5話 報せ

「よくお休みになれましたか?」


ベッドで身を起こしているとローレンスさんが部屋にやってきた。


「はい…」


全く眠れなかったけれどそう答えてしまった。


「それはようございました…ジョセフィンドお坊っちゃま、ナサニエル様の用意が整いましたら私が呼びに参ります。それまでこの部屋から出ないようお願いいたします。お食事は私が部屋にお持ちしますのでどうぞごゆっくりお休みください」

「はい…」


そう言い残してローレンスさんは部屋から出ていってしまう。

ガチャと外から鍵のかかる音がする。

…やっぱりボクはこの家では1人なのかな……。


◇ ◇ ◇


「ローレンス!」

「これはフェルナンド様…騎士の訓練は終わったのですか?」

「とぼけないでもらおうか…昨晩、ジョセフィンドを騎士が屋敷までつれかえったそうではないか!騎士達から聞いたぞ!お前に預けたとな、なぜ知らせなかった!?」

「あぁ、そのことでございましたか……私が確認しました…が…たしかに似てはおりましたがジョセフィンドお坊っちゃまではありませんでした、別の…スラムの子供でございます」

「なんだと?だがジョセフィンドだと聞かれ頷いたと…」

「騎士達は暗がりで見間違えたのではありませんか?それに子供は人さらいにあっていたそうではないですか、気が動転して思わず頷いてしまったのでしょう」

「その子供はどこにいる?」

「ケガの治療をして昨晩のうちにスラムに送り届けて参りました」

「……」

「もうよろしいですか?」

「……時間をとらせたな」

「では、失礼します」


去っていく父上の専属使用人の背を見送る。

……傭兵だったとも冒険者だったとも聞くが…少なくとも只者でないことはわかる、得たいの知れない男だ。


だが本当にジョセフィンドではなかったのか…?

何かが引っ掛かる…調査を急がねば……。


◇ ◇ ◇


「戻ったぜ、マダム」

「お帰り、カルロス…シズはどうしてた」

「やっぱり落ち込んでたよ…昨晩はアマンダさんのとこで一緒に寝てたみたいだ。今朝からクレアと街の東側を歩いてジョゼを探してるよ」

「ジョゼはまだ見つからないのかい?」

「…クランを総動員して探させてるがまだ見つからない。…ただ昨晩、俺がお嬢を見つけてから1時間かそこらで騎士達の捕物があったそうだ。闇街でだ」

「偶然…てことはないね。じゃあジョゼは騎士に保護されたのかい?」

「それが…聞きに行かせたんだが、何処の詰所にもジョゼの姿はなかったみたいだ…騎士も子供は知らないと言ってる」

「ふむ……」

「なぁマダム…これだけ探して見つからないってのはちょっとおかしいぜ…また誰かに拐われたなんてことは…」

「…騎士に動きがあったのは間違いない…その原因がジョゼだったとすると……ジョゼは騎士に保護されてなきゃおかしい」

「だが詰所にはいなかったぜ?」

「……既に引き取られた…?」

「ジョゼは捨て子だろ?誰が引き取りにくるんだよ」

「いや…今の領主はまともなやつだ…そこの騎士ならジョゼの格好を見たらスラムの子供だとわかるはずだよ…だがジョゼは詰所にも居らず、スラムに確認に来てもいない…となると……騎士はジョゼがスラムの子供ではないと知ってたってことだ」

「おいおいまさか…領主のとこに?」

「一番可能性が高いのはそこだろうね……あの男…八方手が塞がって子供を間諜に仕立てやがった…!カルロス、すぐにシズとクレアを呼び戻しな!他の連中は厳重警戒、スラムと色街周辺を固めな!」

「わかった!」


カルロスが部屋を飛んで出ていく。

…今回の人さらい騒ぎは偶々だろうが…シズがもし瞳を見られていたら厄介なことになる……一波乱あるつもりで備えておくしかないね…。


◇ ◇ ◇


「グランマ!ジョゼは?!」


グランマに屋敷に戻るように言われてクレアさんと一緒に急いで戻ってきた。ジョゼが見つかったんだ、きっと!


「シズ…ジョゼを探すのは止めにするんだ」

「え…どうして!?」


そんな!ジョゼはまだ見つかってないのに!

グランマ…なんでそんなこというの…?


「シズ…今からする話をよくお聞き…いいね」

「……うん」


▽ ▽ ▽


グランマにされたのは…信じられないような話だった……。

グランマは…本当に血の繋がった大叔母さんで…それにわたしは領主様の…公爵家の血を継いでて……しかも、公爵家の人から狙われてる……頭がこんがらがりそう……。

おまけに、ジョゼは…その公爵家から送られた…わたしを探しに来た間諜?意味わかんないよ…!


「嘘!だってジョゼはわたしがスラムにつれて帰ったんだよ!」


そうだ…ジョゼはわたしがつれて帰って…ずっと面倒見てあげて…一緒に寝てあげて…わたしが……わたしの…大事な……。


「シズ…分かっておくれ…アンタの身が危ないんだよ」

「でも違ったら?…ジョゼは…ジョゼはどうなるの?1人なんだよ?」

「シズちゃん……たしかにジョゼ君のことは状況証拠を積み上げただけの推測です…ですが私達はそのもしもの危険に備えなければいけないんです…」


クレアさんまで……わたしはどうしたらいいの…?


「ジョゼは…あまり人数はかけられないがクランのメンバーに探させる。シズ…アンタはしばらく屋敷で過ごすんだ…いいね?」

「…………はい」


▽ ▽ ▽


「シズちゃん…眠らないんですか?」

「……うん」


そのまま夜になった…ジョゼはやっぱり見つからない…。

わたしは屋敷の部屋にクレアさんと一緒にいて…ジョゼが見つからないかと思ってベッドで横になってずっと魔素を探っている。


「眠らないと体を壊してしまいますよ」

「……うん」


……眠ろう……。

目を瞑って……枕を抱きかかえる。



[シズ…おねえちゃん…]


…ジョゼ?

ジョゼの声?


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