最終話 女同士

 ☆☆☆

 半年たったある日、義母から電話があった。


『久しぶりだねぇ。

 不倫女がのうのうと嫁になりたいって来たものだから

 しっかり追い返してやったよ』


「そうですか」

 元夫と不倫相手の双方からしっかりと慰謝料が振り込まれているから

 あまり気にはしていない。


 しかし、不倫相手を新しい嫁といわれても

 嫌悪感が先立つものだろう。

 元義両親にはお気の毒としか言いようがない。


『私の娘はあなただけさ。娘の幸せを願っているよ』

 嬉しいことを言ってくれる。

「ありがとうございます。

 今度お茶しませんか? 息子さんのいない時に」


『ええ。もちろん』


 義母とは茶飲み友達として付き合っている。

 最近は膝が痛くなっているのだとか。

 心配な事案である。

 少しだけ連絡の頻度を上げてみよう。


 そして、茶のみ友達はもう一人いる。


 今日、喫茶店で待ち合わせしたのは

 高校時代の友人の裕子ユウコもまたサレ妻の一人だ。


「本当に悔しいやら情けないやら。

 だけど、好きになったのもそれはそれ。


 若い子に目移りして不貞を働いたのもアイツだし。

 アイツとは違う人生を歩んでやるんだ」

 裕子は強い。もう前を向いている。


 私には目じりにしわが一つできたし、

 シミも一つある。

 

 元夫とともに過ごした年月はあまりに長く、

 もう取り返しはつかない。


「ほんとだね」

 人生の伴侶には選ばれなかった私だけれども、

 私も強く生きていきたい。


「あ、慰謝料いくら入ったの?」


「思ったよりもたくさんもらえたんだ。

 不倫していた期間が長かったから」


「そう。私も平均額以上取ってくれてさ。

 弁護士さんには感謝しているよ」


「そうね」


「だからさ、傷心旅行しに行こう」


「いいね」

 裕子はおなかをさすりながら、アイスコーヒーを飲む。

「私妊活してたからさぁ。

 お酒も飲めなかったんだ。

 もうそんなこと気にすることもないし」


 きっと身体を温めることも、お酒も我慢していたのだ。

 家族のために。


「一緒にお酒、解禁しようよ」


「いいね」

 どこにしようかとプランを立てるもの楽しい。


 元夫と一緒だったらと、ふと考えてしまうが、

 理解のある友人がいてよかった。


 つらい時でも笑って、次の策を考えられる。


「ねぇ、ニーサって興味ある?」

「ええ。働きながら少しずつ積み立てようと思っているわ」


「どこがいいかな。

 一緒に自分に合うの探そうよ。

 今度相談会行こうよ」


「いいね。

 大黒柱は自分になったから、

 よりしっかりとお金貯めて老後に備えないとね」


「でしょ。くだらない未練なんて旅行を機に捨てるのよ」


「趣味に生きてやるわ」


 彼女は茶道に着付けに忙しい。


「私も何かやってみようかな」


「いいじゃない。一緒にやろうよ。

 スカイダイビングでもする?」


 彼女は好奇心旺盛でなんでも挑戦してしまうのだ。

 そんなフットワークが軽いのも彼女の魅力の一つだ。


「怖いのは嫌だな。……囲碁でもしてみようかな」


「あは。ルール覚えて相手探しなよ」


「そうする」

 相手が必要な趣味だと過去を引きずって

 卑屈になっている場合ではない。


「さっそくルール覚えるわよ」


「基礎くらいなら知っているから旅行中に少しだけ教えるよ」


「ありがとう。お願いするわ」


 私たちは日程を合わせ、箱根へと行くことに決まった。

「いつ以来だろう」

 こんなにワクワクするのは。

 

 この旅行で自分をいかに

 抑えていたのかと思い知ることになった。


 ☆☆☆


 二泊三日で箱根を旅をする。

 温泉にプールに温泉卵。

美しい寄せ木細工。

「こんなに楽しいの久しぶりだぁ」


 例えば、デザート。

 今までは杏仁豆腐が好きだったが、元夫が苦手だったら控えていた。


「「この旅行、サイコーだね」」

 自分の好きなものを食べられて、好きに行動できる。


 その自由さが独り身の醍醐味だ。


 この二人旅は楽しい。


(義母と母にお土産を買っていこう)


 遅くはなったけれど、これからが私が選ぶ人生だ。


 END

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サレ妻の想い 完 朝香るか @kouhi-sairin

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