16話 闇闘
「シズ!!いけない!挑発だよ!」
グランマの声が届くけれど、もう体は止められない。怒りを抑えられない。
虚空に浮いたテラフィナの大鋏を握りしめ身体強化を全開に階段を一息に駆け上がる。
ガギン
跳びかかりながら突き出した大鋏をローレンスが懐から取り出したナイフに受け止められた。
そのまま払うように振るわれた腕に力負けして大きく体を弾かれる。
階段の上を飛ばされながらクルリと身を翻し空中で体勢を整え、背後に出現させた〖魔法壁〗を蹴って再び跳びかかる。
ギンッ ギンッ ギッ ギンッ
ぶつかり合う金属が甲高い音をホールに響かせる。
小振りなナイフなのに…まるで壁でも叩いてるみたいだ……!
「クッ…このっ!」
突き出した先端を上手く逸らされ体が泳ぐ。
崩れた体勢の隙を突かれまいと〖魔法刃〗を強引に放つ。
ローレンスは涼しげな顔で一瞬だけ魔素を放ち刃をかき消し、一歩踏み込みながら片膝を折り畳むようにして足を突きだす。
槍のような鋭い蹴り足が腹を襲う寸前に大鋏を割り込ませ衝撃を受け止めた。
「う…ガッ」
体が吹き飛ばされる。
階段を数段飛ばしに後ろ向きに転がり落ちグランマの足元でうつ伏せに倒れこむ。
諸手で床をつき跳ね起きた瞬間に展開した魔法壁にナイフが数本突き刺さり刃が少し壁を抜け、その鋭い先端を覗かせる。
壁が消えると同時、刺さったナイフが足元に転がり落ちた。
…あいつ…グランマにも当たるようにナイフを投げてきた…!
「シズ!落ち着きな!アンタらしくないよ!」
「……グランマ」
呼吸を落ち着けて、ローレンスを見据える。
…踊り場から動いてすらいない…真っ向勝負じゃ歯が立たない…。
グランマに力を借りればきっと勝てるだろう…でもそれじゃダメだ!
ジョゼの仇はわたしが討たなきゃダメなんだ!
「グランマ…部屋の隅に…巻き込まれないように…」
「あぁ…わかった」
グランマはわたしのお願いに応え、部屋の隅に背中を向け腕を組む。
臆するな…翻弄するんだ……!
使えるものはなんでも使え!
「〖
幻影の黒煙が階段をゆっくりと伝って這い上がる。
ローレンスは僅かに眉をひそめ、魔素を放ち黒煙をかき消した。
黒煙の消えた跡を2体の幻影の分身と並走しながらローレンスへと肉薄し一斉に大鋏を開く。
大鋏が届く前に、ナイフがわたしの首を裂く。
ケープごと首を切り裂かれ、血を撒きながら階段に落ち、したたかに段差に身体を打ち付けられる。
「シズ!?」
「…浅かったようでございますね」
グランマの悲鳴に遅れ、ローレンスの残念そうな声が段上から降ってくる。
首を抑えながら身を起こすと手が自分の血でベットリと濡れるのが感じられる。
…ケープが無かったら危なかった…。
追撃に備え、〖魔法壁〗を間に挟み油断無くローレンスを睨み、魔素を巡らせ首の傷を塞いでゆく。
「なんですぐにわかった…」
「目が惑わされるなら、目に頼らねばよいのでございます」
…気配を追われたの?…だったら…!
[テラフィナ!灯りを壊して!]
[権能、ながもちしないよ]
[このままじゃジリ貧…暗闇の怖さを教えてあげて]
[うん…いいよ]
パギイィイイイイイン!!
エントランスホールに存在した全ての魔星石が砕け、耳をつんざく音と閃光が空間全てを一瞬、塗りつぶす。
やがて余韻と共に暗闇が訪れる。
ポツリと波紋のような
「[〖
◇ ◇ ◇
振るったナイフが空を切る音が虚しく鳴る。
足音も気配も、血の匂いすら感じるはずなのに“ソコ”には何もいない。
まるで幽霊を相手にしているようでございます…いえ、ただの
時おり放たれる攻撃魔法だけは魔素の動きで察知できますが…今も私の周囲には無数の気配がこちらを窺っている様子がありありとわかります。
近づく気配に合わせて腕を振るってもナイフは何も捉えず、逆にその僅かな隙を確実に突くように衝撃が体を襲います。
あの大鋏は魔素から創られているようで察知を嫌い使っていないようで助かりました。
ダメージは蓄積しますが、さすがに少女の体術では致命傷には程遠いですからね。
魔法の照明を放つも瞬時に潰されてしまいます。
ただ一瞬だけ照らされたエントランスホールには少女と老女の他は誰もいないのは明らかでございますが…。
まさか目に頼らないと言ったばかりにこんなことになるとは…今は灯りが欲しくてたまりませんね…。
いまや階段の中ほどまで押し込まれ、先ほどまでとは立ち位置が逆転してしまいました。
ゾワリと背筋が粟立ちます。
…これは…上!飛び退いた直後、階段がバキバキと砕け飛び散る破片が跳ね散り、顔で弾けます。
咄嗟に腕で庇い、狭まった視界の先…暗闇よりなお黒い刃が寸前までいた空間を断ち割ったのが分かりました。
騎士団を屠った黒刃…あれはさすがに受け止めるのは無理そうでございます。
ふと、こちらを照らす灯りに視線を上げると、少女を小指の先ほどの僅かな灯りが照らし、その輪郭を闇に浮かばせていました。
そして、その手には大鋏が鈍く輝いて……。
灯りが消えた瞬間、殺気と魔素が膨れ上がり、一気に迫って参ります。
殺気の元へとナイフを連続で投擲すると少女がくぐもった呻き声を上げます…これは正真正銘…!
迎え討たんとナイフを構えた私の頭上。
エントランスホールの天井より音もなく落ちてきた“シャンデリア”に頭を打たれ、肉薄した少女の握る巨大な刃に身体を貫かれる冷たい感触を最後に、私の意識は闇に呑まれていくのでございました……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます