2話 手紙

 不意にパチリと目が覚める。

 いつのまに眠っていたか分からないけれど、かなり深く眠っていたみたいだ。

 慣れない環境だからかな、思ったより疲れが貯まっていた。


 ウルスラとテラフィナがいるとはいえ一人旅で見張りは立てられないからもう少し気をつけないと……。

 と言っても警報だより…鳴ったらちゃんと起きられるかなぁ…。


 土の仮宿から這い出すとあたりは少し白んでいた。

 …6時くらいかな……。

 懐中時計はかなり値が張る…絶対必要ってわけでもないし……体内時計でなんとかなるから必要になったら考えよう。


 顔を洗ってから簡易食器に干し肉を刻んで入れて、魔法で出したお湯で煮て簡単なスープにする。

 硬いクッキーをモソモソと齧りながらスープを啜る。ん、まぁ、これはこれで美味しいかも……アマンダさんの朝ごはんを思い出してしまって少ししんみりする。


 縫い物セットを肩掛けカバンに詰め替えようとして、ポケットをごそごそやっていると薄い何かがもう入っていて手に角があたる。

 えっと……手紙?


 入っていたのは封筒に入った手紙だった。

 裏をひっくり返してみると特徴的な王冠のマーク…これはクラウン・マートの…ペニーさんのお店のマークだ。

 バーノンさんはカバンをクラウン・マートで買ったみたいだ。

 お客様宛の手紙なのかな?

 ペニーさんならこういう小粋なことをしてそうだ。


 封を切って中身を読んでみると、内容は予想に反していた。

 だってこれ…わたし宛の手紙だよ…。


 ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞


 静かな鋏の音のお嬢さんへ


 まずは汚い文字であることを誤っておこう。

 急いでしたためたもので丁寧に書けなかったのだ。


 あの火事があってから君が店にやってこなくなったので、大変心配していた。


 不安に思っていたある日、冒険者用のカバンを買いに大柄な男がやってきた。

 旅に出る冒険者への贈り物だというので贈る相手の特徴を聞いてみれば、すぐに君のことだと判った。

 私の知る限り、あんなに小さな冒険者は君くらいのものだったからね。

 それでこの手紙をしたためて内緒で入れさせてもらったのだ。

 君が無事でいてくれて、大変嬉しく思う。


 思えば、君は初めてあの店に来てから、私が店を開ける度に必ず来てくれていたね。

 君の鳴らす鋏の音の中、読書をするのが私の楽しみにもなっていた。

 私のつまらない話にも真剣に耳を傾けてくれる君はあの店唯一の常連客だった。

 君は…なんと言えばいいか…年の離れた友人のような存在…そう、大切な友人だ。


 まったく儲からない店だがまた君が来てくれるなら店を畳まずに待っていようと思う。

 旅の話を聞かせてほしい。


 いつかの安息日にあの店で、

 またの来店を心よりお待ちしております。


             奇妙な道化師より


 追伸

 もしまるで私の検討違いで手紙の意味が全く分からない誰かだったならクラウン・マートに持ってきてくれ。好きな商品と交換しよう。


 ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞


 蚯蚓が走ったような、かろうじて文字の判別がつく手紙をなんとか読みきった。涙が目に貯まって余計に読み辛かったよ。


「バーノンさんに言えばいいのに…相変わらず恥ずかしがりで回りくどいんだから…」


 手紙を丁寧に折り畳んで封筒に戻してから手帳に挟む。

 大切な物入れ…用意しないとなぁ…。


[シズ、今のは手紙ですか?]


 手帳をカバンに仕舞ったところでウルスラが話しかけてくる。


[うん…大切な友達からだよ…2人と出会ってからは、まだ会ってなかったね]


 あの街で明確に友人と呼べるのはペニーさんくらいだったような気がする。

 グランマ達はお世話になってる人って感じだったし。

 なんというか、お互い同じ空間で別のことをしていても気にしないというか…気が置けない人っていうのかな?


[どんな方ですか?]

[恥ずかしがりで回りくどくて、物知りで変な人…そうそう鋏の怪物の話をしてくれたのもその人だよ]

[こわいはなし、もっとしってるかな?]

[頼んだらきっとしてくれるよ、怖い話]

[シズも手紙を出してはいかがですか?]

[…うん、いいかも…内容考えるの手伝ってね]


 手紙…か…たしかギルド経由で送ることが出きるんだよね。

 街についたら、無事を知らせる手紙を書こう。

 ペニーさんに、グランマのお屋敷にも。


[お手紙ですかー…私も友神達に送りたいものですね…私が異世界にいると知ったらどんな顔をするでしょうか?]

[他の世界に手紙を送る…かぁ…]

[うーん…こわいことじゃないからむずかしいね…]


 魔法なら、もしかしたらそんなことも出きるんだろうか?

 ウルスラ、テラフィナは確かにこの世界に来た。

 だったら逆のことも出来るのかもしれない。

 それに…離れた場所に何かを送る…そんな魔法が使えたら便利だろうな。


 魔法の上達…新しい魔法の開発…旅の中でやっていけるといいな。

 あ…新しい魔法の名前はどうしよう?

 わたしのセンスはイマイチなんだ……。

 あ…そっか、ペニーさんに手紙を出せばいいんだよね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る