第5話三玖谷先輩はイタズラ好き


 次の日の朝、時計のアラームが鳴り起床する。部屋を出ると制服姿の鈴菜が目の前に立っていた。


「お兄おはよう」


「鈴菜おはよう、どうしたもう学校に行くのか」


 まだ登校するには早い時間と思った俺は鈴菜に言う。すると鈴菜は首を横に振って答えた。


「ううん、昨日お兄私の制服姿見ても全然何も言ってくれないから、どうかな?」


「似合う、似合う」


 鈴菜の頭を撫でてやりそのまま鈴菜と一緒にリビングに行くと母さんが朝飯の支度を済ませていた。


「そうだ、一つ言っておくんだけど今週末私と父さんちょっと朝から夜まで出かける用事ができたから二人にはお金を渡しておくからその日は何か出前でもいいから頼みなさい」


 母さんと鈴菜と一緒に朝飯を食べている途中に母さんが俺と鈴菜に話す。


「それは全然いいけど珍しいね」


「お兄忘れちゃったの今週末はお父さんとお母さんの結婚記念日だよ」


「え……そうだったけ?ごめん何も準備してないんだけど」


「そんなのいいわよ、ただ鈴菜の事もあったしお父さんと出かける事も無くなっていたから久しぶりにお父さんと二人で出かけたい気分なのよ」


「私は全然いいよ、お母さんもその日は楽しんできてね」


「俺も鈴菜と一緒の意見だよ」


「まぁ二人とも、もうそんな子供じゃないし心配しなくてもいいわね」


「ご馳走様、それじゃいってきます」


 鈴菜は朝飯を食べ終わると、後片付けをして学校用の鞄をもってすぐにリビングから出て玄関を開ける音がした。


「鈴菜あんなに急ぐなんて何かあったのかしら」


「昨日できた友達がこの近くに住んでたみたいだから一緒に登校する約束を昨日してたよ」


「まさかもう友達ができるなんてね、気になるし今度家に遊びにくるよう呼んでもらおうかしら」


「いいんじゃない鈴菜も喜ぶんじゃないかな」


 母さんは鈴菜に友達ができた事を知って相当嬉しそうな様子だ。確かに鈴菜は病弱で学校に通えてなかったから友達もいないだから母さんは鈴菜に友達ができてこんなに嬉しそうなのだろう


「ごちそうさまでした、それじゃ俺も食べ終わったし準備してすぐに行くよ」


 俺も後片付けをして部屋に戻り制服に着替えて鞄を持って準備を済ませるとリビングで使っていた皿を洗い始めた母さんに一いってきますと言って外に出て通学路を歩く。


「あの、春日谷君」


 歩いている途中に後ろから声をかけられ振り返ったらクラスメイトの深水さんがいる事に気付いた。


「おはよう深水さん」


「おはようございます、えっと急に声なんてかけてごめんね、春日谷君に似た後ろ姿だったから」


「いや全然いいよ」


「その春日谷君もし良かったらでいいんだけど一緒に学校に行かない」


「あ~」


 少しの間考える。深水さんは結構目立つそれで朝から男の俺と一緒に学校にでも行けばクラスでも噂になったりするかもしれない。


「ごめん、ちょっと家に忘れ物したみたいだから先に行って」


 俺は家の玄関口まで走って戻り、ひょっこりと覗いて深水さんが先に行くのを待つ。


「女の子を隠れて覗き見るなんていけないよぉ」


 いきなり後ろから耳近くに声が囁かれ驚いてその場で立ち上がる。


「いきなり近付いてきて囁き声をかけないでください三玖谷先輩」


「はは、いやぁ見覚えのある後ろ姿が学年問わず人気の女の子を隠れて覗き込んでいたみたいだからさ。少しイタズラをしてみたくなっちゃってね」


 俺達が声を上げているのに気付いた深水さんがこちらに近付いてきた。


「あの春日谷君、大丈夫?」


「あ、ああ平気だよ」


「これ以上二人の邪魔をしちゃ悪いし、私はこれで、それじゃ優君またね~」


 三玖谷先輩はその場から逃げるように走って行くのを俺と深水さんが見る。三玖谷先輩の姿が見えなくなると深水さんが声をかけてきた。


「春日谷君、もしかしてあの人。三年の三玖谷先輩?」


「ああ、少し色々とあって一年の時から関わっていて」


「凄いね、確か三玖谷先輩って雑誌のモデルをしてるし全国テストでも上位10位の中に入る人で、一昨年の学校の文化祭のミスコンでも優勝したって友達から聞かされた事があって。告白も何百回もされていてその都度振ってついたあだ名が才色兼備の女王様って呼ばれてるらしいよ」


「よくあの人の事知ってるね、俺あの人が学校でそんな有名人だったなんて知らなかったよ」


 俺は深水さんが三玖谷先輩について語る姿に少し驚く。そして深水さんは話終わると少し顔を赤らめて下にうつむく。


「あはは……ごめんね、ちょっと興奮しちゃったそれにしても春日谷君と三玖谷先輩って付き合ってる訳じゃないんだよね」


「あの人と、ないない」


 俺は笑って深水さんに俺と三玖谷先輩がそんな関係じゃない事を否定した。


「そう、それなら良かった。それで春日谷君の方はもう忘れ物は大丈夫なの」


「ああ、そうだね、取りに戻ったから一緒に行こうか」


 結局俺は深水さんと話ながら一緒に学校まで向かう事にした。校門前に着いたらこちらに視線を送ってくる生徒達が複数人いた。掲示板の前を通り過ぎようと掲示板に目を向けると俺はその場で立ち止まり掲示板に貼られていた新聞部のポスターに書かれていた内容を読む。


「春日谷君、どうかした?」


「いや、なんでもないよ、深水さん悪いけど先に教室に行っててもらえるかな」


「え、うん。それはいいけど春日谷君は」


 深水さんが言い終わる前に俺は掲示板に貼られていたポスターを剥がして、急ぎ足で校舎に入って新聞部に向かう。

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