義妹編

「ん……」


 ほんの少しの気怠さと共に目が覚める。隣からは規則正しい寝息が聞こえているので、俺は柿茉しまを起こさないよう枕元に腕を伸ばし、手探りで柿茉のスマホを取った。

 俺の指紋も登録されているから、指を置くだけでホーム画面が表示される。SNSや日記、ゲームなどのアプリの中から、まずはブラウザを開いて、検索履歴を見る。



 愛してる            ☓

 彼氏 大好きすぎて つらい   ☓

 彼氏 かっこいい        ☓

 山手前水族館 入館料      ☓

 腓腹筋             ☓

 脚 筋肉 名前         ☓



 愛のメッセージがあったり、脚の筋肉も調べているが、重要なのは山手前水族館の入館料だな。これは、デートに行きたいというアピールだ。

 その水族館は県外だけど、入館料は無料。付近は温泉街として有名みたいだし、日帰り旅行か、両親に頼んで泊まりで行くのも良いかもしれないな。

 俺は柿茉を束縛するつもりはあるが、信用しているので、毎日スマホを覗く必要は無い。それでもこうしているのは、検索履歴などが一種のコミュニケーションとなっているからだ。


 続いて、日記のアプリを開く。

 二人でストレッチできて幸せだった。持久走で走ってる姿がかっこよかった。特に腓腹筋がえっちだった。おんぶして帰ってくれたのが嬉しかった。汗だくえっちが気持ちよかった。

 昨日はこのような内容が綴られていて、数回指を動かして、ようやく終わりが見えた。脚の筋肉を調べていたのは、これが理由だったんだな。今度から、少しだけ意識して鍛えてみるか。


「お兄ちゃん……、脚痛い……」


 日記を読み終えると同時に、柿茉のうめき声が聞こえた。俺は普段から筋トレをするので怠さだけで済んでいるが、運動とは無縁の柿茉は違う。ストレッチもマッサージも入念にして、出来うるだけの対策はした。それでも、強烈な筋肉痛に襲われている。


「起き上がれる?」


「うぅ……」


 柿茉が首を横に振ったので、お姫様抱っこをして、ベッドの縁に座らせた。


 ――プチ、プチ、


 着替えをタンスから出して、柿茉のパジャマを脱がす。上半身すらも殆ど動かさないけど、もう慣れたので、体が冷えないように手早く着替えさせる。

 柿茉が義妹になるのは甘えたいという時もあるが、何もしたくないという時の方が多い。今日のように筋肉痛であったり、生理であったり。理由が無くとも、動きたくない時は義妹になる。


「ほら、危ないから一応」


「んー」


 今から階段を降りるので首に手を回してもらい、柿茉をおんぶして部屋を出る。




「ほら、口開けて?」


「ぁ……」


 柿茉を椅子に座らせたら、歯ブラシを持って、軽く顎を支える。柿茉に痛い思いは絶対にさせたくないし、奥に入れすぎると嘔吐いてしまうので、細心の注意を払って優しく歯を磨いていく。


「ほら、うがいして」


 コップを口元へ運びうがいをさせたら、ヘアバンドを着けて顔を洗い、仕上げに化粧水と乳液を付けた。メイクもして欲しいと言われる事もあるが、今日はこれで終わりだ。


「お兄ちゃん、トイレ」


「分かった」


 先にトイレの便座の蓋を開けてから、柿茉を抱っこして座らせる。そしてドアを閉めて鍵をしたら、ズボンとショーツを脱がせて待つ。終わったら優しく水分を拭き取り、先程とは逆の手順で柿茉をトイレから移動させる。

 何度もしている事なので、我ながら手際が良いと思う。




「ぁむ……」


 俺は自分の朝支度を急いで終わらせて、リビングまで再び柿茉をおんぶした。朝ご飯は膝の上に柿茉を座らせて、左手で体を支えながら、少しずつ食べさせる。

 目を開ける事すらせずに、ひな鳥のように口を開けて待っている柿茉が可愛いすぎる。


「……つかれた」


「全く、仕方ないな」


 柿茉の口に運ぼうとしていた箸を口に含み、少し咀嚼してから口移しで食べさせる。柿茉は満足そうに味わうと、お礼代わりにキスをしてきた。

 食べる速度は更に遅くなったものの、日常しあわせは加速している。






 数時間掛かった朝ご飯を終えて、再び柿茉をおんぶして、部屋に戻った。今はベッドで脚のマッサージ中だ。


「ほぁぁ……」


 息を漏らしている柿茉のふくらはぎ、太もも、そしてお尻もしっかりと揉む。お尻まで揉む必要は無いと思うが、柿茉が気持ちいいと思っていれば、それで良いのだ。


「お兄ちゃん、枕」


「はいよ」


 膝枕をして欲しいと言われたので、柿茉を仰向けにして、頭を太ももの上に乗せる。そして俺がTシャツを捲ると、柿茉はもぞもぞと動きながら位置を調節して、下腹部に顔を埋めるようにして止まった。最後にTシャツを頭に被せれば、膝枕の完成だ。

 俺も同じようにしてもらう事があるが、こうすると好きな人の体温を直に感じながら、好きな人の匂いに包まれる事が出来る。控えめに言って最高なのだ。


「もしかしたら、寝ちゃうかも」


「いいよ。昨日、頑張ってたから」


「ありがと」


 柿茉の頭を撫でていると、すぐに寝息が聞こえた。昨日は持久走も頑張っていたが、家に帰ってからもおんぶのお礼と言って、激しく動いてくれたからな。お互い汗だくのまま跨られて……。いや、あまり思い出すと膝枕の寝心地が悪くなってしまうので止めよう。

 俺はスマホを手に取り、筋肉痛や疲労回復に効果のあるツボを検索して、心を落ち着かせた。






「……ん?ん、んー」


 柿茉が起きて、俺に膝枕されている事を思い出すと、下半身に頭をぐいぐいと押し付けてきた。


「おい」


 俺が声を掛けても、柿茉は止めない。むしろ勢いを増し、手を使って刺激してきた。


「むふぅ」


「おい……」


 そして、大きくなると満足気に位置を調節して、再び横になった。柿茉は俺の下半身を触れば大きくなるおもちゃとでも思っているのだ。


「……もう5時過ぎてるけど、昼ご飯はどうする?」


「え、そんなに寝てたんだ。お昼は、いいかな」


「なら、このままのんびりしてるか」


 俺もそこまでお腹が空いていないし、なるべく楽な姿勢をしていたので、脚も疲れてない。


「お兄ちゃん、寝心地が悪いんだけどー?」


「お前のせいだろ」


 強いて言えば、柿茉が寝返りをうつように刺激してくるのが問題だな。くすぐったいだけなので特に困らないが、せっかくなのでお返しに胸を揉む。


「きゃ、えっちー」


 俺達の間では日常茶飯事なので、柿茉は棒読みだけど楽しそうに声を上げた。


「気持ちよくしてくれたからな。お礼だよ」


「ふーん、じゃあ私はもっと頑張ろうかな」


 そう言うと、手こそ使われなかったが、頭を大きく揺らしたり、お腹に息を吹き掛けたり、唇で甘噛みしたりしてきた。

 俺も対抗して、少しだけ強く揉んでみたり、首を優しく撫でたりしてイチャイチャを楽しむ。


「……疲れた」


 しかし、すぐに柿茉の体力が尽きた。


「まだ眠いなら寝てもいいぞ?夜ご飯になったら起こすから」


「じゃあ、そうする。ありがと」


「おやすみ、柿茉」


「おやすみなさい」


 俺のは未だに大きくなったままで、膝枕には凹凸がある。寝心地も悪いし、落ち着かないだろう。俺は申し訳無いと思いつつも、柿茉の頭を撫でた。






 晩ご飯の時間になったので柿茉を起こして、両親の前で口移しをするという羞恥心じごくを乗り越えた。

 今からお風呂に入るので、俺は義兄という立場を使い、義妹しまの体を隅から隅まで、しっかりと洗う。地獄を乗り越えた俺への、最高のご褒美だ。


「お兄ちゃん。優しくしてよね」


「分かってるって。当然だろ」


「全然わかってなさそう……」


 俺は答えながら服を脱いだ。柿茉は視線を下に向けて呆れていたが、気にしない事にする。

 裸になったので、柿茉も脱がす。見慣れているのに、義妹の裸と思うだけで、妙な背徳感を感じてしまうのが不思議だ。


「ほら、入るぞ」


「はーい」


 柿茉の手を引いて、浴室に入る。椅子に座らせ、目に入らないよう気を付けながら髪を濡らし、泡立てたシャンプーで洗っていく。

 泡を流して、次は体だ。まずは左手で髪を持ち上げて、首筋を。そのまま背中も洗い、腕を絡め合わせるようにして洗ったら、胸を丁寧に揉みほぐす。


「手がやらしいんだけど?」


「柿茉の胸は大きいんだから、ちゃんと洗わないとだろ?」


「もう……」


 谷間も、下乳も、先端も。丁寧に泡まみれにしていき、そのままお腹やおへそを通って、その下も優しく洗う。

 お尻に触れると流石に恥ずかしそうにしていたが、今は義妹なので、全く抵抗せずに顔を赤く染めていた。

 そして最後に太ももや足の指の間までしっかりと洗い、シャワーで泡を流してから湯船に入れる。


「はやくー」


「分かってるって」


 柿茉が早く一緒に入ろうと甘えてきたので、俺はなるべく急いで自分の体を洗った。




「ふふーん」


「ご機嫌だな」


 お湯に浸かると、柿茉はすぐに膝に乗ってきて、体を揺らし始めた。


「だってお兄ちゃんとお風呂に入るの好きなんだもん」


「そっか」


 俺も義姉弟の日のお風呂が好きなので、気持ちが解る。

 今の柿茉みたいに何も身に纏わない状態で甘えて、体中を自由に触られていると、全てを愛されていると感じる。当たり前の事でも、実感すると幸せになるのだ。


「脚はもう痛くない?」


「うーん。寝る時までは痛いかな」


「……大変だな」


 普通に脚をジタバタさせていたので平気と思っていたら、なんとも奇妙な返事が返ってきた。痛くないけど、まだ甘えたいという意味だ。




 お風呂から出たら、柿茉の体を拭いて、急いで保湿を始める。俺の体は適当に拭いただけなので、髪からは水が滴り落ちているが、気にする余裕は無い。

 棚に並んでいる柿茉の保湿セットを順番に手に取り、優しく肌を覆っていく。お風呂の後は乾燥しやすいから、時間との戦いなのだ。


「ありがとね、お兄ちゃん」


 ようやく全ての工程が終わり、柿茉に服を着せて、俺も服を着た。何もせずに身を任せていたお姫様しまは、汗を滲ませた俺を見て、満面の笑みを浮かべている。


「どういたしまして。このまま、歯磨きもするから、ちょっと、待ってくれ」


「はーい」


 流石に疲れたので、少し休憩して息を整えてから柿茉の歯を磨いて、自分の寝る準備も終わらせた。






「お兄ちゃん、寒いから温めて」


「まったく……」


 いつも通り暖房をつけて、裸でベッドに入ったのだが、柿茉は寒いと言った。俺は一度ベッドから出て、下半身に一枚だけ身に着けてから横になり、舌を絡ませながら、柿茉の胸を揉んだ。


「ん、もう、して」


 柿茉の準備が出来たみたいなので、腕を背中に回して、再び抱きしめ合った。

 全身で柿茉を感じている。抱きしめ合って、密着して、脚を絡める。素肌が擦れ合い、心の奥底から温まっている。


「ぁん……、ありがと。大好き」


 ――だけでは無い。今は身体の奥までしっかりと繋がっていて、快楽と幸福が溢れ出ている。


「俺も。大好きだよ」


 ――チュッ


 俺達は、最後にもう一度だけキスをした。

 熱い程の体温を感じながら、ゆっくりと瞼を閉じる。

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俺と幼馴染の親を結婚させた 炭石R @sumiisi

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