調 査
Yokoちー
調 査
初めはスモールアントだった。
( 小アリ *群れで行動。軽い毒あり。殻は硬く、素材としては良品だが量が多いため安い)
『前へ、前ヘ! 敵発見! 前に進め! 噛め、噛め、突進、突進』
俺は渡されたヘルメットをそっと返す。つまらん。単純だ。
次はジャイロオックス。
(狼と狐の中間 *シルバーの体毛が美しい賢い魔物。物理攻撃が効きにくい)
『人か……。こんなところに閉じ込めやがって。だが、オレ達の群れは健在だぜ? 森の基地がいくつあると思う? 罠が幾つあるとでも? くくく……。知りテェだろう? 殲滅したいだろう?じゃぁ案内してやろうか? 途中でウルフを
ついていけそうにない。深い深すぎる。俺は項垂れてヘルメットを返した。
次は従魔になったワイバーンだった。
(翼のある竜のようなトカゲ *硬い鱗に姿形は紛れもなく竜。だが攻撃力はブレスのみでそこそこの強さ。あくまでトカゲ種)
『はぁ〜、ちょっと早まったわ。うん、絶対早まった。3日後に来た騎士の方がカッコよかったもの。そりゃ、私のご主人様はお金持ちよ。美味しいご飯に適度な訓練。国のワイバーン部隊だもの。花形職業で待遇もバッチリよ。でも、所詮、うちらトカゲじゃない?だったら主人は顔よね〜。あぁ、もうあの顔見たらやる気なくなる〜。ちょっと駄々こねて困らせてやろうかしら。もしかしたらあっちのハンサムボーイがご主人様に手を貸しにくるかも♡』
・・・知ってはいけない思考を覗いた罪悪感。にこにこと誇らしげにヘルメットを差し出した騎士をじっと見つめて、まぁ彼女の気持ちも分からないではないと、そっと同情する。
古代遺跡から不思議なヘルメットが出土したとの情報。研究家としてその品質を調べるのが俺の仕事だ。
一対のヘルメットには片側にHumanと書かれ、細い管がつけられた先はもう一つのヘルメットに繋がっている。当然俺はHumanと書かれた方を被る。
実験の様子をまじまじと見ていた弟子が言った。
「先生、実はヘルメットをかぶると文字の大きさが変わります」
「ほう、そうか? 良い発見だねぇ」
これは流石に外から見ないとわからない発見だ。文字の大きさは脳みその大きさか? 次はそこに着目するとしよう。
人型の魔獣、ゴブリンはどうだ?
『出せ、出せ、出せ、出せ』
さすが低知能。文字の大きさもグッと小さくなる。ここから出せ、それに支配されているのか。ふうとため息をつき、弟子にも被らせた。
「うわぁ、やばいっスね。出せ、出せ? ここから出たいっていうことでしょうか?」
ギロ! 檻の中の奴が鋭く眼光を光らせた。
「うわぁ、違ったっス! 肉、酒、肉、酒!出せって食事のことみたいですね。うわぁ〜、欲ぶか〜、さすが本能の塊」
身を震わせてヘルメットを返した弟子。よく見ればゴブリンの牙から唾液が滴っている。ヒトを見れば肉と思うのか。こいつらとは共生は無理だと俺達は首を振った。
その時、ピコン、ピョコピョコ。
流体で透き通った魔物が俺達の前に躍り出てきた。スライムだ。汚れを食べるだの愛玩魔物として可愛いだので最近は飼われることが多い奴。薄ブルーの身体が陽の光を受けてキラと光る様は確かに美しい。ただ、知能は低く実験する価値もない。
いや……。案外面白いかも。
俺は好奇心から奴にヘルメットを被せてみた。どうだ? こいつの脳は果たしてあるのか?
『ーーーーーーーーーーーーーーーー』
やはり無理か。そもそもこいつらに脳はあるのか? 思考はあるのか?
俺はふふと自笑してヘルメットを外そうとした。
『¥&@“::£?¥//-$€075?*||~+}>!&@‘mbk@@?€』
急に流れ込んできた訳のわからない言葉。いや、思考だろうか? 魔物特有の何かか?
く……、い、痛い。頭が、頭が内部から破壊されるように。く……、た……、たすけ……て……
ばたりと倒れた俺に弟子が遠くで叫んでいる。あぁ、苦しかった。まるで脳が取り出されたような強烈な痛み。だが、もう大丈夫。心配かけたなと、立ちあがろうとする。
おや?
そこに倒れているのは俺。弟子が必死に身体を揺さぶっている。では、ここにいるのは?
真っ青な顔で俺を突き飛ばした弟子。だが、俺は紛れもなくそこにいてヘルメットの文字だけが変化していた。
とても小さい文字で "Slime " と。
転がったヘルメットの中に小さな説明書が見つかる。魔物の俺にはそれが正しく読めるのだった。
『これは 脳みそチャレンジ のヘルメットです。自身の脳みそに
薄ブルーの透き通った身体に生々しい脳を入れた流動体は、雑巾を引き裂くような
「ぎゃーーキモイ!」
という悲鳴を受けてグシャと潰された。
調 査 Yokoちー @yokoko88
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