8話 炎中の戦い
[シズ!シズ!!声が…!願いが…!]
ウルスラの声で目が覚める……なに……暑い……頭クラクラする…。
「っづっ!?」
壁に手をついた瞬間、熱さに手が跳ねる。
一体何が起こってるの?!
「〖開け〗!っ!?」
家の横の壁を開いた瞬間、熱風と煙が吹き込んでくる。
反射的に体に水を纏わせて外に飛び出した…煙を吸ってしまったみたいで息が苦しい。
朦朧としているところに炎とは別のチリチリとした感覚が近づいてくる。
咄嗟に身を投げ出すのとガギンっと音がしたのはほぼ同時だ。
わたしの背中目掛けて突き込まれた剣が大鋏に弾かれる。
「なにっ!?」
全身、赤黒いつるつるした革のような全身を 覆う装備に妙な形のマスクをした男がくぐもった声をあげ驚く。
[テラフィナ!]
[しず!たって!]
立ち上がって男と対峙しながら魔素を循環させてなんとか体の調子を整える。まだ頭がクラクラする。
…辺りは火の海だ…。
ダメ…考えるな…いまはこいつを……。
[しず、ごめん。
[テラフィナ?]
[まえに、つかいすぎた…]
[ハサミは?]
[だせる…あとはちょっときびしい…こわがらせないと]
テラフィナは本調子じゃない…人さらいのときは元いた世界で得た恐怖の残りで権能をふるってくれたみたいだから……。
それとあのときは人さらい達が恐怖を感じてたから存分に権能をふるえてたとも…。
「ちっ…おっかない姉ちゃんをなんとか引き剥がしたと思ったら標的のガキまで戦えるとか話が違うってぇの…ッラァ!!」
「っ!」
男はぐちぐちと何か言ってたと思ったらいきなり斬りかかってきた。手元に出した大鋏で咄嗟に受け止める。
ガギン ギン ガギン
繰り出される剣に合わせて両腕で力一杯鋏を振る。振る。振る。
ガキっギギギギギ
鋏を開いて挟みこむように振り下ろしを受け止めそのまま剣を斬り折るつもりで全力で持ち手に力を込める。
「んっぐうううう!」
「くそ、離しやがれ!…チッ」
テラフィナの権能がないとさすがに剣は斬れないか……。
男は剣から手を離し、後ろに跳んで距離を作ると手を前に突きだす。
男の魔素が膨れあがりジリジリとした圧を感じる。
「焼け死ね!〖
視界いっぱいに炎が広がる…地面をなめるように炎がこちらに向かってくる。
「〖水よ、壁となれ〗!」
ドジュウウウウウウウ
分厚い水の壁が炎を受け止め、水蒸気が辺りに充満する。
視界が一気に真っ白な蒸気と炎の色に染まる。
「くそ、何にも見えねえぞ!」
男の悪態が聞こえる…そっちは見えなくても…こっちは魔素でわかる……!
[テラフィナ]
[うん]
「[〖
◇ ◇ ◇
「くそ、何にも見えねえぞ!」
ガキめ…ここまで戦えるだと?
団長め…何がスラムのガキを殺すだけだ。
話が違うぜ…ったくよ!!
ガキの護衛についてた奴がいたが俺以外の4人にスラムを焼きながら逃げさせて、ガキから引き剥がしたところまでは問題なかったのによ……。どう考えても護衛の奴は俺達より強かった…さっさとしねぇと戻ってきちまう…。
「あ?」
水蒸気の向こうから影が突っ込んでくる…ガキめ…接近戦なら分があると思ってやがるな……。受け止めて直接炎を叩き込んでやる…!
予備の短剣を抜き、魔素を練りあげながら待ち構える。
ん?…ガキにしては…でかい?
〈グォオオオオオオ〉
「な!は!?」
水蒸気を突き破って出てきたのは…でかい灰色のクマ…森の死神、グリムグリズリーだった。その巨体とタフネス、巨体にそぐわないスピードから森系魔域において、3等級以下の実力では出会えば逃げることもできず死ぬとまで恐れられている猛獣が何故か目の前に迫っていた。
「な、な、なんでグリムグリズリーが!?」
意味不明な状況に魔法のイメージが吹っ飛ぶ。
必死になって突進を躱したところでゾっとする声が耳元で聞こえたような気がした。
「[恐れたね?怖れたね?]」
「[その恐怖はきっと実を結ぶ]」
「[あなたは恐怖を乗り越えられる?]」
「くそ!なんなんだよ!?」
起き上がってグリムグリズリーの姿を探す。
水蒸気で視界が悪い…マスクのガラスが曇ってきやがる…。
咄嗟にマスクを脱いで放り投げる。
「くるならさっさと来やがれ!デカブツめ!」
これでも魔素量は2等級冒険者並みはあるんだ…グリムグリズリーは強敵だが魔法を直撃させれば倒すことはできる!
そう考えて魔素を練り上げたところで…背後から気配を感じた…振り向こうとしたところで野太い前足に背中から体を押し倒される。
〈グォオオオ!〉
「な、なんで、後ろ」
手足をバタつかせたところで巨体をどかせるはずもなく爪が背中に突き刺さる。
「いぎぃいい!」
そのままミシミシと地面に押し付けられた体が軋む。
首の後ろに熱い呼吸と滴るヨダレの感触がする…あっ俺、喰われちま………
ゴギュリ
◇ ◇ ◇
自らの恐怖を糧に実体化したクマによって延髄を噛み砕かれて即死した男を視界から外して、燃え上がるスラムに目を向ける。
「アマンダさん!!何処!!」
声を張り上げながらクランの救援信号を打ち上げる。誰か…誰か…来て!
わたしの家がここだから………
崩れかけた自分の土の家の位置からアマンダさんの家を探す。
あ…これ…ここだ…燃え上がって崩れて……!
魔法で壁を作っては崩れた木の家の隙間に差し込んで…持ち上げてどかしていく。
早く…早く…早く…!
瓦礫が取り除かれて隙間に折り重なるようにしている人の姿が見えた。
「アマンダさん!!ウーゴさん!!」
ウーゴさんがアマンダさんに覆い被さるように倒れている。
瓦礫を必死にどかして二人をなんとか引きずり出す。
トニオさんとトンマさんは……いた!
双子も引きずり出し、4人を壁に乗せて燃える家から引き離す。
4人とも意識がない…息をしてない…体を水で包んで冷やして…あとは…あとは…なにをしたらいい?
わたしはいったいなにをしたらいい?
へたりこむわたしをまだ燃え盛るスラムが
赤く赤く照らしていた…。
____________________
挿し絵
恐気顕現 グリムグリズリー
https://kakuyomu.jp/users/Yutuki4324/news/16818023212945921754
どうしたらいい?
https://kakuyomu.jp/users/Yutuki4324/news/16818023212946027900
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