16話 銀色のタグの少女
「シズ…いやシズ殿!俺の故郷を救ってくれてありがとう!!本当にありがとう!!」
執務室にグリントさんと二人で通されるやいなや、シモンさんが執務室の床に手をついて全身で感謝を示し、声を震わせていた。
「あの…その……」
「シモン殿…シズさんが困っていますよ」
「あぁ済まないな…感極まってしまった…」
年上の人に下手に出られると対応に困ってしまう。
ズビズビと鼻をかんだシモンさんはもうギルドマスターの顔に戻っていた。
「元々、俺は報告された時から疑っていなかったのだが、他の職員の手前回りくどいことになってしまった。済まないな、シズ殿」
「あの…殿は…ちょっと」
「む…故郷の恩人には敬意を払いたいところだが…まぁそういうことならシズと呼ばせて貰おう」
「まぁ座ってくれ」と椅子に案内され、
向かいに座ったシモンさんが話を切り出した。
「実はな、エルドスートのジョシュア殿から通信魔道具でシズのことは少し聞いていた。特級の愛弟子がそちらに向かう。まだ小さな子どもだが実力は折り紙付きだとな」
ジョシュアさん…色々気を回してくれてたんだ。
「まさかいきなり英雄のような活躍をしているとは、さすがのジョシュア殿でも見抜けなかったようだがな!」
「英雄…あっ…これでわたし特級になれたりする?」
ハッハと笑うシモンさんに問いかければ、頭を掻いて難しそうな申し訳なさそうな顔になる。
「うーむ…それは難しいな…シズは戦闘能力も、そして心根も素晴らしい冒険者だと俺は思っている。だがそれだけで特級にはなれないな」
「そっか…」
シュンとなったわたしを励ますようにシモンさんは話を続ける。
「そうシュンとなるな!今回の活躍は十分特級に値するものだ、一等級になった暁にはこの働きをもとにすぐに特級になれるかもしれんぞ?」
「本当!」
「あぁ、嘘は言わん…だが…」
少し意地悪そうな顔になったシモンさんは続けた。
「シズ、お前さんはまだ3等級、それに1つも依頼をこなしてないじゃないか…これじゃ2等級の推薦もやれないなぁ」
「…そういえば」
冒険者登録をしてから色んなことがありすぎた。
かなり戦いを経験した気がするけど冒険者として依頼を受けていないことに気づいた。
「そこでだ、我がシルヴルカスト支部では近く大規模、かつ長期の魔域の調査を予定している。それに参加してみないかね?」
「調査?」
「そうだ…とはいえシズに期待する役割は主に戦闘になる。研究職の連中は最低限の実力はあるが、やはり戦闘が苦手だからな。彼らの護衛が主な仕事になる」
「…それなら、やる」
「決まりだな」と膝を打つと途端に気の抜けた雰囲気を出してシモンさんは笑いながら話す。
「いやいや助かった…ほらお前さんが仕留めたデカブツな、あれを見て研究職の連中が騒いでなぁ…『こんなやつが出るならギルマスもついて来てくださいよ!』だと…冒険者としての矜持は無いのかねぇ全く」
「それは無理もないのでは?…私も死を覚悟しましたよ」
「グリント、お前さんも鍛え直すか?ハハッ…まぁともかく!これで連中も黙るだろう?何せ仕留めた張本人が参加するのだからな!ワッハッハ」
シモンさんは笑っているけど、どう考えてもひと悶着あるよ。そのくらいわたしにも分かる。
思わず、グリントさんと顔を見合わせる。
グリントさんも同じ考えなのだろう、やれやれと肩を竦めた。
「シズ、明日メンバーの顔合わせをしよう。グリント、また狩人達にも協力を要請するが構わんな?」
「うん、大丈夫」
「えぇ、大丈夫です…シズさん、またよろしくな」
「よろしく、だね」
どうやらもう暫くグリントさん達と一緒に行動できるようだ。
顔合わせかぁ…どんな人がいるのかな?
「話は以上だ!…ところでグリント、シズ…この後、どうだ?」
グイっと杯を傾ける仕草でシモンさんが聞いてくる。
「構いませんよ、シズさんは何か予定があるかね?」
「ないけど…お酒はのまないよ」
「ワハハ、なら飯も旨い処にしよう」
「あぁ、うちの義理の息子と…それとベラさんも街にいるんだが一緒でも構いませんか?」
「げ…ベラさん帰って来てるのかよ…まぁ構わんが…」
「では声をかけておきます、集合はギルドの前で?」
「おぅ、それでいい…じゃあまた後でな!」
その後、シモンさんお薦めだというお店で食事会をした。
実は、お店で食べるのって初めてだったりする。
食事中にわたしにお酒を飲ませようとするシモンさん対それを防ぐリードさんの攻防があったり、ベラさんの毒酒でシモンさんが撃沈した以外は楽しい食事会だった。
次の日は森の調査メンバーとの顔合わせをしたんだけど、やっぱりひと悶着あった。
16歳くらいの若い冒険者が突っかかってきたんだけど、熊で驚かせたらすぐに大人しくなったね。
そして……
▽ ▽ ▽
▽ ▽ ▽
◎ ◎ ◎
約1ヶ月後……。
冒険者ギルドは若い男女で賑わっていた。
4月になり、暖かくなってきた頃…新たに冒険者を目指す若者が一斉に登録をするからだ。
なんとか依頼をこなして見習いからの卒業を目指す者、腰をすえて講習を受け、まずは知識を深めようとする者、気の合いそうな相手とパーティーを組む約束をする者、三者三様…それぞれのやり方で邁進していくだろう。
そんな若者の一団をすり抜けるように移動する灰色の髪の少女がいた。
ともすればその場の誰よりも幼く見える少女は、しかし強者特有の気配を纏わせていた。
仲間を探して声をかけようとした若者が少女の気配に気圧されたのか言葉を詰まらせる。
そのまま少女は髪を靡かせてあっという間に去っていってしまった。
受付のカウンターの前にたどり着いた少女は自身の等級を示す銀色のタグを取り出した。
「2等級冒険者のシズです。何か依頼はある?」
~To be continued
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