第2話 空
”少し変わってる子なのかな?が第一印象だった”
週に4日アルバイトをしている。
深夜のコンビニは静かで、穏やかな時間が流れている。
人通りの少ない場所に店舗を構えていて、面接に応募した理由も
気だるそうな店員が、欠伸をしながら働いているからだった。
案の定、客足は閑散としていて、今では夜間に1人で店を任されるようになっていた。
それは、すっかり人間嫌いになっていた私にとって、都合がよかった。
この上なく気楽だ。
ロボットの様に家とバイト先を往復する日々。
休みの日は用事もなく、外出の機会もほとんどない。
食事はスーパーで買ってきたものを家で食べるだけだ。
最近の冷凍食品はレベルが高い。
特に麺類は、店で食べるのと遜色ないレベルだと感じる。
こういう時は、己の子供舌に感謝している。
特にやりたいこともないのだが
惰性でソーシャルゲームをポチポチと消化して
あとは寝ているだけの日が多い。
それ以外の趣味といえば、インターネット掲示板で知り合った人たちと
他愛のない会話をすることぐらいだ。
それがやりたいことなのかと聞かれると、一瞬考えてしまうが
憂鬱な気分を紛らわせるのには、手軽でちょうどよかった。
何よりお金が掛からない、本当にコスパのいい趣味だと思う。
集団に所属している安心感もあり、一時的にある程度の孤独感も拭うことも出来る。
まさに一石二鳥だ。
ただし難点もあった、それは人間の質だ。
コミュニティというものは、基本的には似たような人間レベルの者同士が集まる。
似た者同士の癖に、他人のレベルにケチをつけるのも痛々しいが
インターネットで手軽に暇つぶしをしようなんて人たちに、崇高な者はいないのである。
あるところでは、有名人の悪口大会が開かれている。
別のところでは、自己顕示欲剝き出しの猿がマウントを取り合い、暴れる。
そんなものである。
だとしても、インターネット特有の
一定の距離感を保った人間関係は、絶妙に心地の良いものだった。
人間関係は消耗品である。
定期的に新しい刺激を探さなければ、味のしないガムを噛むことになる。
その点、インターネット掲示板では
良くも悪くも、常に知らない人たちと目まぐるしく関わることになる。
そこで一喜一憂したり、不意にくる悪意に疲れていた時
一つのスレッドが目についた。
当時アニメ化されたばかりの冒険活劇コメディ作品があった。
以前からタイトルだけは知っていたのだが、漫画を読んだことはなく
どういった内容なのか興味はあった。
”xxxって見る価値ある?”
というタイトルで建てられたスレッド。
それを、ほんの軽い気持ちで覗いてみた。
どうやら、内容に関して賛否両論で盛り上がっているらしい。
主観で物事の価値を決めようとすると、各々思うところがあるのは当然だ。
その討論の中で、ほぼ全レスしているんじゃないかというくらい
否定的な意見に、真っ向から対立している人がいた。
それが彼女だった。
ただの匿名掲示板なのに、どうしてムキになっているんだろう?
見えない誰かと闘って何の意味があるんだろう?と純粋な疑問だった。
エリナという女性っぽいHNだったが、所詮は匿名掲示板。
名前に意味なんて無い。
でも、彼女が書き込む、ある種の激情的なレスは
私が興味を持つには、十分に特異であり、印象に残った。
しかし、当時の私は作品の内容について明るくなかったので
議論に参戦するわけでもなく、その様子を傍観していた。
ただ、こういう熱狂的なファンが存在することや
加入済みのサブスクで視聴できる作品だったこともあり
物は試しと思い、第1話を視聴してみようという気にはなった。
斬新でセンセーショナルなアニメ、ということも無かった。
話の本筋は王道で、いかにもな最近の流行りデザインのキャラクター達が登場する。
可もなく不可も無い作品という印象だった。
1話の時点で特筆すべき点もない作品。
普段であれば、続きを見ることもないのだが。
ただなんとなく
そう・・・なんとなくだ。
今思えばあの時点で、エリナの印象が、深層心理に働きかけていたのかもしれない。
あの人を突き動かすモノの正体が知りたくて、無意識に第2話の再生ボタンを押していた。
物差し @napio
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。物差しの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます