3話 思わぬ道連れ
旅支度を終えてカバンを一式身につけたら、最後に仮宿を崩してもとに戻しておく。
街を立ってからだいたい1日…追っ手の気配はまだ無い。
きっとグランマ達が上手く止めてくれているんだ。
体力的には余裕はあるし、天気も崩れる気配は無い。
今日で一気に進んでしまいたいな。
そういえば…ウルスラがわたしと一緒になったあの夜から、魔法の使いすぎでお腹が急に減ることが少なくなった気がする。
なんとなく魔素が馴染みやすくなったというか……聞いてみたけれどウルスラもテラフィナも理由はよく分からないみたいだ。
多分、魂の質が変わったからだろうってことらしい。
まぁ、戦ってる最中にお腹が鳴らないならいいことだよね。
早足で荒れた道をどんどん進んで、お昼ごはんを食べて、また歩いて……。
…だいぶ魔獣の間引きの範囲から外れてきてるし、いつ魔獣と出くわしてもおかしくない。
歩調を遅くして探知をしながら歩いていると、森側の茂みの中に反応を見つけた。
…この感じ…魔獣じゃない。人だ。
強い魔素…カルロスさんくらいだろうか?
人数は1人…まさか森を突っ切って追いかけて来た追っ手?
背負いカバンをおろしていつでも戦えるように身構える。
ガサガサと茂みの揺れが近づいてくる。
こちらに気づいたのか魔素の反応もピリッとしたものに変わった。
来ると思ったのと同時…それはカサカサと素早い動きで茂みから飛び出してきた。
「カアアアアアアア!!」
振り上げた杖を片手に、どうやったらそんな勢いが出るのかというスピード。
黒いぶかっとしたフードつきのローブのしわくちゃ顔の老婆が凄まじい剣幕で現れた。
ビックリしてびくっと体が一瞬すくんでしまう。
「なんじゃ人かね…えらい小さいもんでゴブリンかとおもったわい…」
老婆はこちらの姿を認めると振り上げた杖を下ろしてしわがれ声でやれやれという風にぼやいている。
「…お、おばばさま?」
わたしの呼びかけに「ん?」と首を傾げたその人は……
「おんやぁ…誰かと思えばアマンダのとこのチビかい!なんだってこんなとこにいるんじゃ?」
茂みから飛び出してきたのは薬師のおばばさまだった。
▽ ▽ ▽
「あんた、あの火事でよく無事だったねぇ」
「おばばさまこそ、無事でよかった」
なんだかんだでおばばさまと一緒に旅路をいくことになった。
おばばさまは元々、隣国の国境を少し越えた近くの出身でお店が焼けてしまったから故郷に帰る途中なんだそうだ。
「最低限の荷物は持ち出せたんじゃよ」…といいつつかなりの大荷物をわたしの〖魔法壁〗に載せて運ばせている。
「老骨にはこたえるわい」なんて言ってるけどここまでは1人で運んで来てるんだよね……。
なんというか…底知れない人だ。
「なんで森に入ってたの?」
狩りでもないのにわざわざ森に入るなんて危険だ。おまけに1人旅のはずなのに。
疑問を口にすると、そんなことか、と答えてくれた。
「魔獣除けの薬香が切れちまったから素材を採りにいっとったんじゃよ」
「ほれ」と籠に入った色々な葉や実、キノコを見せてくれた。
夜はそのお香を焚いて魔獣対策をして休んでいるそうだ。
薬師の
目を輝かせていたのがわかったのかおばばさまは
「興味があるかい?」と尋ねてくる。
コクコクと頷くと、おばばさまはヒヒっと笑って、「えぇじゃろう」と言ってくれた。
「ぼちぼち日も落ちてくるころじゃ…野営の用意がてら見せてやるよ」
「おばばさま、ありがとう」
たしかに日は傾いてきている。
そろそろ支度をしないといけないな。
昨日と同じように仮宿を作っているとおばばさまが目を丸くしていた。
「こりゃたまげたねぇ!もう一端の魔法使いじゃないかい」
「そういえばおばばさまに魔法を教わろとしたんだっけ」
「そうじゃったそうじゃった、あの話は結局あれきりじゃったが誰に教わったね?」
あの後、色街にいってグランマに魔法を教わることになった事を伝えるとおばばさまはお腹を抱えて「ヒャヒャヒャヒャ」と大口を開けて笑いだした。
しばらく笑い続けてヒーヒーと息苦しそうに喉を鳴らしながらようやく喋りだす。
「じゃああの後本当に色街にいったのかい!?ヒヒっ、とんだお転婆娘だよまったく!さぞアマンダも苦労したろうねぇ!ヒャヒャ」
おばばさまは、またしばらく笑い続けていたと思ったらピタリと笑うのを止めて真剣な眼差しになって尋ねてきた。
「…アマンダ達は?」
「…」
わたしが首を横に振って答えるとおばばさまは寂しそうに「…そうかい」と呟いてクシャりとわたしの頭を撫でた。
「辛いことを聞いちまったね…」
「ううん…大丈夫」
少ししんむりした空気を破るように作業を続けていく。
おばばさまが作業台も作ってほしいというので土を盛り上げて形を整える。
「いい出来じゃ…座って作業すると腰にくるからねぇ」
おばばさまは荷物からすり鉢とすりこぎ、小鉢なんかを取り出してドンと音をさせて置いていく。
重いと思ったらあんなものまで入ってたのか…。
おばばさまは材料の葉を手に取って魔法で水分を飛ばしているのか、どんどん葉が萎びていく。
他の素材も同じように乾燥させてからすり鉢でゴリゴリと粉末状にして素材ごとに小鉢に分けた後、手をかざしていく。
フワリとした淡い緑色の光が素材を包む。
魔法だろうか?何をしているかは分からない。
「薬師の魔法はね、こうした薬草の効能を高めたり逆に弱めたりできるんじゃよ」
「おーー」
薬師の魔法…そんなのもあるんだ!
「ま…どのくらい弄くるかは経験と勘じゃがの」
ヒヒっと笑いながらもおばばさまの手は止まらずに素材を混ぜていきあっというまにお香が出来てしまった。
「どうやって調整してたの?」
「鼻じゃよ、鼻。匂いで薬草の効果がどんなもんか判別するんじゃ…あんたがいい薫りのお茶を持ってるのも分かるよぉ」
「わ、すごい」
おばばさまは香を一つ手にとって、
森の近くまで持っていくとそのまま焚いてしまう。
匂いか……近づいて煙の匂いを嗅いでみる。
独特の匂い…鼻の奥がチリチリする…。
「……言っとくがそいつは毒の香じゃよ」
「ぶへっ」
あわてて鼻を摘まみながら煙を仰ぎながら距離を取る。
涙目になっているわたしを見て、おばばさまはまた「ヒャヒャヒャヒャ」と大笑いだ。
「ヒヒっ…ま、死ぬような毒じゃないよ…こいつを風で送って魔獣を遠ざけるんじゃ」
おばばさまは弱い風の魔法で煙を森の奥に広げていく。
たしかにあの刺激は鼻のきく魔獣には相当堪えるだろうなぁ。
「まぁあの仮宿で寝るならわざわざ薬香を焚かんでもよかったがね」
「えぇ…」
げんなりする一言にわたしは肩を落とすのだった。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
挿し絵
飛び出すおばば様
https://kakuyomu.jp/users/Yutuki4324/news/16818023214126556912
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます