第4話 青バラの秘密
”まさか、こんな時に開花するとはな…。”
”身動きの取れないこの状況、詰みか…。”
さっさと始末しておけばよかったと心の中で静かに後悔した。
マリーゴールドを出して、脱出しようと試みるがやはりうまく出せない。
元の黄色は面影なく、今では脱色されたような白色だ。
「はあ、やっぱり遊ばずに、仕事を優先させるべきでしたよ。」
ふざけた態度に徹は怒りが再びこみあげてきた。
「ふざけんなよ!今から国の警備隊のところに突き出してやるよ。」
「まあまあ、その前にそこの少女の異能の秘密、知りたくありませんか?よろしければ、話してあげますよ。」
怒っていた徹はその言葉を聞き、少し迷った。
”僕がリコルの青バラに触ったときにでたあの光。それに白くなったマリーゴールド。一体何なんだったんだ?ちょっと聞くだけなら…”
"いやいや、こんな奴さっさと警備隊に突き出したほうが…"
自分の知識欲と理性が葛藤する。が、答えが出るまでにそこまで時間はかからなかった。
「少しだけだぞ、話してみろよ。」
その言葉を聞くなりニヤッと男は笑い、話しだす。
「では、話しますか。その子の異能は”奇跡”。誰かにとって都合の悪い出来事を良いものに好転させる、出来事の発生を確定させる力です。運命を変えるようにね。」
「今回は、私の異能を封じる、といったものでしたがね。君が青バラを触ったときに出た、あの青い光は異能が使われた証拠ですよ。」
信じがたいことだと思ったが、実際に起こっているのだ、信じるほかない。
「リコルのバラに触れるだけで異能は発動するのか?」
「いや、強い願望ががないと発動しませんよ。それも、不純な欲や下等な願望ではなく、崇高なものでなければ。」
「あと、なんでお前が使っていたマリーゴールドは白くなってんだ?
あれもリコルの力なのか?」
「その通りですよ。もっとも、このようなことは初めての体験ですがね…。
おそらく、モデルにした神の子が原因でしょうかね…。後で、まとめておかないと。」
「モデル?サンプルにした神の子か?」
「ええ、そうですね……、」
「そろそろですか。」
言い終わると同時に、窓が割れ、徹たちより大きな深緑の葉が中に侵入してきた。
その葉は男を包みこむと、瞬く間に外へと戻っていく。
「とりあえず、今日は引きます。奇跡の力がどれほど強いかわからない、不覚的要素がある以上、長居は無用ですからね…。 それでは、また今度。」
言葉を吐き捨て、外の闇夜に消えていく。急いで、外に出たが、そこにやつの姿はなかった。
◇
闇に紛れた屋根の上で話をする者たちが2人。
「案外早かったですね。もう少しかかると思ってましたよ。」
「命令で早めに来たからな。」
「いや~、まさか異能が使えなくなるとは、思ってもみませんでしたよ。もっと外的な何かが運命の改変を引き起こすと思っていたのに…。」
「で、その異能はもう使い物にならないのか?」
「まさか、おそらく時間経過で治りますよ。まあ、治らなくても、ほかの植物を使うだけですから。」
「そうか。ならいい。」
「相変わらず、冷たいですね。もっと人生楽しみましょうよ、私を見習って。
まあ、それはそうと、上にはなんて報告しましょうか…。」
バリーはリックの平常運転ともいえるその態度に退屈しながら、上層部への
◇
「クソ、逃げられた。」
闇の中、必死に周りを探したが、見つからなかった。
不意を突かれ、逃がしてしまったという責任がのしかかる。
「すまん、僕が話なんて聞かず、さっさと警備隊に連絡しておけば…。」
「いや、仕方がないことだ。俺なんか、動けなかったんだし。」
玄関前で二人に謝る徹と、ショックのあまり何もできなかったことを恥じるウルガー。
あれほど部屋を満たしていた可憐な花々は灰のように空中に溶けて消えていっている。壊れた家具や小道具だけが部屋にむなしく残った。
「部屋にある家具なんかはいつか払うよ!本当に迷惑かけてすまない!」
「いや、それよりも、リコルちゃんのことだ。どうするんだよ、これから。」
「やっぱり、警備隊に伝えるのが、一番いいんじゃないか?あそこなら国の後ろ盾もあるから安全だろ。」
「いや、それはやめたほうがいいかも。相手は神の子に手を出せるほどの奴らだ。
もしかしたら、国の関係者たちや警備隊の中にも内通者がいるかもしれないし…。」
なかなかいい案が生まれず途方に暮れる徹とウルガー。
そんな二人を見かねてか、決心のついた様子でリコルは話しかける。
「すいません、私がいるせいで、迷惑が掛かってしまい…。
今までありがございました。ココア、とってもおいしかったです。」
そういうと、石レンガの道をとぼとぼと歩き出す。
「おい、どこに行くんだよ!」
「これから私、旅に出たいと思います。パパのことは知りませんが、ママの顔なら覚えています。だから…、もう一度会いに…。」
リコルは青バラにふさわしい優雅な立ち振る舞いでお別れを口にした。
唇や手は震えており、今にも泣きそうな顔を抑えながら。
「おいおい、そんな顔されちゃ、はい、じゃあね、ともいかないだろうがよ。旅に行くんだったら僕もついていくからさ。」
「しょうがねぇ、俺もついていく!こんなに小さな女の子と細身の徹だけじゃあ心配だしな。」
「いえ、私がいるだけで迷惑がかかるんです!だから、私なんか…そっと1人で…。」
「おい、1人で抱え込もうとすんなよ!僕らは味方だ。今までどうだったか知らないけど、これからは僕たちを頼ってくれよ。力になるからさ。」
今まで、孤独な世界で生きてきた彼女の心にその言葉は深くしみ込む。
夜の闇よりも深い心の闇の中でマッチの火がともったようだ。
実りある人生を望む転生者 レイノルズ @oze-
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