誰かの記憶 ⑤

 妹がいなくなってから20年。姉は親元を離れて仕事をしていた。あの日以来、妹のことを思わない日はなかった。いつまでも心の隙間が埋まらない。

 ある時、地元に帰ってきた。突然行ってみたくなったのだ。妹とよく行った場所、思い出の場所を巡る。しかしどこにも妹はいなかった。


「……銀華、どこにいるの?」


 姉は呟いた。そして、ある場所に辿り着いた。そこはかつて妹とよく遊んだ公園だった。


「懐かしいな」


 姉はベンチに腰掛ける。あの頃は幸せだった。でも今は……


「銀華……、戻ってきてよ……」


 姉は泣いた。涙が止まらなかった。自分が愛した人はもういないんだと思い知らされたから。

 それでもわずかな希望を諦めきれない。でもどうやって? 妹に対する思いが浮かんでは消えを繰り返す。


「銀華……、会いたいよ……」


 姉はただ願うしかなかった。もう一度会えることを信じて。

 ひたすら泣いた後、思い出の場所巡りを再開する。何気なく街を歩いていく。緑が豊かな田舎町は見ているだけで心が穏やかになる。子どもの頃によく入った小さな洞穴も、そのまま姿を変えずに残っている。


「……入ってみるか」


 姉は興味本位で中に入る。きっと何も変わっていないだろうけども。

 中は予想を裏切らず、子どもの頃のままだった。苔がついている部分も、ヒビが入っている部分も。

 姉は感慨深いものを覚えながら進んでいく。

 一つだけ、昔と違っているものを見つけた。何やら白い表紙の本が大きな岩の上に置かれている。その岩は机の代わりに使っていたものだ。


「何だろう?」


 姉は本に近づいていく。表紙には何も書かれていない。真っ白だった。不思議に思って本を開く。


「魔導書?」


 それはそう記されていた。胡散臭いと疑いながらも読み始める。


 ☆


 これには上下二巻あり、上巻はここにはないということが分かった。この下巻には様々な魔法が書いてあるが、習得には時間がかかりそうだ。自宅に持ち帰ることにした。


「もしかしたら……」


 わずかな希望を胸に、下巻を持ち帰り家で読み進める。

 実は、姉の心の中には上巻のありかが朧げに浮かんでいた。

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陰キャの私でも魔法少女になれますか? 烏丸ウィリアム @Belfastrepublic

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