13話 それからどしたの

 ただ待ってもらうのも悪いということで、リードさんも冒険者さんも宴に参加している。

 お肉だけは沢山あるからね。


 リードさんは村と街を行き来している行商人さんで買い付けてきた品の中には度数の高いお酒…消毒にも使えるきっついヤツ…が樽であったみたい。

 あとは村では手に入らない塩とか嗜好品とかかな?


 怪我人がいた時の為に商品を載せた馬車を飛ばして帰ってきてくれたのに、あえなく酔っ払いの餌食になってしまったようだ。

 赤かった顔の皆がさらに真っ赤になっている。


 あ、ドナさん、お肉に塩をもう少しかけてください。

 え、これが美味しい?…薬師特製の毒スパイス?ベラさんのあのスープの味のやつかな?

 辛っ!辛いっ!抜けてかない!?

 え!?辛いままだと毒!?これで中和?!

 んぐっんぐっん…ぷは…はぁあ辛さが収まった…この飲み物美味しいかも…でも…あぁーなんだかポワポワするーー…………。


 ◇ ◇ ◇


「誰ですか!?シズさんに薬酒を飲ませたのは!」

「あ…ごめんなさい、私だわ」

「ドナ!あなたはどうしてお酒の席になるとそうやってふざけるんですか!」

「毒スパイスを使って貰ったのだけど、薬茶を用意してなかったのよ!」


 あー、騒々しいねぇ…せっかくのいい気分が台無しだよ。


「何を騒いでるんだい?」

「あぁベラ姉さん、ドナがシズさんに薬酒を飲ませてしまって…」


 見ればシズが顔を赤くして地面に椅子ごとひっくり返って寝息を立てている。


「ヒャヒャ、眠り上戸かい!気持ちよさそうに眠ってるじゃないか」


「母さん、何してるのよ…」とコロンを抱いたラナとリードだったか…ラナの旦那も加わる。


「リード、シズさんをベッドに運んであげて」

「あぁわかった。よっと…軽いな…本当にこの子が村を救ってくれたのかい?」

「えぇ、私達の小さな英雄様よ…」

「なら丁重に扱わないといけないな」


 リードに抱えられたシズはラナに付き添われて家までいくようだ。涎をたらして眠る様子は本当にただの子供だねぇ…。


「ん?」


 少し騒ぎが収まったと思ったら、皆がシズを、見送って杯を掲げていた。


 酒も肉も沢山ある。

 宴はまだまだ続くだろう……。

 だが一足先に英雄様はお休みのようだ。


「小さな英雄様に…乾杯じゃ」


 □ □ □ □


 んぁー…なんだかいい気分になったところまでは覚えているんだけど…記憶が曖昧だ。

 それにここは、ウルスラの真っ白空間だし。


「シズ、こっちです」


 呼びかけられてみればそこにはウルスラと…もう1人、艶やかな黒髪のわたしと同じくらいの背丈の少女がいた。


「シズ、聞いてください!私達、分離、しました!」

「…しました」


 分離………えっと…じゃあ……。


「テラフィナ?」

「そう」


 ウルスラとテラフィナが分離して…えっと…それは良かったんだっけどうだっけ?

 というか、これは……。


「夢?」

「違います!違います!シズは眠っていますけどちゃんと現実ですから!」


 紆余曲折あって、テラフィナはわたしの感じた恐怖で今の姿になったらしい。

 向き合ってみると顔もそっくりな気がする。


「分離したらまずいんじゃなかったの?」

「…それがシズを通して繋がっているので、今のところは特に問題無しです。ですよね、テラフィナ」

「そう。ただウルスラの制御からは離れたから、わたしの権能がさらに強くなれば何かあるかも。それと元は1つの神格だから互いに影響を及ぼし合う可能性もある…結局のところよくわからないというのが本音」


 テラフィナ…よく喋るようになったと思ったら話が難しいよ…。


「よくわからないけど、これからもヨロシクってことでいいんだよね?」

「そうですね!」

「そう…ヨロシクね、シズ」

「そうだ、握手しましょう!握手!」


 3人で固く握手をする。

 出会ってまだ1か月も経ってないけれど長い付き合いになりそうな予感がするなぁ…。


 ▽ ▽ ▽


「ここで本当は杯を交わすのがいいんですけどね!我ら3人、生まれた日は違えどもーって」


テラフィナは杯を掲げるような仕草で熱弁している。


「お酒はダメだよ、成人してからじゃないと」

「ん?」

「なにテラフィナ?」

「シズはお酒を飲んで寝た」


 え…そんな…わたしが…お酒を…!?


「シズ…顔を青くしてどうしたんです?」

「ウルスラ…わたし、死んじゃうかも…」

「えぇ!?」

「お酒は子供には猛毒だから成人するまで飲んじゃダメだって…」


 わたしの泣きそうな様子にウルスラは大笑いする。


「あはは、アハハハハ!シズっ!それは子供にお酒を飲ませない為の常套句ですよ!本当に死んだりしませんから安心してください」


 そうなの?…大丈夫かな?ウルスラ…信じるよ?

 安心しかけたところで、テラフィナが恐ろしい口調で割り込んできた。


「…子供は成人に比べお酒の毒を分解する力が弱い…だから中毒を起こして死ぬ可能性はたしかにある…」

「え…ええ…やっぱり死んじゃうの?!」

「ちょっと!テラフィナ!何でここで恐がらせるんですか!?」

「私は恐怖を司る神…大事な愛し子にお酒の怖さを教えておく必要がある」

「絶対役目違いますよね!?それ!」

「だってほら……シズを恐がらせたら権能が沢山手に入るから」

「この、邪神め!!」

「ウルスラ…わたし大丈夫だよね?ね?」

「シズ、大丈夫ですよ…大丈夫…飲んだのは薬酒ってことでしたからお薬でもあります!酒は百薬の長なんて言うくらいですからね!私もお酒は大好きです!」

「シズは一気飲みしていた…あれは危険」

「テラフィナ!もうお黙りなさい!」


 姦しくなった白い空間にウルスラの振り絞るような叫びがこだました。


「お酒は!!20歳になってから!!」

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