15話 実力者
道中は何事もなく、夕方前には街に着いた。
馬車の移動って結構大変…揺れるし座りっぱなしは辛かったから途中で降りて自分の足で走った。もっと高級な馬車なら揺れないらしい。
頑張って稼いでね、リードさん。
“シルヴルカスト”は大きさは“エルドスート”とより小さいだろうか?
ただし、外壁はエルドスートの物よりずっと高くそびえている。
かつての戦争の際に建てられた砦が戦後、そのまま利用され規模を大きくして街になったのだそうだ。
「グリントさん、あれ!大きな弩があるよ!」
「あぁ、あれはバリスタだな。サイズは別物だが矢を飛ばす原理は弩と同じだ」
外壁の上には大きな弩…バリスタというのか…それが幾つも並んでいて物々しい。
あれが当たればこの間の巨狼だって一溜りもないだろう。魔獣への備えがしっかりしている…あるいはまだ戦争を警戒しているのかも。
門の前には街に入る人や車が並んでいて、もう少し時間がかかりそうだ。
「ちょっと外壁を見てくる!」
「あ、シズさん!すぐに入門だよ!」
リードさんの声を後ろにして外壁に駆け寄る。
近くから見上げる外壁はさらに高く感じる。
エルドスートでは外壁近くに住んでいたのに、それでもなお高く感じるのだから相当だ。
ウズウズと体が動く。
「よし」と気合いをいれて魔法のイメージをする。
展開した〖魔法壁〗を階段のように外壁の上まで連ねる。一息に階段を駆け上がり壁の上に飛び上がると「うわ!?女の子?!」と兵士が仰天する。
「き、君!一体どこから…どうやって!?」と尋ねてきた兵士の問いには答えず、外壁の上を見回していると、やっぱりバリスタが目をついた。
「ねぇ、これどうやって使うの?」と兵士に尋ねてみるけど「え、あ、えぇ!?」とまだ困惑していて話にならない。
勝手に調べさせて貰おっと…なるほど…持って使うんじゃなくて土台に固定してあるんだ…キコキコと動かしてみると仕掛けで角度や向きが変わる。
近くに置いてある矢は全部金属でわたしの腕くらいに大きい。
「シズ!!何やっとるんじゃ!早く降りてきなぁ!」
「あ」
下を覗き込むと、ベラさんが杖を振り回して叫んでいた。戻らなきゃ…!
「お邪魔しました」と兵士に一言謝ってぴょんと壁から飛び降りる。
「ちょ、なぁ!!は!?」と叫ぶ兵士を置き去りに〖風布団〗で着地するとベラさんに頭をひっぱたかれた。
「あいたっ」
「勝手に外壁に上がったばかりか飛び降りるなんて何考えとるんじゃ!?」
「…ごめんなさい」
グリントさんも加わってお説教されてしまった…。初めての他所の大きな街に自分でも意外な程高揚していたみたいだ。
「まったく…ほれ、そろそろ入門じゃ」
「うん」
入門は入門証か銀貨1枚の支払いが必要みたいだ。
冒険者タグが入門証の代わりになるみたいだから門番さんに見せて問題なく街に入る。
「それでは私は客先を巡ってきますよ」
「あたしも顔見知りを訪ねて回るとするかね」
リードさんとベラさんは別行動ということで、わたしはグリントさんと冒険者ギルドへ。
ギルドマスターとは顔見知りなのだそうで、村での顛末やわたしの活躍を説明してくれるということだ。
門から真っ直ぐ行けばすぐに冒険者ギルドはあった。やっぱり立派で武骨な建物だ。
けれどエルドスートと比べると冒険者の数は少ない様子が見てとれる。
この街の多くの冒険者はこの街とエルドマインの間の移動の護衛が主な依頼らしい。だから街に留まっている冒険者はあまり多くないようだ。
スムーズに受付にたどり着いて、事情を女性のギルド職員さんに説明すると、すぐにギルドマスターに取り次いでくれた。
「グリント!よく来たな!」
しばらく待っていると張りのある声がグリントさんの名前を呼んだ。
現れたのは黒の波巻きの髪に面長のパッと見は50代手前くらいに見える男性だ。
「シモン殿、久しいですな」
「あぁ、本当に。それでその子が……」
「あぁ、彼女が村の救世主だ。シズさん、こちらがギルドマスターのシモン殿だ」
「はじめまして…シズ…冒険者です」
「シモンだ、よろしくな、シズ!」
ギルドマスター…シモンさんの差し出してきた手を取ると力強く握手される。
「それでだな…グリント、シズ。気を悪くしないで貰いたいんだが…」そう前置きをするとシモンさんは話を切り出した。
あの巨狼を調べたり、村に来た職員さんの見た現場の状況からするに、あの群狼の襲撃にわたし単独では対応しきれないだろうというのがギルドの結論だった。
特に巨狼はあの身体に加え2等級並みの魔素を持っていただろうということで、単独での撃破には相当の実力が必要になる。
わたしがほとんどの狼を倒したというには疑義が生じるとのことだ。
「グリントの話を疑うつもりはなかったんだが…流石にな…」
わたしを見下ろしてシモンさんは頭を掻いている。
うん…戦ったとこを見せたわけじゃないし…わたし、どう見ても子供だし、職員さんの前ではお酒飲んでひっくり返っただけだし…疑うのは当然だよね。
「それでだシズ、冒険者タグを見せてほしいのだが…」
「…?」
なんでも、冒険者タグには依頼の達成状況や、ギルドが認めた特筆すべき点を記録してあるそうだ。
それを見せてほしいということだけど…あれ…わたし、何か依頼やってたっけ…?
とりあえずタグを職員さんに渡して魔道具に通してもらう。
「えっ」
「おっ」
記録を見た職員さんとシモンさんが同時に声を上げる。
「登録1ヵ月足らずで飛び級の3等級、2等級への推薦…おまけに魔素量10000以上…」
「あの堅物のジョシュア殿が推薦か…」
シモンさんは「わかった!」と声を1つ張ると話を続けた。
「たしかに、記録上は実力は十分であるようだな!記録上は…な」
少し含みのある言い方をしてシモンさんはニヤリと笑う。
「だが、やはりまだ疑義があるのは間違いない!そこでだ…模擬戦といこうじゃないか、実力を見るならそれが手っ取り早い」
「模擬戦…誰と?」
わたしの疑問にシモンさんはさらに笑みを深め、告げた。
「もちろん、俺とだ」
▽ ▽ ▽
「よーし!シズは魔法士だったな!一発撃ち込んできていいぞ!実力を見せてくれ!」
かなり広めの屋外演習場でシモンさんと向き合っている。
距離は30mほどだろうか。
シモンさんの手には弓…それもかなり大きい…剛弓と呼ばれる類いのものが握られている。
ギルドのサブマスターだと紹介された男性と、村に来ていた冒険者さん、それとグリントさんも立ち会い人として少し離れた所から様子を窺っている。
グリントさんから伝えられたんだけど、シモンさんはあの狩人の村の出身。グリントさんの先輩にあたる人で“飛竜落とし”の二つ名を持つ弓の名手なのだそうだ。
「…どうしよ」
実のところ遠距離攻撃は得意じゃない…弩の再現は出来るけど威力はいまひとつだ。
[私がやりましょうか!]
[[絶対にダメ]]
[そんな!?]
悩んだところにウルスラが提案してきた…けどわたしとテラフィナで即却下だ。
ウルスラは絶望的なまでに加減が出来ない。
村での滞在中に試したけれど、何か魔法を使わせる度に周囲の魔素まで巻き込む大魔法になってしまうことがわかってしまった。
流石に模擬戦でやることじゃない。
[むぅ…じゃあいつもの通り、幻影でビビらせてやればいいんじゃないですか?]
[…なるほど]
要するに狼の相手が出来るだけの実力があると示せばいいんだ。…なら存分にテラフィナの力を見せつけてやればいい。
[テラフィナ…やるよ]
[飛びきりの幻影を見せてあげる]
「[恐気顕幻]」
創り出すのは…バリスタ…あの巨大な弩だ。
外壁の上にあったのより、さらに3倍くらい大きく。
[テラフィナ…なんかデザインが…]
[なかなかいい出来]
顕れたバリスタは…威圧するかのような赤と黒の配色に…骸骨の意匠が彫刻されていた…。
テラフィナって変に凝り性だよね…。
「えと…撃っていい?」
「いやいやいやいや本気かよ…」
開いた骸骨の口のような砲口を向けられたシモンさんの顔がヒクヒクとひきつっている。
バリスタがしっかりと実体化したということはシモンさんも恐れを感じているということだ。
バリスタの向きを変えて、立ち会いの他の人にも撃っていいか聞いてみたけど首を横にブンブンと振って全力で拒絶している。
「よしよしわかった!撃たなくていい!お前達もシズが見た目にそぐわぬ実力者だということはわかったな?」
シモンさんがうまい具合にまとめてくれたのでバリスタを霧散させる。
立ち会いの人も首を縦にブンブンと振っているし。ただ、グリントさんだけは笑いを堪るように口に手を当てていた。
「やれやれ、本当に撃たれると思ったぞ…しかしあのデザインはシズの趣味か?えらく悪趣味だな!」
「……えと…違うような…違わないような…」
[フフ…悪趣味!悪趣味だそうですよ!テラフィナ!]
[ウルスラ…うるさい]
[テラフィナ…わたしも、もう少し落ち着いたデザインが好きかなぁ…]
[シズが言うなら…そうする]
とりあえず模擬戦…というよりはわたしの査定みたいになったけど無事終わったみたいだ。
話があるからこれからシモンさんの執務室に来てほしいとのこと。
何の話かなぁ?
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