7話 訳あり

◇ ◇ ◇


「姉さん…シズさんは?」

「寝ちまったよ…赤ん坊は?」

「今、ラナが寝かしつけていますよ」


食卓に戻ると、皆が心配そうな面持ちで待っていた。

席についてドナが入れてくれた茶を一口啜る。

ん…懐かしい味だ…。

一服つけたところでマニがそろそろ聞かせろという風にせっついてきた。


「それで…シズさんはどういう子なんですか?ノンナさんの娘さんというわけでもないのでしょう?」

「知り合い…というほどのもんでもないんじゃがね…ここにつれてきたのも偶々じゃ」

「偶々?」

「別々に旅しとったんじゃよ。あの子はあの子で独りで国境を越えようとしていてね、道の途中でバッタリ出会ったから一緒に来ただけじゃ」

「それじゃ、シズさんも独り旅を?あんなに小さいのに?」


驚いたドナが口を挟んでくる。

ちょうどそのタイミングでラナも戻ってきたようだ。


「ラナ、コロンは大丈夫か?」


グリントがラナに尋ねる。


「驚いてしまっただけで怪我なんかはしてないわ…さっき寝たところ。シズさんは?急に涙を流してしまっていたけれど…」


ラナも心配そうにシズのことを聞いてくる。


「ちょうどシズのことを話ておったとこじゃ…まぁだいたいわかっとるとは思うがあの子はちょっと訳ありでね」


「大火事ですか?」とマニが察したように相槌を打つ。


「あぁ…あたしの家も焼けちまったが…あの子は身内をみんな亡くしちまってる…」


皆、なんとなしに分かってはいただろうが、言葉にして聞くと、唸りともため息ともつかないものを漏らして鎮痛な面持ちになる。


「コロンを抱いた途端に泣き出したわ…誰か腕の中で亡くしてしまったんじゃないかしら」


ラナが気づいたことを伝えてくる。

あたしも同じ意見だったから頷いて先を続ける。


「おそらくはそうじゃろうね……それでじゃ、あの子は火を怖がる。それと腕の中に誰かを抱くこともかね…もしかしたら他にも…だから…ちょっと気にかけてやっておくれ」


あたしの頼みに皆一様に頷く。

とりあえずはこれでいいじゃろ…。


「さて、湿っぽい話は仕舞いじゃ、あの子の笑える話をしてやるとするかね」


その後はシズが魔法を教わりに訪ねて来た話や、旅の道中の話。そのあとは、まぁ酒を入れて色々と話し込んじまった。

一度帰って来た時に仕込んでおいた30年物の毒酒がい~い辛口で最高だった。


1つ解せないのは、シズに色街のことを教えたくだりで皆に白い目を向けられたことだ…。

笑い話だと思ったんだがねぇ…。



□ □ □ □


「分離…しちゃいましたね…」

「分離しちゃったね」


真っ白な何もない空間で、2人の女神が向き合っている。

片や白、片や黒という正反対の印象の2人だ。

白い女神、ウルスラは純白の神衣に雪を糸にしたかのような白い長髪、瞳だけが黄金に輝いている。


黒い女神、テラフィナは黒いフリル付きの神衣の小柄な少女の姿で、艶のある漆黒の長髪、人形のような無表情の顔に氷のような冷たい蒼い瞳がはまっている。

その姿は可憐ながら、どこか恐ろしさを感じさせる。


2人の神はお互い、困惑したような様子で語り合う。


「きっかけは…先ほどのシズの哀しみですか?」

「そう、深すぎる哀しみは恐怖に昇華される…特に失う哀しみはそのまま失う恐れに…さっきので私はもうウルスラに依ることなく存在が保てるようになった、なってしまった」

「なんだか話し方も流暢になりましたしねぇ」


「うーん」と唸りながらウルスラはテラフィナに問いかける。


「分離して何か変わったでしょうか?私の方は何も感じないのですが」

「私もあまり…結局、私達はシズの魂と融合している。神として分離してもそれは変わらない」


「それに」とテラフィナは続ける。


「私はシズの中で目覚め、シズの恐怖で権能を、今の姿を得た。あの子は私の愛し子。これからもあの子の為に権能をふるう」


テラフィナの宣言にウルスラも慌てたように言い募る。


「わ、私だって!シズのおかげで消えずに済んだ上、名前まで貰いました!私にとってもシズは愛し子です!あげませんよ!」


テラフィナはウルスラをじっと見つめると、その手を取る。

「な、何ですか!?」と、たじろぐウルスラにテラフィナは真摯に語りかける。


「私はあの子の戦いを助けるくらいしかできない、あの子の心の傷を糧にして…」

「テラフィナ…」

「あなたは違う。あなたは間違いなくあの子の心を救った」

「あれはアマンダのおかげです。私は何も…」

「それがあなたの権能。死と生の狭間の女神、最後の願いの神、ウルスラ。それがあなた」


そこでテラフィナは少し表情を笑みの形に崩すと手を離した。


「ウルスラ、一緒にシズを支えてくれる?」


ウルスラは一瞬キョトンとした顔になるも、いつものとぼけたような笑顔を浮かべた。


「えぇ、もちろんですよ、テラフィナ…ただし!やり過ぎには注意してくださいよ?何て言っても邪神なんですから、あなたは!」

「……それはお互いさま」


ここに2人の女神は宿主たる少女にして愛し子、シズの為に権能をふるうことを誓い合ったのだった。


▽ ▽ ▽


「あ…ウルスラ、1つ聞いていい?」

「何ですかテラフィナ」

「急に話し方が変わったらシズはどう思う?」

「シズなら気にしないのでは…?そういえば、テラフィナは何となくシズに似てますよね、瞳の色とか顔とか」

「シズの恐怖で今の姿を得たから、似るのは当然」

「話し方も何となく似てます…」

「そう?」


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄


挿し絵

恐怖司る神 テラフィナ

https://kakuyomu.jp/users/Yutuki4324/news/16818093072821658814
















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