第3話 幼なじみと告白

月日は流れ、冬休みを目前にクラスメイトがぞわぞわし始めた頃。僕はというと、突然の雨で学校に足止めをくらっていた。基本天気予報は見ないので、悪手になった。



「もしかして、傘持ってない?」



不意に話しかけられるが、声を聞いたらすぐに分かった、かおるだ。



「部活はないのか?」

「この雨だから中止だね」



薫は陸上部に入っている。

運動神経もバツグンで、地域のマラソン大会では1位を取るほどの実力だ。



「元々今日は自主練だったしね。……それより、傘、ないなら一緒に帰る?」

「そうしてくれると助かる」



タイミングよく傘を持ってる人がいたし、薫は家も隣だから安心だ。



「……じゃぁ、帰ろっか」

「そうだね」



そういって薫は傘を広げる。

僕の分を渡してもらおうと待っていたのだが、



「何してるの?」

「え?傘2つ持ってないの?」



薫から君何言ってんの?とでもいうかのような眼差しを感じる。なるほど、相合傘ですね。

雰囲気で察し、恐る恐る薫と同じ傘に入る。



「狭く、ない?」

「大丈夫だよ」

「………」

「………」



お互い言葉が詰まり、何も話せない。

いや、恐らく薫の方は恥ずかしいだけなのだろうが。結局、薫とは家に着くまで会話を交えなかった。



「傘、ありがとう」

「うん、どういたしまして」



僕は傘から出て、家に入る…はずだった。

───開いていない!?

今日は親の仕事は休みなはずだ。一体どうして??瞬間、スマホの通知音がなる。



''今日は急用で帰ってこないから、薫ちゃんに泊まってね♡薫ちゃんの両親にはもう伝えてあるからBy母より''



薫も両親から事情を聞いたのか、玄関のそばまで来ていた。おいおいマジかよ。こうなってきては覚悟を決めるしかない。



「ただいま」

「お邪魔しまーす」

「いらっしゃい」



薫のお母さんがむかえてくれた。

もちろんよく知っているので、快く迎えてくれた。



「夕食の準備してるから、薫の部屋で待っててね」

「わ、分かりました」



どおぉぉぉぉぉお!薫母よ!!リビングという選択肢はないのか!?しかし、もう後戻りはできない。僕はそくさくと2階にある薫部屋へと向かう。その後を薫がついてくる。



見慣れた、変わらない部屋。白色で統一され、とても落ち着く。のだが、異性の部屋ということを意識すると、どうも落ち着かない。それほどまでに、僕は緊張している。最初に言葉を発したのは薫だった、



「どこでもいいから座って」

「分かった」



僕はカーペットの上にある座布団、薫は勉強机と対になっているイスに座った。



「最近、どう?部活の調子は」



沈黙に耐えきれず、質問をする。



「ぼちぼち、かな」



曖昧な返事が返ってくる。これで会話終了だ。そして再び訪れる沈黙。



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沈黙を破ったのは私の発言だった。



「好きな人、いるの?」



夏祭りの日に告白して以来、ずっと気になっていたこと。確証はない。けど、はある。



「………」



彼は目を合わせようとせず、沈黙を貫いた。私はもう、我慢ができなかった。気がつけば彼を押し倒していて、顔との距離は5センチ未満。

彼はとても驚いていた。


このまま最後まで、しよっか。───


私はそう言ったのか、言ってないのか分からないが、彼もそう感じとったのだろう。彼の瞳には、複雑な感情が垣間見える。私は服を脱ぎ始めた。下着姿寸前のところで、彼は泣き出した。怖いとか、そんな感情ではなく。ただただ、自分が惨めだと思っているようだった。気づけば私も泣いている。



「なんで、、なんで何にも言ってくれないの?私は別にフラれても良かった…。けど、私のどこがダメなのか、君は何にも教えてくれない。私はどうしたらいいの?ねぇ……教えてよ……」



私はヤケクソだった。想いのまま、彼のことを何も考えずに、本音をぶちまけてしまった。きっと、、、嫌われる。



「ごめん」



それは、彼の口から出た答えだった。あまりにも簡潔で、私が冷静になるには十分だった。



「私の方こそ…ごめん」

「大丈夫、気にしなくていいから。とりあえず、服着よっか」



私は制服を吊り、部屋着に着替える。

自分でも精神を平常に保つことができなかった。それだけが、恥ずかしい。



「ただ」



彼が言った。



「ただ、僕には好きな人が、いるんだ」

「………そっか」



分かっていた。告白した日も、さっき押し倒して質問した時も。ずっと彼は、私を見ていなかった。おそらく彼が好きなのは、、、



「幸せに、なってよね。だって───」



「だって、私が好きになった人だもん」



私はそう彼に笑いかけた。

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