決断の時
第3話決別
☆☆☆
証拠を手に入れてから、動けるだけ動いた。
彼の会社にも伝えなくてはならないし、私と面識のある同僚もいる。
数少ない私の友人にも伝えた。
義両親にもウチの両親にも話を通しておいた。
電話で離婚すると伝えただけだったのに、
義両親も両親もすぐにうちにやってきた。
義両親と両親も同席し、リビングで話をすることになった。
お茶を出し、もてなす。これが最後になると思いながら。
「何かの間違いじゃないのか」
「そうよ。不倫だなんて。息子に限ってそんなこと」
「では、お聞きください」
録音を聞かせる。
「……本当のようだ。申し訳なかった。
息子にはきっちりと慰謝料を払わせるよ」
「申し訳なかったわ。
ふがいない息子に育ててしまって。
本当にごめんなさい」
一方、両親は私の心配をしてくれた。
「あなたはどうするの? うちにもどってくる?」
その一言でだいぶ救われた気持ちになる。
「ううん。働けているし、
正社員登用もできるって会社だから
それを目指してコツコツ働くよ」
「そう。なら、うちの近くに住みなさい」
「え?」
「何かと大変でしょ。うちの近くでも通勤はできるでしょう」
「ええ。できるわ」
「また素敵な人に出会うまで近場にいてくれた方が安心するわ」
「ではそういうことにしようかな」
義両親には本当によくしてもらったから離れがたいのが本音だ。
「本当にお世話になりました」
姑には本当にお世話になった。この縁を切りたくはない。
「異例のことだとは思いますし、
非常識なことかもしれないですけれども、
今後もお付き合いさせていただけないでしょうか」
「あなたが許してくれるならお願いしたいわ。
私はあなたのことを本当の娘のように思っていたの。
こんなことになって本当に残念」
「ありがとうございます」
なんて恵まれたのだろうか。
ほかにいい人ができたのだとしても、
姑はこんないい人にであうことはないだろう。
ただただこの家族の一員になり切れなかったことが悲しい。
「おって、また報告いたしますね」
母はきっぱりという。
「息子さんとはまた後日になさってくださいな。
こんな手狭な場所で殴り合いはごめんですわ」
確かに父親は手を出さんばかりに怒っていることはひしひしと伝わってきた。
義実家の鉄槌は後々義実家の自宅でお願いすることにした。
☆☆☆
案の定、夫は嫌だと駄々をこねた。
「両親になんて説明すればいいんだ。
慰謝料なんてそんなの払えない」
「ご心配なく。義両親にはこちらからはなしてあります。
ふがいない息子にしてしまったと謝罪してくださいました」
「……そうか。お前はこれからどうするんだ?」
「あなたには関係のないことです」
「ああ、不倫相手の方が離婚したら自分と結婚してくれるんだといっていたし。
女の自分が慰謝料を払う必要はないといっていたわ。
彼女の分まで支払うのかしら?」
夫は慌てて、弁解している。まったく聞く耳はもてないが。
「いいや。俺は自分のことで手いっぱいなんだよ。
あの女は遊びだったんだ。考え直してくれよ」
「そんなことをいう男性だったなんてとても残念だわ」
カッコよかった学生時代の彼はどこへやら。
いやいやながらも離婚届けを書いてくれた。
これから不倫相手の彼女との話し合いや、
父親に怒られる儀式があるのだろう。
この世に完全犯罪は存在しないのだ。
完璧だと思っていてもどこかでボロがでる。
そして、夫婦の場合はどちらかが深く傷つくことになるのだ。
人間を信じることが難しくなるくらいに。
書いてもらった翌日、役所に提出してきた。
また旧姓に戻るのは変な感じもしたが、これが私の人生なのだ。
恋愛結婚は幕を閉じた。
また恋愛をできるだろうか。
わからない。
しかし、義実家との付き合いは維持できるようだ。
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