第5話 ブローチ 中編

「何で俺に頼むんだ。アザミはどうした?」


カガチからの電話を取ると、人を捜しているから今どこに住んでいるか調べてほしいと頼まれアザミにやらせろと遠回しに言う。


「いや、俺達もそうしたいんだがアザミさんは今例の件でそれどころじゃないんだよ。頼むよ、アオイさん。アオイさんなら簡単に見つけられるだろ」


「……わかったよ、今日中に連絡するが最終的にアザミの力が必要なら早く連絡しておくべきだぞ」


「ありがとう、アオイさん。感謝するよ。わかってる。アザミさんにも連絡しとくよ」


「ああ、そうしとけ。じゃあな」


そう言うとカガチの返事を待たずに電話を切る。


「……切られた」


返事をしようとしたのにスマホから切れた音がし画面を見るとホーム画面に戻っていた。


「……とりあえず、アザミさんに連絡するか」


アザミに近い内警察の力を貸してほしいと送り、その後に黒い彼岸花と打つ。


「それで、アオイさんはいつ頃連絡くれるって」


「今日中だって」


「じゃあ、それまでは待機だな」


「そうだな」


「カガチ。何が見えたか話せ」


見えた内容でこれからの対応が変わる。


「結論から言うと楓さんの恩人とブローチの持ち主は別人だった」


ユリはやっぱりなと予想が当たり顔が険しくなる。


「で、ここからが本題。そのブローチが落ちた経緯が……」


カガチが説明を終えるとユリはため息を吐き「……最悪だ」と呟く。


ユリの反応は当然出し仕方ない。


「……ユーリ、作戦は決まったか?」


ユーリの考えがまとまったのを見計らって声をかける。


「ああ。だが、アオイさんから連絡が来ないことにはどうしようもない」


「だよな」


アオイから連絡がきたのは、それから六時間後でもう空も暗くなったので恩人と持ち主に会うのは明日にすることにした。




依頼日から四日後。


「……これで全てわかったな。明日依頼人に会いに行こう」


「他の人はどうする?」


「アザミさんとアオイさんに協力してもらおう。カガチは依頼人に電話してくれ。二人には俺から説明する」


カガチが恩人と持ち主に触れ過去を覗いたことで全てが繋がった。


依頼人の悲願を叶える準備が全て整った。


ただ、依頼人が望む形ではないのが二人の心を重くした。




翌日の朝。


「朝早くお邪魔してしまい申し訳ありません。昨日電話で言った通り恩人と持ち主を見つけましたのでご報告に参りました」


二人は朝早く楓の家に来た。


「あの、本当に見つけられたんですか。あ、すみません。こんなに早く見つかる何て思ってなくて」


楓は昨日電話もらったときは嬉しくてカガチに泣きながらお礼を言ったが、朝になってこんなに早く見つけられるものだろうかと疑ってしまった。


どこも無理だと言って依頼を引き受けてはくれなかったのに、二人に依頼してから今日までたったの五日しか経っていない。


「いえ、気にしないでください。ですが、本当に見つけました。今から会いに行けますが、その前に報告だけさせてください」


カガチがあまりにも真剣な顔で言うので、その気迫に圧倒されつい「はい」と言ってしまった。


「結論から言います。恩人さんと持ち主さんは別人でした。そして、ブローチはあの日一条さんが病院に運ばれたとき盗まれた物でした」


「……は!?」


楓はカガチが言った言葉を一瞬理解できなかったが、理解すると変な声が口から出た。


「それって、つまりあのブローチは盗品だったと言うことですか」


衝撃の事実に頭がおかしくなりそうなのを必死に我慢する。


カガチが言っていることが正しいなら楓は十五年間盗品を持っていたことになる。


知らずに犯罪者になっていた。


「はい。そうです」


きっぱりと断言するカガチに絶望し足に力が入らなくなりその場に座り込む。


「……もしかして、私を助けた人が盗品を盗んだ人ですか」


楓は違うと言って欲しくてそう尋ねるがその思いは一瞬で砕け落ちた。


「はい。そうです」


楓は自分が思い描いた光景とかけ離れた事実に、無意識に乾いた笑い声が出た。


「……依頼は恩人と持ち主を探し出してほしいとのことでしたが。どうされますか。お会いになられますか」


楓はお礼が言いたいと言っていた。


真実を知ったいま会いたいと思っているかはわからない。


楓がどうしようが二人はこの後恩人と持ち主の所に行く予定だった。


「……行きます。私も連れて行ってください」


自分が依頼したのだから最後まで責任を持たなければと思う。


楓は泣きそうなのを堪えて悲しそうな申し訳なさそうな顔をする。


カガチは楓のそんな顔を見てユリの言葉を思い出した。



「もし、命の恩人さんが一条さんの思っているようなら人じゃなく悪い人だった場合どうしますか。それでも会いたいと思いますか」



あれはこの未来が視えたから聞いたのだと。


カガチはユリの方をそっと見ると目が合った。


ユリはゆっくりと頷きこれが視えたのだと頷き肯定する。


ーー全くお互いこの能力には苦労するな。


カガチはユリの能力に少し同情してしまう。


カガチは楓の方に向き直り「わかりました」と返事し話を続ける。


「では、これをお返しします。これは一条さんの手で持ち主さんに返してあげてください」


箱に入ったブローチを机の上に置く。


「……はい、ありがとうございます」

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悲願花 知恵舞桜 @laice

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