9話 娼館の戦い
◇ ◇ ◇
標的のいる色街から少し離れたところにある住居に押し入ってちょいと間借りさせてもらっている。
まぁすぐに出ていくから勘弁してほしいね。
もっとも勘弁してくれる誰かさんはもう生きちゃいないがな。
「客として潜らせた連中はそろそろ全員娼館に入った時間か……」
「だんちょー、俺たちもあっちがよかったすよ」
団員からブーイングがあがる。
緊張感のないやつらめ…でかい仕事だってわかってるのかね…。
「あほか…さすがにこの耐火服は持ち込めねぇんだからしょうがねえだろうが」
「今頃お楽しみ中なんすかねー?うらやましー」
「わかったわかった、拐ってきた女はお前達に一番に回してやるから…ちゃんと作戦は分かってんだろうな」
「客として潜った連中が娼館に火を放って、その騒ぎの隙に俺たち本隊が標的の屋敷に向かって焼き討ちをかける…いつもと同じっすね」
「おうよ、この耐火服で炎の中でも自由に動いて一方的に…てのが、うちのやり方だからな」
そうやって駄弁っているうちに色街で火の手が上がるのが見えた。
よしよし、作戦通りだな。
「よし、お前らいくぞ!」
「「うっす」」
◇ ◇ ◇
「なぁに?もうへばっちゃったの?だらしがないわね」
「いやぁあんたが激しすぎるんだって」
へらへらと笑う男はそういいながら服を着なおしている。
帰るつもりみたいだしあたしもドレスを着なおそうかしらね。
「一応、うちの店は朝までの料金なんだけど?ほんとにいいの?」
「いやぁ本当はもっと楽しみたいんだけど、仕事があんだよ」
「ふぅん…仕事ね」
ドレスを整えながら男に応対していると、私の背後で男が荷物の中から妙なマスクを取り出して顔に着ける。
「出来ればあんたを拐いたかったんだけどさぁ…団長が顔しっかり覚えられてるから相手させた女は殺せっていうんだ、わりいな」
「荷物確認のとき変なマスクだと思ってたのよ…プレイ用じゃなかったのね」
「いいや、プレイ用だ。これからあんたを焼きブぺッ」
男の言葉を遮り、握った拳を裏拳気味にマスクの中心に打ち込んだ。目の部分のガラスが砕け男の顔に拳の形の穴があく。
男はそのまま壁に豪速で叩きつけられズルズルと力なく滑り落ちる。壁はハッキリわかるほどに凹んでいた。
「もうイっちゃったの?やっぱりだらしがないわね」
妙な雰囲気の男だったから私に回してもらって正解だったわね。他の子が相手してたら危なかったかも…。
手についた男の血とか頭の中身とかを拭き取りながら部屋を離れる。
仕事とか言ってたわね…仲間がいるのかしら……あれ…なんだか焦げ臭い…っ!
マダム直轄の高級娼館から外へ出ると色街は様変わりしていた。
他所の娼館から火の手が上がっており、さらに色街の他の建物にも燃え広がろうとしている。
どこからかクランの魔法信号が繰り返しあがる…これは…襲撃を受けてるの!?
他所の娼館から気絶した女の子を肩に担いで私が仕留めた男と同じマスクの奴が堂々と出てくる。…男ね…勃ってるし。
私の姿を認めると男はずんずんと近づいてくる…マスク越しでわからないけど絶対下品な顔をしてるわね……御愁傷様。
「ここらの娼館はね!お持ち帰りは禁止なのよ!」
無警戒に近づいてきた男の股ぐらを蹴りあげると「ぎゅろろおろろお」みたいな人間のものとは思えないような絶叫をあげ、担いでいた女の子を放り出して崩れ落ちた。女の子を受け止めて、念のため男の四肢を踏み折っておく。
「エミリアさん!ご無事ですか!」
「エミリア!何がどうなってるの!?」
クランの若い子が次々に集まってきている。女の子を担いでるわね…まだ拐われそうになってる子がいたのね……全員救出できたかしら?
うちの娼婦達も無事なようね。
「色街が襲撃されてるわ。娼館の中から火をつけられた。水の魔法の使える子は消火をしてくれる?それと延焼を防ぎたいから激しく燃えてる建物の両隣は壊して。他のメンバーにも伝えてちょうだい」
「了解しました」
「うちの娼館の子は他所の娼婦や街の人達の避難誘導、まだ襲撃は続いてる、油断しないでね」
「おっけー、エミリア」
「それと敵は女の子達を拐おうとしてるわ…結構救出は出来てるみたいだけど注意して、行動開始よ」
指示を出したところで救難信号があがる……これはスラムの方角…スラムからも火の手が上がってる!?なんてことを!?
スラムの建物じゃあっという間に燃え広がるわ…!
「スラムが燃えてる…。あなた冒険者ギルドに行って報せてくれる?それと…あなたは騎士の詰所に…とにかく人手がいるわ、急いで」
スラムには大勢の人が住んでる…シズがいる…クランのスラム出身の子の家族もいる…状況はかなり危機的だけどやれることはやらなきゃ!
「私はスラムに向かうわ!こちらが落ち着いたらあなた達も来てちょうだい!」
言うが早いかスラムに向け走り出す。
敵の目的は…やっぱりマダムかしら?
あの方のことは心配するだけ無駄なのよね……。
屋敷は屋敷の面子で十分!
私は私でやるべきことをやるわ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます