7話 嵐の前の

ジョゼが…死んだ。

あの子はもういない。

葬儀はアマンダさん一家とグランマ達とやった。

本当なら教会でお祈りをしてもらうとこだけど、まだ街の南側は公爵家の目があって危険だからって、街の北側の外でスラム式の葬儀をした。 

棺に寝かせたジョゼのからだを森で摘んできた花と薬草で飾る。

カルロスさんが神父さんの代わりにお祈りの言葉を唱えてくれて、それに続いてお祈りする。

“別れの火”はアマンダさんとわたしが担った。二人で1つのトーチを持って棺に火をつける。

…遺灰はわたしが空に送った。


全部…もう一週間も前のことだ……。

わたしはまたスラムの家で寝起きしている。

スラムの方が心が休まるだろうって。


公爵家の動きは無いそうだ。

グランマ達は警戒を緩めてはいないみたいだけど。

…グランマはわたしに謝ってた……ちゃんとジョゼを探していればって……。

でも違う…悪いのはわたしだ。

わたしがジョゼをちゃんと助けられていたら…怖がらせなければ…あの日ギルドの講習になんか行かなければ……ジョゼと出会ってなければ……。

1人きりの自分の家でずっとそんなことを考えていた。


[シズ…ジョゼ君はあなたと会えて良かったって…あなたと一緒にいたいって…]


ウルスラが話しかけてきた…いつもはもっとうるさいのに…やけに静かだ。


[ウルスラになんでそんなことわかるの……]

[わかるわ…ジョゼ君の最後の願いを聞いたもの]

[…ジョゼの…願い…]

[ジョゼ君はあなたとずっと一緒にいたいって……そう願ったわ]

[……]

[だからね、会わない方が良かったなんて考えてはいけないわ]

[…ジョゼの願いは…叶ったの…?]

[えぇ…いるわ…あなたと一緒に]


勝手に涙が溢れてきた…あの日、ジョゼを失ったときから全然流れなかった涙が。

ずっと自分を許せなかった…ジョゼはわたしと出会ったから死んでしまったんだって…きっと恨んでるって思ってた……。

少しだけ…心のつかえがとれたような気がした。

声は出なかった…涙だけが流れて流れて…気づいたら眠っていた。


□ □ □ □


[しず…ないてる…こわがってる]

[テラフィナ…あなたはシズの恐怖まで叶えるのですか?]

[…ううん…しないよ]

[そうですか……私もそうできれば良かったんですね…]

[うるすら?]

[いえ、こちらの話ですよ…]


◇ ◇ ◇


「はぁ…シズにあんな顔させちまうなんてね…アタシも焼きが回ったかね…」

「マダム…ですが…」

「あぁ…公爵家の…あの男の関与が無いとも言い切れないぜ」

「そうだ…警戒は弛めちゃいけないよ…だがね…全部がアタシの思い過ごしで…ジョゼはアタシのせいであんなことになっちまったんじゃないか…そう考えずにはいられないのさ…」

「……マダム」

「…仇は必ず見つけてやるぜ…公爵家だろうが誰だろうがな」


◇ ◇ ◇


「兄上!」

「フェルナンドか、どうした?」


フェルナンドが書斎へ飛び込んでくる。

ただ事ではないな…使用人を部屋から出して話を聞く態勢を整えてやる。



「7年前の件、詳細がわかりました!前騎士団長を締め上げてようやく…!」

「…報告してくれ」


フェルナンドは佇まいを直すと報告をはじめた。


「はい、まず7年前に処刑された男…クラウスという男ですが…父上の息子…我々の兄弟にあたる人物でした…」

「なんだと!?」

「さらに…その母親と思われる人物が…」

「ロクサーヌ…色街の女傑か!」

「はい、その通りです」

「つまり父上は若き頃にロクサーヌ殿と関係を持ち…さらに子ができた…か…だから刺客を差し向けていたのか…身から出た錆ではないか!!我が父ながら度し難い!」


なぜあそこまで執着していたか疑問だったが…そういうことだったか!


「話しはそれにとどまりません。クラウスという男は一度冒険者として街をでた後、13年前にこの街に戻ってきました。そしてスラムの女性を強姦したのだと…ローレンスが拷問により聞き出したそうです」

「……では子供が?」

「それはわからないようですが…」

「……それでジョセフィンドか…」

「!…ではジョセフィンドはスラムに?」

「おそらくな…間諜としてはあまりにお粗末だがスラムに紛れ込ませるには調度いい」


そこでフェルナンドはハッとしたように顔になった。


「あ、兄上!」

「どうした?」

「ジョセフィンドは帰ってきています!一週間前に!ローレンスが騎士に応対しスラムの子供の見間違いだと言っておりましたが、たしかに騎士が子供をつれ帰ってきています」

「ローレンスめ…隠したな…だがそうすると…」


思索を巡らせたところでバタバタという足音に中断させられる。

騎士が書斎へと息を切らせ現れた。


「何事だ?!無礼だぞ!」

「申し訳ありません!火急のことでしたので!街が…街の北側が燃えています!」


なんだと!?…まさか!


◇ ◇ ◇


《時間は3日程、遡る》


仮面に…フードを被った男が2人…主人と従者ってとこか…今度の依頼人様は…。



「ようやく傭兵が用意できたか…」

「申し訳ありません…何分、街の外から呼び寄せる必要がございましたので」

「それで…貴様が傭兵団の長か」

「あぁ、傭兵団『火蜥蜴の舌』、団長のリズラだ。あぁ言葉遣いは勘弁願いますよ、卑しい生まれなもんでね」

「ふん…それで?抜かりはないな」

「えぇ、そちらのご注文通りに数人ずつ団員をわけて街に入らせましたよ…それで俺たちは何をしたらいいんで?」

「私から説明いたしましょう…あなた方に依頼したいのはある人物の殺害です。標的は2人、1人は街の北側に居を構える色街のまとめ役、ロクサーヌという女性。もう1人は街の北西にあるスラムの壁近くに住むシズという子供です」

「色街のまとめ役はまだわかるが…子供をわざわざ俺たちに依頼するのか?」

「現在、色街及びスラムは冒険者のクランにより固められており生半可な間諜や刺客は即座に無力化されてしまいます。そのクラン…“マイファミリー”といいますがそこをまとめているのもまたロクサーヌという女性になります…またシズという子供はそのロクサーヌの血縁にあたります」

「ふぅん…ま、貰えるものさえ貰えりゃいいがね…わざわざ俺たちに声かけたってことはよ、俺たちのやり口は知ってるんだろ?」

「もちろんでございます」

「ならやり方はこちらに任せてもらう……それにこの依頼をやれば確実に俺たちは国のお尋ね者だ…はした金じゃ受けられんぜ」

「こちらを」

「どれ拝見」


こりゃ…魔金のインゴットか……本物だな…。


「前金としてそちらを…成功報酬としてさらに3つ同じものがご用意してあります」

「ははっ太っ腹だな!……いいぜ、交渉成立だ。いつまでにやればいい」

「早くだ!早くせよ!あの女も子供も…いますぐにでも殺すのだ!」


主人の方が口調を荒げて割り込んでくる…やれやれだ。なにを焦っているやら…。


「今すぐにってのはさすがに無理だ…下調べに準備だっている…3日後の深夜だ」

「わかりました、では詳細をご説明いたします」

「払った金の分はしっかり働いてもらうぞ!傭兵!」


▽ ▽ ▽


「団長!依頼はどうなったんで?」


寝泊まりしていた安宿に帰ると早速副団長が依頼について聞いてくる。

驚かせてやるとするかね!


「おう!交渉成立だ!ほれ!」

「重っ…金のインゴットすか?」

「バカか、たかが金なんかで依頼受けてくるわけがないだろ!魔金だよ魔金!」

「うっひょおお!めちゃくちゃでかい仕事やまじゃないっすか!」

「成功報酬であと3つ、くれるそうだ……ありゃあ貴族だ…それも相当位の高いな」

「たしかこの街の領主は公爵様じゃなかったですかい?」

「そうだ……あの依頼人、一見まともに見えたが…その実、完全に狂ってやがるぜ、なにせ手前の街に火をつけようってんだからな」

「それ…ちゃんと報酬もらえるんで?」

「なに、意地でも支払わせるさ。それにこの前金だけでも団員全員でしばらく遊んで暮らせる……それにだ、今度の依頼は娼館街に襲撃をかける…だったら、な、わかるだろ」

「へへっ…そりゃおいしい依頼っすね」

「よし団員全員、集めてこい。作戦を練るぞ!」

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