は独りで大人しかった。そんなことを考える内に、目の前に人影があった。由奈だ。



「こんな夜中に…不良少年ね」

「それはお互い様でしょ」

「それもそうね」



何故ここにいるのか聞く気力もなかった。

どちらかというと、聞いたところでそんなものに価値は無いと思ったのもある。



「何か考え事?」

「……え?」

「さっきから目の焦点が合ってないから」

「考え事というよりかは、悩み事、ですかね」

「話、聞きかせて」


「僕には、誰かを好きになる権利はあると思いますか?」


薫の件で、もっと何かできなかったのか?と不安でいっぱいだった。そして何より、僕は由奈のことが好きでいていいのか分からなくなっていた。



「ある、と思うよ。これは私の考えだけどね、誰かを本当に好きで、愛しているなら、どんな人にもその権利はある。だからこそ、その愛を受け取る側も、一生懸命答えなきゃいけない。私時々思うんだよね、告白する人よりも告白される人の方が大変なんだって。する側はYESかNOかの2択だけど、される側はこの2択で未来を考えてる。きっと、私たちが思っている以上に、愛っていうのは残酷なんだよ」



思わず息を飲んでしまう。由奈がここまで考える人だとは思わなかったからだ。芯のある人だが、恋愛には疎いと思っていたし、僕自身突然こんな話にはすぐに答えられないからだ。



「でも結局、大事なのはお互いが相手のことをどれ程想っているかだね」



僕は薫のことを想えただろうか。これからのことについて想像しただろうか。そして、薫からの愛を受け止めれただろうか。僕の頭に様々な思考が交錯する。



「僕は、バカだな」

「………」

「自分の事だけしか考えてなかった」

「精神的に向上心のないものは、馬鹿だ」



それは僕のよく知っている言葉だった。夏目漱石の『こころ』でKが先生に向かって言った言葉だ。



「君は、周りの期待を全て無かったことにするの?私にはそんな風には見えない、して欲しくない」

「………」

「誰だって、自分の事しか考えずに生きている。私だってそう。美味しいご飯を食べたり、ゲームをしたり、好きな作家の本を読んだり、………好きな人と一緒に居たり。周りの目なんて気にしてないの」



あぁ、なんて君は強いのだろう。僕はそんなこと考えもしないのに。でも、だからこそ彼女のそんな魅力に惚れたのだから。僕も、変わらないといけない。



「そう、ですよね」

「そうそう。君はまだ何も考えなくていいの」

「でも、僕はもう少し悩んでみたいと思います」

「……そっか。君はそういう性格タイプだもんね」


「でも───」


ふと由奈がこちらを向き目が合う。


「でも、君には好きな人がいるんでしょ?」


きっと、彼女にはなんでもバレてしまうんだな。だって、宇宙人だから。



「だからさ、君は堂々としてればいいの。今は立ち止まる時期じかんじゃないよ」



僕はその言葉を聞いて、ほんの少しの嬉しさを感じ彼女に対する愛が強くなった。時刻は11時にさしかかろうとしている。そろそろ戻らねば、薫との未来のためにも。そして、由奈に対する恋のためにも。


この話をもう一人の少女が聞いていたことに、僕たちは気付かなかった。

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親愛なる星「きみ」へ 庵野ゆたか @Anno_Yutaka

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